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思い込み

作者: 直井郷

 本田大輔は、自身と同じくボードゲームサークルに所属している、一ノ瀬真央に好意があった。

 彼女と知り合ったのは、大学1年生の基礎クラスでだった。

 一ノ瀬とは、授業だけでなく、サークルも同じであるために関わる機会は多く、大輔は悪くない関係を築けていると思っていた。

 ただ、一ノ瀬は、誰に対しても優しく、打ち解けやすい性格をしているので、一ノ瀬には自分は単なる仲の良い友人の1人としてしか映っていないのだろうとも思っていた。


 そんな彼女だが、彼女の素顔についてあれこれ噂すると男子らも多かった。

 例えば、清楚な顔のウラで男性関係が派手だなどという噂だ。ただ、そうした噂は根拠のない憶測によるもので、大輔は一ノ瀬が耳にすれば傷つくのではないかと心配していた。

 そして、そうした噂を流している奴らは大抵が一ノ瀬にアプローチして失敗した奴らであり、逆恨みもいいところだった。

 それを周りも知っているからこそ、噂を鵜呑みにする人は少なかったが、自分のことがあれこれ言われているのを聞くのは、一ノ瀬にとって苦痛なものだろう。


 __________


 ある日、高校の同級生と会う機会があった。そんな同級生の1人が片想いをしていた女子に告白しようか悩んでいたら、他の男子に先を越されてしまったと嘆いていた。

 友人は、お前は、後悔するなよと繰り返し言っていた。

 一緒にいた他の同級生は、笑い飛ばして聞いていたが、大輔は他人事とは思えなかった。


 一ノ瀬に思い切って告白すべきなのではないか。そんな思いが強まっていた。ただ、一方で、今告白したところで断られるのがオチではないか。それならば、今よりもっと仲良くなってからの方が良いのではないか、という考えも生じていた。


「で、どう思う?」

 大輔は、ここまでの経緯を全て聞いてもらっていた梅原亮太に尋ねた。


 亮太は、同級生が集まった時は、都合が悪くいなかったが、大輔の高校の同級生かつ大学の同級生であり、親友だった。亮太とは腹を割って話すことのできる数少ない友人の1人だった。


「どうって……。簡単に決められないよ。それに、俺の責任重すぎないか?」


「勿論、最終的に決めるのは俺自身だけどさ。他の人の客観的な意見が聞きたいんだよ」

「う〜ん」

 亮太は腕を組んだ。


「確かに、一ノ瀬は男子の間で人気だし、告白を躊躇ってる間に他の男子に告白されて、付き合うって可能性はなくはないよな」


「やっぱ、そうだよな〜」

 大輔は分かりやすく頭を抱えた。

「いや、それは分かってるんだけど、不安なんだよな。今の状態で告白したところで、断られるんじゃないかって……」


 亮太はじっとこちらの方を見てきた。

「あのさ、大輔が実感としてどう感じているのか分からないけど、俺からしてみれば、大輔と一ノ瀬はかなり仲が良いように見えるぞ。正直なところ、実は付き合ってるってなっても驚く人は少ないんじゃないか?」


「え?マジで!?」

 思わず大きな声が出た。


「ここにきて、嘘なんて言わないよ。まぁ、そうだなぁ。後悔するくらいなら、不安が多少あっても告白した方が良いんじゃないかとも思うけどな」


「え?」


「ま、結果的に後悔するかもしれないけど。告白して、振られたとしても、自分の気持ちを伝えることができたって意味では、ある程度の満足感はあるんじゃないか?でも、告白を躊躇して、その間に他の男子と付き合うことになったら、あの時告白しておけばとか、自分でも付き合えたかもしれないとか散々後悔して、引きずり続ける可能性が高いだろ?」


「確かに……」

 亮太の言うことは最もだ。

 ただ、わかっていても今の状態で告白して玉砕するよりも、もっと仲良くなってからの方が……。

 いや、そもそもここからさらに仲良くなるとか本当にできるのか?


