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武力(ちから)と暴力(ちから)

親父の武器(クロスボウ)もそうだけど、お前の防具(ほう)もなんとかしねえとな」


 レツは立ち上がった。「素材が手に入らねえなら、仕方ねえか……」


 レツは二人を見つめた。「お前ら、明日ちょっと付き合ってくれるか」


「いいけど……何を?」


 二人が顔を上げると、レツはニッと笑って言った。


「宝探しさ」


 翌朝、レツに案内されてやってきた場所の光景を見つめて、ミーナは唖然とした。


「宝探しって……これ?」


 そこは工房群のある谷を奥に進んだ先にある岸辺だった。周りを岩で覆われているが、前方の岩の隙間からはうっすらと外の光が見えた。

 そして岸の上には乱雑に武器や防具が放置されていた。


「これ……どれくらいあるの?」ミーナは呟いた。


「さあな、数えたこともねえよ。誰かが最初にここに失敗作(それ)を置いてから、みんな真似するようになっちまった」


 武器は複雑に折り重なった針のように山を築いていた。数を数えることすら不可能で、一つの武器の全形を把握することも困難だった。


「この中から……何を探すの?」


 ミーナはレツに視線を向けた。


「お前ら、鎖帷子を探してるんだろ?」


 するとセトが、「なるほどね」と頷いた。「この中から探すんだね」

 レツが頷く。まさしく宝探しだ。


「勝手に盗って大丈夫なの?」ミーナが訊ねた。


「問題ねえよ。だってこいつらは全部捨てられた武器防具(やつら)だからな」


 製造過程での失敗、試作品、理由は様々である。


「好きに持ってってくれ」レツは両手を広げた。「ああでも、錆びには気を付けてくれ」


「サビって……?」


「簡単にいやあヨゴレだ、金属のな……あると危ない」


 わかった、とセトが頷いて早速武器の山に足を踏み入れた。


「かなり高いね」セトが呟いた。ミーナも隣に立ってみた。ざっと三倍はある。


「ミーナ」セトが振り向いた。「ここは流石に危ないよ。だから僕に任せて、君は武器を探すんだ」


 昨日ずっと考えてたんだ、とセトが武器山を見上げながら呟く。「この町は確かに前とは違ってる。武器も防具も、質は驚くほど落ちてしまってる。けどそれは、武器を持たない理由にはならないよ。もし、欲しい武器が此処でみつからないだったら他の街でもいい。君が使える武器を探そう」


「セト……」ミーナは武器山を見上げて言った。「わかった、少し考えさせて」


 セトが頷いて武器山に触れる。ミーナはそっとその場を離れた。


「なんだ、ついに仲間割れか……?」レツがニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「違うわよ」ミーナが隣に座り込むとレツはだろうな、とランタンに灯を灯した。


「武器のことだろ?」


 言われてミーナは振り返った。「……まあ、そうだけど」


アイツ(セト)はわかってる感じだったからな。武器を持ってる素振りはねえけど、使ったことは間違いなくあるだろ」


 でなければあそこまで冷静にはなれない。ミーナも同じ意見だった。


「お前はどうなんだ?」聞かれてミーナは答えることができなかった。するとレツが再び聞いてきた。


「お前にとって……武器ってなんだ?」


 それは、以前ミーナがレツにしたような質問だった。心の奥底にある。封じていた気持ちを掘り起こさなければその問いには答えられなかった。


「結局、戦うための道具でしょう。どんな武器だって、結局は誰かを傷つけるものなんだから」


 戦う理由が違うだけで、相手を傷つけることには変わりない。家族を守るためだとか、仲間を助けるためだとか、それで相手を傷つけているのは、相手も同じで、だから結局は覚悟の差なんじゃないかとミーナは思った。


「わたしには……その覚悟がないの。誰も傷つけたくないから」


「それで仲間を殺されてもか?」


 レツの問いがミーナの心に深く突き刺さる。自分のせいで、仲間が死んでしまえばそれは絶対に自分を許せない。戦えばよかったと後悔するに違いない。


「どんな職人が作ろうが武器は武器だ。どんなナマクラだって、一回使っただけで壊れるほどヤワじゃねえ。けどその時になって、お前が武器を持ってなかったらどうしようもねえだろ」


 セトは、きっと自分がいなくても生き延びられる。だから武器が必要ないと諦めてしまうのはたぶん……甘えだ。戦いたくないから、自分は死んでも構わないからと、諦めてしまうことと同じで、それはひどくみっともない。


「なんか見つかったかー?」レツが立ち上がって声をあげた。すると山の上で影がぴょこんと顔を出す。レツが、「何てとこにいやがんだ」と苦笑いを浮かべた。セトがいるのは武器山の上で、どうやって立っているのかもわからなかった。けれど返事をして振っているその腕の先には、キラキラとした装飾のようなものが握られていた。


「あったよー」セトは山を下りて手に入れた鎖帷子を二人に見せる。「ちょっと穴が開いてるけど」


二人が鎖帷子を見ると、無数の連結した鎖の中に指三本ほどの大きさの穴が開ていた。


「まあこれくらいなら何とかなるだろ」レツが言った。「錆び落としは俺がやってやるよ」


「いいのかい?」セトがレツに鎖帷子を渡す。


「ああ、まあこれくらいはな」


「ミーナ、どうしたの?」セトが近づいてきて、ミーナは顔を上げた。


「ううん、なんでもない……ほら、行きましょ」


 ミーナは首を振って立ち上がった。




 薄闇をぼんやりとした光が照らす。その古びた坑道はかつて石炭の採掘に使われていたとされる場所で、ゴルゴアにはこのような廃坑に繋がる出入り口がいくつか存在する。道幅は広く、その所々にはかつて使われていたとされる木造式の住居が建っていた。

