ボロアパート7
どのくらいの時間が経ったのだろう。
真っ暗な部屋で目を覚ました。
「いっ!痛っ!?」酷い頭の痛みにクラクラする。
あちこち痛むがやっとの思いで体を起こそうとした
…その時、ふと自分の腕の中の重みに気づく。
「…えっ。茜?…茜起きて?……ねぇ!嘘でしょ!茜!?」
私が気を失っていた間に娘の茜は、冷たくなっていた。
殴られた私を守ろうとするみたいに彼との間に入った…私も咄嗟に庇ったが守ってあげられなかった。
頭を殴られて当たりどころが悪かったらしい。
まだ…2歳だったのに…。
「いやっ!!嫌だよ!ねぇ、茜!起きてっ!!いやぁーーっ!!」
…その後の事はあまり覚えていない。
私の悲鳴を聞いて裏に住む大家のお婆さんが対応してくれたそうだ。
私は呆然として何も出来なかった。スローモーションを見ているようにただ全てをボーッと眺めていた。
彼はあの後すぐに捕まったらしい。
「俺じゃない…俺じゃない…」とブツブツ言いながら路地で蹲って震えていた所を警察が見つけたそうだ。
更にだいぶ経ってから弁護士の先生に聞いた。
彼は離婚した当時すでに多額の借金があり、かなりヤバい所からも借りていて逃げていたらしい。
彼の事はもうどうでも良かった。
どうしてこうなってしまったんだろう。
私はどこで間違えた?
何で茜がこんな目に遭わなきゃいけなかったんだろう…。
毎日、自分を責め続ける。
けれど、どんなに悲しくても人間の記憶とは残酷なもので時間とともに少しずつ忘れていくのだ。
きっと忘れなきゃ生きていけないからなのだろう。
悲しくてもお腹は空く。
涙も出なくなっていく。
私は自分がなんて薄情で酷い人間なんだろうと思いながら、それでも生きて行くことを選んだ。
しかし、私は心の底から笑う事を忘れてしまっていた。
どうやって笑うんだっけ?
仮面のような笑顔を今日も張り付けて生きる為だけに働く。やっと人並みの生活が出来るようになった。
……あの日から長い時間が経っていた。
そんなある日、あの男に声をかけられたのだ。
「おたくのお子さん?保護してるんですけど、迎えに…」私は何がなんだか分からず、混乱して後半は聞こえていなかった。
いや、茜は3年前に亡くなってる。
この男は何を言っているんだ?
そんな事あり得ない!
「ウチには子供なんていません!」そう言うだけで精一杯だった。逃げるように仕事へ向かう。
その日は何も手につかなかった。
一体どういう事なの!?