 よしっ‼︎ 大輔の中で決意は固まった。


「俺っ! 一ノ瀬に告白するっ!」


 突然の宣言に亮太は目を丸くした。そして、こちらに顔を寄せてくる。

「それはいいけど……。声、もう少し抑えろよ……」小声で亮太が言う。


「えっ?」

 周りを見ると、近くの席に座っている人がこちらの方をチラチラと見ていた。

 完全に自分の世界に入り込んでいて、ファミレスにいることを忘れていた。


 大輔は、咳払いすると、声を落として、改めて言った。


「ま、とにかく俺は一ノ瀬に告白することに決めたよ」

「……そっか。頑張れよ」


「よしっ!そうと決まれば、早速連絡するわ!」

「え?いや、告白するって決めたとはいえ、こんな急にしなくてもいいんじゃないか?」

「善は急げって言うだろ?」

「それは、そうだけどさ……」


 大輔の中には若干の焦りもあった。ただ、今の大輔を突き動かしているのは、ずっと悩んでいてようやく決断ができたからこそ、すぐに実行した方が良いという本能的な部分だった。


「でも、連絡するのはいいけどさ、どうやって告白しようとかは考えてるわけ?」

 亮太が本当に大丈夫か?と心配するように聞いてくる。


「ああ、それならアテがあるんだ。元々は、告白するつもりとかはなかったんだけど、ちょっとこれ見てよ」

 大輔は、スマホを少し操作すると、その画面を亮太み見せた。


「これ、ビッグサイトの展示スケジュールだな……」

「そう。で、これ見てよ」

 大輔は亮太に向けたスマホの画面を覗き込むようにして、画面を下にスクロールさせた。


 画面には、“世界のボードゲーム”というタイトルのスケジュールが映っていた。


「成程。元から誘うおうと思ってたわけか……」

「まぁ、そういうこと。今週末から始まるんだけどさ」


 大輔は、スマホでLINEを開き、一ノ瀬とのトーク画面を表示した。

 一ノ瀬とは基礎クラスが同じだったことやサークルが同じこともあり、ある程度のやり取りはしたことがあった。


「よし、じゃ早速連絡してみる……」


 大輔は、今週末のビッグサイトで開催される、ボードゲーム展に行かないかとメッセージを送信した。

 一ノ瀬に告白しようと決意はしたものの、やはり緊張するものだ。

 そもそも告白以前にこの誘いが断られてしまう可能性も十分にあるわけだ。

 画面越しでも十分に緊張する。


 メッセージを送信し終えてからすぐに既読がついた。

 大輔は、LINEのトーク画面に食いついた。思わず唾を飲み込んだ。

 既読はついた。どのような返信があるか気になってしょうがない。


「返事が来ない……。既読はついてるんだけどな……」

「まだ、既読ついたばかりだし、予定とか確認してたらすぐには返信できないだろ。大丈夫だって」

 亮太が大輔を落ち着かせるように言う。


 少しして、大輔のスマホがピコンと鳴った。LINE開くと、一ノ瀬から新しいメッセージが来ていた。


 恐る恐る、トーク画面を開くと、“2人でってことだよね?いいよ”と返信が来ていた。

 大輔は声を出さずにガッツポーズした。