 ランタンの光を揺らしながら、小さな影は一つの小屋の前で止まった。そこは唯一灯りが着いた家で、鍵穴はなかった。

 灯を消して中に入ると、カンはその小さな身体をめいっぱい大きく使って叫んだ。


「わ、わかったぞ!」


 中にいた二人の青年のうち、身体の左側を向けて椅子にどかりと座っていた大柄な青年ドンが顔だけ向ける。


「静かにしろ、いまダンが考え中だ」


「ご、ごめんよ……」


 カンはその童顔をめいっぱい小さくするように顔をすくめた。

 ダンは長テーブルに肘をついて何かをじっと眺めていた。脇にある本や書類が乱雑に置かれている。


「いいよドン」ダンが顔を上げた。「で、どうしたんだ、そんなに慌てて」


「わかったんだ、アイツらの狙いが!」カンは大きな声で叫んだ。「オイラ、あの後あいつらの様子が気になって陰から覗いてたんだ。そうしたらアイツ、やっぱり知ってたんだ!」


「本当か……!」ドンが思わず立ち上がった。表紙に椅子が後ろに音を立てて倒れる。


「どこだ……⁉」


「ば、場所まではわかんないよ……けど、名前は聞いたよ。『クロスボウ』だって」


「強そうな名前じゃねえか」ドンが興奮気味に言った。


「やはりオリジナルの武器か……」ダンが呟く。


「……どうする、ダン?」ドンが顔をダンに向けた。「アイツの事だ。まだ何か隠してるかもしれねえ。イジメて吐かせるか?」


「いや……」ダンは首を振った。「これ以上は何を答えさせても無駄だ。仮に真実を話したとしても、それが俺たちの欲しい情報とは限らない……それに」


 そうしてダンは、机の上に広がった大きな羊皮紙を眺める。それはかつての炭鉱夫たちが書き記した地図だった。地図にはいくつか書き込みがされており、枝分かれした細長い線上に小さくバツ印が描かれている。


「目星しはすでについている。あるとすれば地下だ」


「地下の坑道はかなり危険だぜ」ドンが言った。「町民どもに探させるにしても半分は帰ってこれねえ」


「ああ、見つかっていない坑道も数多く残っているからな。だがそれも、元は一本の坑道だ」


 現在見つかっている坑道は大体が途中で道が塞がっていて、彼らがいる廃坑のように長く繋がっているものは珍しかった。地下の坑道ともなれば、その殆どは埋まっていると考えてられても不思議ではない。


「地下で炭鉱夫(かれら)がどのように暮らしていたのか、それさえ突き止めることができれば居場所は自然と絞れる」


 文献などはないが、手記はあったのでダンはできる限り集めさせた。そこにはまず、彼らはこの町ができる以前、地下で暮らしていたことが記されていた。であるなら、入り口がどこかにあるはずなのだ。


「おそらく氏は見つけたのだろう。地下ならば誰の目にも見つからない。いくらでも自由に武器が作れるだろうからな」


「俺たちも探すのか?」ドンが訊ねた。


「その必要はない……」ダンは首を振った。「適任が他にいるからな」


 ああ、とドンが不敵な笑みを浮かべる。


「ああそれと、分け前の話は前のままでいいのか?」ドンが訊ねた。「お前(ダン)が五で俺が三、カンが二だよな」


「ちょっと待ってくれよ」突然、カンが口を挟んだ。「オイラの分け前、もうちょっと増やしてくれないかな……?」


「なに?」ドンがカンを睨みつける。「なにか文句でもあるのか?」


「……いや? ダンの分け前が一番多いのはオイラも文句ないよ。計画の発案者だし。でも今回の情報だって、地図を見つけたのだってオイラだ」


「ああ、感謝してるよ……」ダンが言った。「いくら欲しいんだ?」


 カンは恐る恐る指を三つ立てた。するとすぐそばで影の動く気配がする。


「カーン? それは俺の分け前が二で良いってことか?」


 口では笑みを浮かべ、しかし目は猛獣のようにギラギラと鈍く光っているドンの目を見て、カンは身を竦めた。しかし震える背中を伸ばして小さな身体を精一杯大きくする。


「だ、だってオイラだって役に立ってるし……一番働いて……ッ⁉」


 ドンがカンの首元を引っ掴んで持ち上げた。


「それはお前がこの中で一番下っ端だからだろ? なあ」


 カンは涙を浮かべて必死にもがいた。


「ぐ、ぐるしっ……はなっ…」カンの顔は一気に青白くなった。


「そんな小さな身体じゃあロクに鉱石も掘れねえ。お前の価値は町の労働者以下だ」


「ぞ、ぞんなっ……オイラだってがんばっで……」


 カンは涙目を浮かべた。そんなカンを見下すように、ドンは耳元で叫んだ。


「この町じゃあ強さが全てなんだよ。金があって、権力(ちから)があって、腕力(ちから)があるヤツがだけ正義だ。お前は、金はあっても、一番下っ端で、チビで、腕力(ちから)もない。だからお前は下っ端なんだ。一生俺たちのな!」


 わかったか、と目を近づけられてカンはコクコクと頷いた。すると身体がふっと浮いたような感覚がして、直後にばたんと尻もちをつく。


「もう二度と逆らうんじゃねえぞ。お前の取り分だって本当は無しにしたっていいだからな。それをくれてやってる俺とダンに感謝すべきだろ」


 カンはつぶれかけた喉で返事をした。


「ありがどう……ございばす……」


 二人に向かって地面に頭をこすり付けながら、カンは砂を掴むように拳を握った。

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