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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最悪の目覚めと最高の目覚め

作者: あらうさ(´Å`)

 夕暮れ。


 日は傾き闇が迫ってくる時刻。


 俺は公園に立っていた。


 見回すと俺以外誰もいないーーー人は。


 公園の外に影がぽつんと出来る。


 それは一つ、二つと増え、少しずつ公園を取り囲む。


 子供のような格好の影、大人のような影、大小さまざまな影。

 

 少年は口を開くが、声が出ない。


 そうしてる間にも影は一つ、また一つと増え続ける。


 俺は逃げ道を探す。


 しかし既に出入口は固められている。


 次の瞬間、


 大勢の影が一斉に押し寄せてくる。


 少年は逃げ惑うが八方塞がりだ。


 俺は影にもみくちゃにされる。


 影達は少年の体を引っ掻き、肉をえぐっていく。


 俺は声にならない悲鳴を上げるが、影達はおかまいなしだ。


 少年の皮や肉はどんどんそぎ落とされ、やがて骨になる。




 そこで目が覚めた。


 少年は高鳴る動悸とびっしょりの汗に包まれ、


「最悪の目覚めだ」


 言葉に出す。



 登校。


 俺は通学路を歩いていた。


 俺は竹下寝夜たけしたしんや中学2年だ。


 寝夜は片手にパン、片手にコーヒー牛乳を持って食べ歩きをしている。


 夢のせいで目覚ましの音が全く聞こえなく、少し寝坊したのだ。


 食欲も無いのだが、食べないと昼まで持たない。


 そこに一人の女子がやってきた。


「おっはよー!」


 明るく声をかけてくる。俺と同じ中学2年、片倉添音かたくらそいねだ。

 

 添音は俺の顔を覗き込むと、


「また悪い夢でも見たの?目の下にくまが出来てるよ」


 こいつには事情を話してある。


「ああ。今日もまた最悪の夢を見た。これで一週間連続だ」


 俺はパンをほおばりながらコーヒー牛乳を飲む。気分はかなり重い。


「大変ねー」


 添音が俺の顔を覗き込んでくる。そして、


「じゃん!」


 一枚のチラシを鞄から取り出した。


「?」


 怪訝に思う俺をよそに、


「あなたの好きな夢を見せます!睡眠の事なら何でもお任せ!」


「なんだその胡散臭いキャッチコピーは」


 半眼で添音を見返す。


「失礼ね!寝夜の為に持ってきたの!」


 俺はため息をつき、


「どこで手に入れたんだそれ」


「んー?玄関のポストに入っていたの」


 寝夜は歩くスピードを少し上げ、


「ほら。早く行かないと遅刻するぞ」


 添音を促す。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」



 放課後。


「ねぇ行こうよぉ寝夜ぁ」


 添音はぴらぴらとチラシをはためかせる。


「そんな怪しい広告で夢見が良くなるなら誰も苦労しねぇよ」


「もしかしたら、って事もあるでしょ?」


 添音は寝夜の腕を組んで、


「ほら、場所も近いし、さっさと行きましょ」


 寝夜を誘導する。



 そして路地裏。


「ほんとにこんな場所に店なんかあるのか?」


「場所はここで合ってる筈よ」


 添音は前をすたすた歩いてゆく。


 すると、一軒の店がネオンを明々と点けて路地裏を照らしていた。


 俺はネオンの文字を見る。


『夢渡寝具店』


 そう記してあった。


「いらっしゃいませ」


 唐突に声がした。声のほうを向くと、一人の男が立っている。


「私は夢渡。この店の店長です。何かお探しですか?」


 にこやかに語り掛けてくる。店長というよりは物腰の柔らかい執事のほうがしっくりきそうな人だった。


「あの、私達このチラシを見て来たんですけど」


 添音がチラシを見せる。


 店長はにっこりとほほ笑むと、


「ええ。夢見枕ですね。多数取り揃えております」


 添音は感動したように、


「すごい!本当だったんだ!」


 両手を頬に当てて喜ぶ。


 しかし俺は、


「もし望んだ夢を見れなかったら返金してくれるんですか?」


 突き放すように言う。


「もちろんです。しかしその心配には及びませんよ、お兄さん」


 そして店長は二人を奥に勧める。


 中は意外に広かった。寝具や枕がバランス良く配置されている。


「して、今日はどういう夢をご所望でしょうか?」


 店長が聞いてくる。


「大勢の女の子とイチャイチャできる夢を」


 俺は即答する。


 添音は口をぷぅーっと膨らませる。


「私は!好きな男の子とイチャイチャできる夢をお願いします!」


 寝夜は半眼で、


「お前も変わらねぇじゃねぇか」


「違いますーだ!」


 店長はにこやかに、


「二人ともお若いですな。勿論ございます。ご所望の枕が」


 枕コーナーに行くと二つの枕を持ってきた。


「これがご所望の枕です。1個3000円効果は3日です」


「3日で3000円!」


 俺たちは驚く。


「そこのお兄さんは2個もあれば今の状態から抜け出せますよ」


「ぐ・・・!」


 背に腹は代えられない。とりあえずお試し1個で。


「私は買えるだけ!」


 ぶっ!