「上手くいったみたいだな……」亮太が大輔の様子を見て言った。


「今週末、会うことになった」

 まだ、あまり実感はない。

「頑張れよ」

「ああ」


 _____________


 大輔は、大学の食堂にいた。

 食堂の端の席が空いているのを見つけ、腰を下ろした。

 右横の窓から、外の様子が見える。空は雲で覆い尽くされており、暗くどんよりとした天気だった。

 その様子は、まさに大輔の心の内を表しているようだった。


 ボーッとして外の景色を見ていると、誰かが近づいてくる気配があった。

「よっ」

「なんだ、亮太か……」

「なんだは、ないだろ」

 亮太が肩をすくめる。


「でも、どうしたんだ?明らかに元気なさそうだけど」

 大輔の様子を見て、真面目なトーンで尋ねてくる。


「いや、もうなんかどうでも良くなっちゃってさ」


 亮太は少し考えるようにした後、口を開いた。

「……。上手くいかなかったのか?その、この間、一ノ瀬と会ったんだろ?」

 正直なところ、あまり思い出したくはなかったが、亮太に話を聞いて欲しいという思いもまたあった。


「……。会ってないんだよね」

「はぁ?会ってないって……。直前に断られたとか?」

 予想通り亮太は驚いた様子だった。


「いや、俺の方から断ったんだよ」

「はぁ?どういうことだよ?」

 全く意味不明という表情をしている。


「別に、告白するのがやっぱり怖くなったから会うのをやめたとかいう訳じゃないんだ」

「いや、だったら、どうしてだよ?」

 亮太はますます困惑した様子だ。


「ちゃんと話すよ」

 大輔は、事の経緯を亮太に説明し始めた。


 ___________


 それは、先週、一ノ瀬に連絡をした後のことだった。

 一ノ瀬が誘いを受けてくれて、大輔は少し浮かれた気分になっていた。

 そんな中、大学帰りに自宅最寄駅近くの書店に寄る機会があった。目的の本はすぐに見つかったのだが、品揃えが豊富ということもあり、気がつくと、長い時間を過ごしてしまっていた。


 その日は、当日締め切りのレポートがあったので、足早に書店を出ると、ショッピングモールの方へ向かった。ショッピングモールを通り抜けた方が自宅へは近いのだ。

 大輔は、歩いている人たちを追い越しながらモールの出口へと向かっていたが、突如足を止めることになった。


 大輔の目の前を一ノ瀬が男と手を組んで歩いていたのだ。

 学生らしき男と歩いているのなら、周りに言ってはいないけど付き合っていたのかという多少のショックで済み、諦めがついたかもしれなかった。


 だが、そうなることはなかった。

 相手の男は、スーツ姿でどう見ても学生ではない。無論、大学の先輩と交際し、先に片方が社会人となるケースはあるだろう。だが、相手の男はどう見ても30は超えている。

 しかも、2人は、ショッピングモールから繋がっている、ホテルの中に入っていった。


 それを見た時、大輔の頭の中に今まで散々嫌悪してきた奴らが話していた噂がよぎった。根も歯もないデタラメだと一蹴していた噂はやはり本当だったのだと大輔は確信するに至った。噂は本当だったのだと、失望した。


