三人の原始人
どっかの童話っぽいタイトルですが、似てるのは名前だけです。
悪い狼は出てきません。
昔々、ある集落に原始人の三兄弟がいました。
彼らの両親は健在ですが、新しい子供が産まれて家の中がいっぱいになり、住めなくなる危険を感じて三兄弟を家から追い出しました。
お前らは大人の体つきになったし、自分達で生きてみろ。 そんな言葉を添えて。
それを承知して、三兄弟は円満に家からの追放を受け入れ、集落内に別の家を造り三人で暮らし始めます。
そしてその新居へ引っ越してすぐ、三兄弟による会議をひらきます。
議題は『今後どう生きるか』
親に頼れない生活です。 とても大切な会議でしょう。
そこで長男は考えました。
「生きるのにまず必要なのは、食べ物だ」
彼は力が強く、すでに大人達に混じって狩りで結果を出していたので、当然の内容です。
肉だけでなく、骨や皮も様々な資材になる時代。
これが出来ねば大人の男ではないと、言われてしまう時代。
食の確保と言う重要な要素を担うと、長男が宣言したのです。
彼は長男としての責任感も強いので、その辺から出た言葉でもあるのでしょう。
「だったら、狩った獲物を使って便利な物を作ったり、集落の細かい手伝いをしてみようかな 」
お次は次男。
彼は手先が器用で、頭も回ります。
なにか困る事があるとすぐ、頭をひねって解決策を見つけてくれたりする。
兄の補佐をずっとしていたので、これも当然の提案です。
力の兄、知恵の弟。
二人三脚で働く彼らを集落の人々は、頼もしい奴らだと評価してくれています。
実家からの独立を機に、補佐する範囲をひろげてみよう。 そう思ったようです。
「それじゃあ、どうしようかな?」
とても頼りなく、どこかぼんやりしながらしゃべるのは三男。
出来る長男次男に隠れ、口八丁手八丁。
とにかく甘え上手で、何もしない三男を叱ろうとした人はみんな丸め込まれ、トテモカワイイ マモルベキ ミンナノ オトウトデス。
等と言うようになるとか。
とにかく次男とは違う方向で頭の回る、凄い三男です。
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こうして、新しく始まった三兄弟の生活。
彼らの生活は順調です。
長男は宣言通り、狩りで大活躍して集落の食糧がかなり潤います。
次男も言った通り、集落内で大活躍しています。
一番の功績は子供達の面倒をみる仕事で、泥遊びしていた子供達を見て、その泥が何日もすると乾く様子から、土器の作成を思い付いたこと。
これで食べ物や飲み水の大量確保が可能になったのです。
三男は……寝てばかりでした。
実際には寝てばかりではなく、甘え上手な性格から人間観察が好きで、そこから考え事をよくしているのですが、その辺は働いていないと同義としてみられる。
時折次男の手伝いとして引っ張りだされて働く機会もあるのですが、大体がぼんやりしていてミス連発。 叱られている所ばかり見ます。
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三兄弟で暮らしはじめて5年。
長男はひとりで独立。
正確には妻を娶り、男ばかりの家だと言う事実を配慮して、離れを作ってそこで生活しています。 けっ、爆発しろ。
次男は兄弟の家にまだ住んでいます。
土器ができて以降、生活が随分楽になったので人の死亡率が低下。 人口が増えた結果、一緒に増えた集落内のいざこざの解決役として引っ張りだこ。
なんだかんだで、実質的な集落の長状態です。 本当のまとめ役……長を差し置いて。
そんな生活をしていて、集落公認の事実婚認定されているお相手がいますが、三男が心配で所帯を持つ気になれません。 お前も爆発しろ。
この頃の次男最大の功績は、原始的な農業の提案。
ごみ捨て場としていた穴を埋めてから、捨て忘れていた果物の種を土の浅い所に埋めたら芽が出て、木に育った所からピンと来たらしい。
今は種を空けた小さな穴へ蒔くだけの原始的な農業ですが、その内工夫されて洗練されて行くことでしょう。
三男ですが、狼を飼いはじめました。
集落のはずれでぼんやりしていたら、いつの間にか居た狼になつかれ、一緒に生活し始めたとか。
この狼は狩りの手伝いや襲撃してくる外敵の警戒に力を発揮し、集落からありがたがられる様になりました。
狼が番になり、その子供を他の家へ分けると喜ばれる。
これにより三男の地位は見直され、お裾分けを得られる生活に。
安心して考え事が出来ると、満足そうです。
その結果、もうすぐ何かが掴めそうだ。 と言っていたそうです。
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更に5年が経ちました。
この頃になると、三兄弟は完全に別居しています。
長男は狩りの達人として若者の指導を現場で行う、教師役として活躍しています。
たまに食糧の分配がてら、弟達の様子を見に行く時以外は、家での子育てでいつも頭がいっぱいです。
次男は完全に村の相談役や隣村との折衝役となりました。
今まで作ってきた道具や農業により、生活の質が向上して村規模に集落が成長したのです。
困り事の解決策として便利な道具の発明する仕事は減り、もの作りは他人に任せて人と関わる事ばかりになりました。
次男が家にいる時間が減り、家庭は妻に負担がかかるけど、ご近所さんが助けてくれてなんとかなっています。
三男は今までが何だったのか。 そう言いたくなる変貌を遂げていました。
人間観察が好きだったので、人をよく観察していた結果が出たのです。
今まで言葉に出来なかった、複雑な人の行動原理、心理表現を言葉で表します。
つまり哲学の誕生です。
同時にヒトが感じる死への恐怖を和らげる、原始的な宗教である自然崇拝・精霊信仰の基となる考えを広めたのです。
感銘を受けた村民達により支援の輪が出来て、言葉や宗教の伝道師として大成。
それにより、歴史には名が残らない最古の哲学者として、とても特殊な立ち位置を妻と共に得たそうです。
こうして、三兄弟が三兄弟とも幸せな人生を過ごしたそうな。
余談ですが、三兄弟が立派に育った様子を見て満足した両親は、数年後に満ち足りた顔のまま息を引き取ったと言われています。
以下、見苦しい言い訳。
本当に見苦しいので、興味のない方はスルーして下さいませ。
最初は三男が急に宗教へ目覚めて人生一発逆転、電波君大暴走……なシュールギャグっぽいものを想定していたのですが、なんか違う印象になりまして。
それで読み直して受けたインスピレーションが、一次産業の長男。
二次産業の次男と、三次産業の三男。
それぞれを擬人化した感じか? それともそれぞれの産業の縮図か何かか? となりまして。
なので投稿予定だったコメディから、ヒューマンドラマへとジャンル変えを致しました次第でございます。 はい。