勇者はすごいんだ
「『ある力』、ある力っていったい何なのだろう。」
どの図書館のどの書籍にも、そこだけくわしく載っていない。勇者はどんな力を手に入れて、魔王を倒したのだろう。
僕が一番好きな勇者の本【無敵でない勇者】には他の書籍には載っていない、勇者の戦い方とか戦闘の合間で食べていたものとかが詳しく載っている。
でも『ある力』のこととか無敵じゃないといわれる理由の部分はいくら調べてもわからない。
「カノア、どこにいるの」
少し遠いところから僕を呼ぶ声が聞こえる。
「母さん、僕はここだよ!」
僕は母さんの呼ぶ声に父さんの部屋から応えた。
「またお父さんの部屋にいたのね。あら、カノアはほんとに勇者の本が好きねえ、もうボロボロじゃない」
母さんは少し微笑みながら嬉しそうに言った。
実は、母さんこそが僕に勇者の本を勧めてくれた張本人なのだ。
僕が何にも興味を持たなかった幼いころ、なんとか何かに興味を持ってもらいたくて僕にプレゼントした絵本が勇者のことを描いた絵本だった。そこから僕は勇者のことに興味を持ち、たくさんの勇者の本を読んだのだ。
「うん勇者はほんとにすごいんだよ!僕はそんな勇者のことをもっと知りたいんだ…!でも今僕が読んでいるこの本は一番好きな本ではないんだよ。今は貸しているからね...あ、そうだ母さん僕に何か用事があったんじゃないの?」
「そうそう、イオが家の前で待っているわよ」
イオというのは僕の生まれた時から仲良しの親友で、僕と同い年の14歳だ。
おそらく彼も僕と同じように本が好きだから、一昨日僕が貸した【無敵でない勇者】を返しに来たのだろう。
「イオ!お待たせ」
僕が向かうと彼の手に本は握られていなかった。あれ?本を返しに来たわけではないのか、
「カノア、ほんとにごめん」
イオは申し訳なさそうな顔をしてそう言った。
何かあったのだろうか。
「ごめんカノアに貸してもらったあの本、何処かにいっちゃったんだ。」
「え…あの本って【無敵でない勇者】のことだよね?」
「うん、、」
イオの今にも泣きそうな声に僕は何かわけがあるんだと察した。
「なにがあったか聞いてもいい?」
僕は真剣にイオに問いかけた。
イオは少しためらいつつもゆっくりと事の経緯を話してくれた。
「実は、、、」