 大輔は、そのまま帰宅してが、ショック拭うことができずにいた。そして、そのまま、自分から誘ったにも関わらず、断りの連絡を入れた。


 結局、週末は同じサークルの村井と川西と呑むことに落ち着いた。いわゆるヤケ酒というやつだ。


 ____________


 話を聞き終わった亮太は、成程、と頷いた。

「事情は分かったけど、噂が本当だって決めつけるのはどうなんだ?」


「どうって……。今まではデタラメだって思ってたけどさ、自分の目で見ちゃったからな」

「でも、見たって言っても、一ノ瀬の単なる知り合いだった可能性とかあるだろ?」

「単なる知り合いと腕は組まないだろ?かといって相手の男は父親にしては若すぎだったし……。あれ、いわゆるパパ活だろ」


 亮太は、まだ納得していない様子だ。


「決めつけるのは、早計じゃないか?兄弟って可能性もあるだろ?」

「一ノ瀬に兄弟はいない」大輔は亮太の意見を一刀両断した。


 亮太も流石に反論材料がないらしく黙ってしまった。


「悪いな、色々相談したのに……」

 大輔は亮太に謝罪した。


「……。その、なんというか、ちょっとキツい言い方になるかも知れないけど。一ノ瀬のこと本当に好きだったのか?」

「は?」

 亮太が何を言いたいのかよく分からなかった。


「さっきの話はよく分かったけど。確証があるわけじゃないだろ?本当に一ノ瀬のことが好きだったら、それでも一ノ瀬のことを信じるってならないのか?」


 亮太の言いたいことは分かる。ただ、ただ、散々噂を聞いていただけに現実のものとしか受け入れられない。

 そして、一ノ瀬のことを信じることができるほど、自分は一ノ瀬とはやはり親しくはなかったのだと自覚した。


「俺は、一ノ瀬のことは好きだったよ。でも、やっぱり信じられない。でも、後悔はしてない……」

 これは大輔の正直な気持ちだった。


「……そうか。分かった。悪い、変なこと聞いて」

「いや、良いよ」


 しばし沈黙が続く。


「ちなみに、一ノ瀬の方から何か連絡はないのか?」

「断りの連絡に返信があっても以降はないな。一昨日のサークルは俺が用事で顔出せなかったから分からないけど、昨日はサークル来てなかったぽいし、会えてないんだよな」


 正直、顔を合わせづらいから、安堵している自分もいた。


 ___________


 それから、2週間ほどが経った。残念ながら、いや大輔からすればありがたいとも言えるが、一ノ瀬とは未だに顔を合わせることができていなかった。

 ただ、一ノ瀬と会うことができないのも仕方がないことかもしれなかった。というのも、バイトや学業の関係で大輔があまりサークルに顔を出すことが出来なかったからだ。

 授業に関しても、1年生の頃と違い、必修科目が減少しており、同じ授業はわずかだった。それに加え同じ授業というのも大教室で大人数で受けるものが多く、顔を合わせる機会は少ない。

 つまり、現在はサークルが2人が会うことのできる、主な場なっていた。


 ただ、ここまで長い間、やり取りをしていないと、かえって顔を合わせづらくなるものだと感じていた。


 そんなこんなでボーッと考え込んでいると、いつの間にか授業が終了していた。周りの学生も続々と教室を出て行っている。

 大輔も筆記用具などをしまい、席を立ったところで、背後から声をかけられた。

 亮太だった。こうして会うのは、久しぶりだった。


「相変わらず、考え事してるのか?」

「まぁ、色々とな……」


「その様子だと、まだ一ノ瀬と話せてないっぽいな」

 大輔は、はぁーっと息をつき、頭を掻いた。

「俺の方も忙しくて、会う機会逃してるんだよな」


「成程な。で、これから学食?」

「そう。行くか」


 大輔は荷物をまとめて、亮太と共に学食に向かおうとした時、亮太にトントンと肩を叩かれた。顔を上げると、目の前に名前は分からないが、見覚えのある人物が立っていた。

 彼女は、一ノ瀬の友人だった。金髪で一ノ瀬とは正反対の人物のように見えたのでよく覚えていた。


「本田君で合ってるよね?ちょっと話があるんだけど……」

 その声には怒気が含まれているように感じられた。


 横目で亮太を見ると、先に行ってるなというように小さく頷くと教室を出て行った。大輔としては、何やら険悪なムードが漂っていたので一緒にいて欲しかった。


「それで、話っていうのは?」


 彼女はその質問には答えず、「ここじゃあれだし、場所変えない?」と言うと、さっさと教室の出口に向かった。

 大輔も慌てて後を追う。

 正直、人目につく教室で話を進められるのは避けたかったのでありがたい提案だった。


 大輔たちは、教室を出て、右側の廊下奥に移動した。この先は教室がないので、途中で誰かが来ることは恐らくないだろう。


 一ノ瀬に関する話だというのは考えるまでもない。

 一ノ瀬が彼女に何か言ったのだろうか?


 大輔はゴクリと唾を飲み込んだ。

「それで、話って……?」


 彼女はふぅーと深呼吸した。静かに怒っている印象だ。

「まず、一応名乗っておくね。私は、水崎葵。一ノ瀬、真央とは高校からの友達」

「よ、よろしく。俺は、本田大輔」

 少しぎこちなくなってしまう。


「最近、真央と話したりした?」

 やはり、一ノ瀬のことだ。


「いや、なかなか会う機会がなくて……」

 別に避けているわけではないし、嘘をついているわけではない。


「ま、そりゃそうだよね」

 ん?どういうことだ?


