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奈落②

 横穴の中は意外と狭く、三人は壁にもたれるようにして足を伸ばした。


「さみぃな」とレツが零し、ミーナが弱々しく「そうね」と頷く。前に置いたランタンが足元を温めてくれるおかげで震えるほどの寒さではないが、それでもやはり寒い。


「話でもして気を紛らわせようか」とセトが提案した。「静かにしてるのがこういう時一番良くないんだ。無駄話でも何でもいいから、楽しい気持ちを保つんだ」


「じゃあ私から」ミーナが手を上げた。「レツ、あなたはどうして、武器を作らなくなったの?」


「俺かよ……」レツは溜め息をついた。


「だってやっぱりおかしいじゃない。あなたが武器を作らなかったなんて。お父さんだって有名な人だったのに」


レツがそれを目指さないことは普通におかしい。ランプ職人としての彼を否定しているわけじゃない。彼のランタンが無ければ今ここまで探索を続けられていなかっただろうし、この町では無くてはならないものだ。けれど一度たりとも志さなかったとは思えなかった。自分のように、父親に対する反抗だと考えたこともあったが、きっとそれも違う。彼の意志は自分(ミーナ)とは違う、職人としての矜持が間違いなく彼の中にある。そしてそれは、何よりも武器に対して強く感じた。


 するとレツが、懐から一本の短剣を取り出した。


「それって?」ミーナはまじまじと見つめて訊ねた。


「ひでえ出来だろ。まあ、あれだ……武器を作ったことがねえってのは嘘だ。本当は何回かある。客に売ったこともな」


「じゃあどうして?」


「どうして……か。まあ、憧れて目指してたモンが、いざなってみたら思ってたモンと全然違ったってだけだ」


 言われてミーナはびくりとした。


「親父がなんで武器を作ってたのか、それを知りたくて始めた。作ってる時は楽しかったよ。失敗もたくさんやったけど、それ以上に出来が良くなっていくのが嬉しかった。会心の出来だって思ったモンを出して、どれくらい褒めてくれるか楽しみに待っていたんだ。けど作った武器を最初に手に取った奴の反応はこうだった」


――いくら?


「思い切っていった値段は、高いって突っぱねられたよ。他のヤツは同じ武器でももっと安くしてるぞってな」


「それはヒドいね」セトが言った。


「今はちょっとはわかるようになったけどな。値下げ交渉は取引の常套手段だし、できるだけ安く仕入れたいってのも今ならわかる。けどあの時は、あいつらは武器の出来なんか気にしちゃいねえんだって思ったんだ」


 出来の良いものではなく、価値のあるものが売れる。武器の良し悪しなんてその場ですぐにわかるわけがないし、それこそ長く使い続けられるかなんて、誰に言われてもそれが本当か知る術がない。だからその場の判断基準は、値段と時流に寄るものでしかない。


「何のために武器を作るか……それが俺には見つけられなかった。武器を使うヤツもそうだし、作るヤツも最近じゃあ減ってきてる。道具(ランタン)は大抵買ってくれるしな。武器みたいに誰かを傷つけるもんでもねえし、たぶんそっちのほうが性に合ってたんだろうな」


 一通り話してレツはミーナの方に視線を向ける。するとミーナがぐっと唇をこらえていた。


「なんだ……どうしたんだよ」レツが話しかけるとミーナは目元を拭って言った。


「だって……わたしだったらそんなのきっと耐えられないから」


すると、セトがぽつりと言った。


「ミーナは農家の出なんだよ。だからレツの気持ちがよくわかると思うんだ」


 するとレツは慌てて言った。


「それはだって、(こっち)(そっち)じゃぜんぜん事情が違うだろ。売ってるモンが違えば買う奴だって違うだろうし。……お前のとこじゃ、売りモンにケチつけてくんのか?」


 ミーナはぶんぶんと首を振った。そんなことはない。いつも美味しいと言ってくれる。


「だったらいいじゃねえか……」レツが溜め息をつくように言った。


「……レツは、ずっとこの町でランタンを作り続けるの?」ミーナは訊ねた。


「価値があるうちはな。ランタンなんて、外じゃあんまり価値がねえだろうし、他に作れるモンもねえしな……それに、親父の武器だって守らなくちゃいけねえ」


 ミーナはぐっと唇をこらえた。「そう……」


「ああ、心配してくれてありがとな」


「もう寝よう、今日は」


 セトが言って、三人はその場で横になった。

 ミーナの瞼に映るランタンに手を伸ばして、ふっと息を吹きかけた。




 パチパチと音を立てる火の粉をカンは呆然と見つめていた。夜の洞窟はとても冷え切っていて、出歩く者は少ない。自分の家にも暖炉はあるが、燃料となる石炭がないのでランタンをたくさん置いて寒さを凌いでいる。


 手をかざすとかじかんだ手の感覚が戻ってくる。そして背後で仲間の二人が話しをしていた。


「うまくいったな」


「ああ」


ドンとダンが、其々椅子に座りながら祝杯のように目を合わせる。


「けど本当に良かったのか、部外者(アイツ)らまで殺しちまって」


「ああ、ヤツに関係している人間はなるべく排除しておきたいからな。大人しくこの町から出て行っていればいいものを」


「けど本当に大丈夫なんだろうな、これで手がかりは無くなっちまったんだぜ」


 計画は基本ダンが立て、カンは何も知らされずに付いていくことが多い。ダンは頭がよく人に指示するのも上手いが、ドンはどちらかというと馬鹿な方で、話をするときは大抵、自分にメリットがあるかどうかをはっきりさせたがるので、ダンもそのところはあまり好んではいないように思えた。


「問題ない、もう探す必要もないからな」


 ダンはそういうと、机の上に木箱を置いた。ドンがまじまじと見つめて、「なんだこれ」と指差す。


「開けてみろ」


 ドンは箱を開けおもむろに中のモノを取り出した。それが、どういう持ち方なのか知っているはずがないのに、ドンは自然と片手の中指から小指までを持ち手に巻き付けるように握った。すると自然と人差し指が浮いて、その近くの不思議と出っ張った部分に指が引っかかった。


「気を付けろ、弾がもう入ってる」ダンが言った。


「え?」


 ドンが拳をぎゅっと握ると、人差し指が飛び出た部分を押し込んで直後に爆音が響いた。火花が散るように一瞬だけ光って、気付くと小屋の壁にヒビが入っていた。


「ダン、なんだよこれ……すげえ武器じゃねえか!」


 ドンは興奮のあまりそれを上に向けて再び握った。


「あまり無駄撃ちするな」ダンがドンから武器を取り上げた。


「これは銃だ。威力は見ての通り、剣よりも強く、弓よりもさらに射程が遠い。武器としてこれほど魅力的なものも他にないだろう」


「すげえ! すげえすげえすげえ! これがありゃ、アレなんかもう探す必要ねえよ!」


「ああ、これを量産すればこの町はかつての姿を取り戻せる」


「それどころじゃねえよ! こいつがありゃ、どんなに強い奴だって敵じゃねえ。取引で足元を見られることもなくなるかもしれねえ」


 ドンが輝いた目で銃を見つめた。すると、ダンは急に銃を扉に向けて発砲した。この場所を知っているものはこの三人の他いるはずがない。だが、どうにも聞き耳を立てられているような感じがした。


「……どうした⁉ 誰かいたのか」ドンが大声で叫んだ。


ダンは、「いや……」と首を振った。驚いた声も、走り去る気配もない。気のせいだったと息を吐く。すると窓から小さな影が慌てて外へと逃げだす様子を目で捉えた。


「ネズミ......だったか」

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