 添音は親のクレジットカードを取り出す。


「すみませんお嬢さん。枕は一人につき一日一個までとなっておりますので」


「ええーっ」


 ぶーたれる添音を引きずって二人は帰路に就く。



 その夜。


「うははははは!」


 俺はバニーに囲まれて幸せな夢を見ていた。


 昨日までの影はというと、消えてはいないものの、隅っこで1匹もぞもぞとしてるだけにになった。どうやら近づけないらしい。



 翌朝、通学路。


「いやーあの店、本物だったんだな」


「そ、そうね」


 添音はもじもじしている。


「?」


 構わず続ける。


「明後日あたりまた行こうぜ」


「そ、そうね」


 それから二晩、二人は良い夢に埋没した。



 四日目。


「いらっしゃいませ。今度は何をお探しで」


 夢渡店長が笑顔で出迎える。 


「使い切れない金で遊ぶ夢を」


 俺はまた即答する。


「わ、私は・・・好きな人と最後の一線を越える夢の枕ってあります?」


 添音がよく分からないことを言ってるが気にしない。


「はい、ございます」


 店長はそう言うと枕を二つ持ってきた。



 その夜。


「うははははは!この国買った!」


 寝夜は札束に埋もれる夢を見た。


「国民も法律も全て俺の物じゃー!」



 そして七日目の放課後。


「すいませーん」


 夢渡寝具店のドアを二人でくぐる。


「ああ、お二人共いらっしゃい」


「また枕を買いに来たんですけど」


 店長はにっこり微笑んで、


「はい。店は明日で閉めますけど、ゆっくり選んでいって下さい」


「え!?」


 二人は驚愕する。


「あ、明日が最後の買い物になるってこと!?」


 添音は戸惑いを隠せない。


「ああそうだ寝夜さん」


 店長が枕を一つ持ってくる。


「これ、新製品です『最高の目覚め』を得られる枕です。使ってみてくれませんか?」


「いいんですか?」


「はい。貴方に使われると、この枕も幸せだと思います」


 俺は枕を受け取った。



 その晩の夢の中。


 寝夜は公園にいた。


 一週間悪夢で見た公園だ。


 どういうことだ?


 また影に捕らわれるのか。


 俺は辺りを見回す。


 影が一つ、二つ、増えてゆく。


 しかし今までの夢と違う。


 影は俺のほうにではなくブランコに集まり、もぞもぞとする。


 その影の塊から、人の手や足が吐き出される。そして首がごとり。


 そこで目が覚めた。


 どっ、汗が噴き出る。


 俺はベッドを降り、学校にも行かず、夢渡寝具店に向かった。


「店長!」


「おお、お兄さんいらっしゃい」


 寝夜は店長を掴む。


「どういう事ですか!?あの枕は『最高の目覚め』を得られる枕じゃなかったんですか!?」


 店長は掴んだ手を放し、


「ええ。そうですよ」


「じゃあ、なんで!」


 店長は指を立てて、


「最悪の夢から目が覚めて解き放たれる。これこそ『最高の目覚め』ではありませんか」


 俺は言葉も出ない。


「それより、君は行かなければならない所があるんじゃないですか?」


 寝夜はハッとする。そうだ。行かなければ。


「これを持っていきなさい」


 店長は紙袋を渡す。中には枕が入っていた。


「『逆夢枕』です。きっと役に立ちます」


 俺は頭を下げてその場を発つ。


 駅まで行き、そこから乗り継いで新幹線に乗る。


 新幹線で3時間くらいの場所で降り、急いで向かう。


 公園へと。


 駅までの時間と駅からの時間でかなりかかってしまった。


 夕暮れの公園で、俺は見た。


 ブランコの傍でもぞもぞと蠢いている黒い物体を。


俺は全力でダッシュし、紙袋に入っていた枕で黒い物体をはたき続ける。


 黒い物体は次々と祓われていく。


 最後に残ったのは、


 着物を着た女の子だった。


 女の子は驚いた表情で呟く。


「寝夜・・・?」


「遅くなって済まない。昼根」


「寝夜だ!」


 女の子は寝夜に抱き着く。




 その昔、一人の少年と一匹の妖の娘がいた。


 二人は大層仲が良く、いつも一緒だった。


 ある日、二人はいつも通り、待ち合わせの約束をした。


 しかし女の子がいくら待っても少年は来ない。


 少年はその日、大事故に遭い都市部の大病院へと運ばれたのだ。記憶も少し失っていたのが災いした。そのままその地で少年は暮らすことになった。


 そして今。


 少女はぽろぽろと大粒の涙を流す。


「寝夜ぁ。もう離れないでぇ・・・」


「ああ済まなかった。これからはずっと一緒だ」



 この物語はこれにておしまい。

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