「ところでさ、なんで真央との約束断ったわけ?そっちがそもそも誘ったんだよね?」

 いきなり来たか、と思った。

 ただ、本当の理由なんて言えるわけがない。それにどう答えるかなんて考えてもいなかった。


「いや、その……」

 大輔が言い淀んでいると、水崎が口を開いた。


「あんたさ、何であんなこと言ったわけ?」その声には明らかに怒りが含まれていた。


 だが、水崎の言っていることがよく分からない。一ノ瀬には何も言っていないはずだ。


「あんなことって何のこと……?」

 大輔はおずおずと尋ねた。


「は……?本気で言ってんの?」

 水崎はなんとか怒りを抑えているという感じだった。だが、大輔を見る目が鋭くなっている。


「あんたが、あんたが広めたんでしょ!真央がパパ活してるって噂‼︎」

「は?お、俺はそんなことっ……」

 そこまで言ったところで、大輔はヒヤリとした。

 村井と川西の顔が思い浮かぶ。


「その様子だと、やっぱり心当たりがあるんでしょ‼︎」

「ち、違っ。俺は……」


 心臓の鼓動が早まっていく。顔を上げていられなかった。

 あのヤケ酒をした日、自分の感情の思うがままに村井と川西にぶちまけてしまった。村井と川西のせいにはできない。


「知ってる?真央は、ここ2週間近く大学来てないんだよ」

「え?」


「そりゃ、これなくなるよ。楽しみにしてた予定が延期になったと思ったら、週明けのサークルでパパ活してるって噂が広がってたんだから! 」


 大輔は顔を上げていられなかった。

「今、真央入院してるんだよ。」水崎は拳を握りしめていた。ブルブルと体を震わせている。


 え?入院ってどういうことだ?


「入院って……?」

「自殺……。自殺図ったのよ」


「自、自殺……?」

 現実のこととして受け入れられなかった。

 体の穴という穴から冷や汗が出ているのが分かる。


「分からない?それとも、噂されたくらいで、どうしてとか思ってる?」

「そんなこと言ってないだろ!」


 こちらが怒る筋合いがないとは分かりつつも、思わず言い返した。


「真央は今までも色んな噂をされて、落ち込むことは少なくなかった。今回みたいにパパ活してるっていうように噂されることだってあった。それで、落ち込んでもなんとか耐えられてた。でも、今回は、耐えることが出来なかった。そりゃそうだよね、その噂を流したのが好きだった人だったんだから」

「は……?」


 今なんて言った?頭が上手く回らない。

 すると、つまり……。


「知らなかった?真央はね、あんたのこと好きだったんだよ!私は、よく真央からあんたの話聞いてたから。分かる?自分が好きだった人が自分の根も歯もない噂を流したって知った時の気持ちが」


「……。」

「ねぇ、本当に真央のこと好きだったの?」

「え……?」


「真央が本当にパパ活するような子だって思ったわけ?本当に好きだったなら、信じれなかった?」

「そ、それは……」

「即答できないんだ」

 水崎の一言一言が大輔の心を抉る。


「一応、言っておくけど。真央は腕を組んで歩いてたのは、真央の従兄弟だよ。年が離れているね」


「……。そ、そんな……」


「あんたに真央を好きなんていう資格ないよ!」

 大輔は項垂れる他なかった。


「じゃ、話は終わったから。本当は、ぶん殴ってやりたいけど、それは我慢してあげる」

 水崎は、大輔の反応を見る間も無く、大輔に背を向けると、さっさと引き返して行ってしまった。


「ま、待って」

 大輔は、思わず、水崎の腕を掴んでいた。


「ちょ、何!?」

 水崎が大輔の腕を振り払った。


「ご、ごめん。その、一ノ瀬が入院してる病院って……」

 水崎から一ノ瀬話を聞いたからには、とにかく謝りたかった。


「まさか、お見舞いに行きたいとか言うつもりじゃないよね?」

「いや、謝りたいんだ、一ノ瀬に」

「今更ふざけないでよ! それに、本当に真央に申し訳ない思ってるなら、もう関わらないで!」


 水崎はそういうと、今度こそ本当に立ち去った。


 __________


「あれっ、大輔?話はもう終わったのか?」

「ああ、一応ね」

「大丈夫か、お前?」

「……。別に、大丈夫だよ」


 そうだ、大丈夫だ。水崎にも言われたが、一ノ瀬は本当に好きなひとではなかったのだろう。そうだ、そうに決まっている。

 本当に好きな人であれば、信じることが出来たはずだ。


「ああ。本当に問題ない」

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