おまけ 伊織視点③
――やはり、姉さんは強運の持ち主みたいだ。
僕が考えたシナオリ通りに、ポンポンと事が進んで行く。
まさか、社交界デビュー前に王太子に見初められたり、ライアン師団長の弟、リアム魔術師団副師団長が姉さんを聖女と仰いだり。
あっ! という間に、占星術師サイモンに聖女と勇者の存在を認めさせてしまった。
そして、魔術師団師団長のポールに聖騎士団本部へと呼び出され、サクッと魔力測定を終わらせて、軽く質問されアッサリと勇者に認定された。
それにしても、何だ?
ポール魔術師団師団長の視線が凄いな……。
「ねえ、勇者のルイと聖女のアンジェは、ただならぬ関係かな?」
ああ、なるほどね。ポール師団長お前もか……!
ライアン師団長が返事に困ったので、ある程度の事実を伝える。
このポールの、一見にこやかな表情に騙されそうだが……なかなか侮れない人物だ。
「ええ、まあ深い関係ではありますね。恋愛関係ではありませんが、魔王を討伐のパートナーです。ちなみに生き別れた姉弟ですよ、僕たち。そうだよね、姉さん」
「そうです。……私達は姉弟でした」と姉さんは察しよく合わせてくれた。
その後も続く、ポールとリアムの質問を適当に躱したが。
結果、ポールはライアンにライバル宣言をしてアンジェである姉を口説いた。
二人のやり取りを聞いた姉さんは……
「無理ですよ。せめて、剣で私より強くないと!」
ああー……、そんなこと言っちゃうの?
「……姉さん、それじゃあ一生結婚出来ないよ?」
アンジェの納得できなさそう表情に、溜め息が出てしまう。
うん。今度、姉さんの強さを理解出来るように説明するからね。
ライアン師団長……うちの姉がすみません。爺ちゃんに、ライアン師団長も特訓してもらえるよう頼んでおきますね。
――と、心の中で謝った。
◇
その数日後――。
サイモンから僕も呼び出しを受けた。
リアムに案内されて、魔術師団本部の最上階にある占星術師サイモンの部屋へと向かう。
中へ入ると、サイモンと国王が奥の方で僕を待っていた。
あれが占星術師サイモンと……この国の王か。
一応この国の常識的に、跪き挨拶をしようとすると、国王がそれを制した。
「其方が聖女が指名した、勇者のルイだな。この場は、我等しか居らぬ。腹を割って話そうではないか」
「陛下の仰せのままに」
「単刀直入に聞こう。勇者は、魔王を倒せるか?」
「はい。王家に伝わる聖剣を、勇者である私が使えば倒せます。ただし……、魔王を倒すまで、国の被害を最小限に抑えるは、私だけでは不可能です」
「勇者よ、どう言うことだ?」
「魔王は魔王城の中。ですから、私はそちらに向かいます。各地に生息している魔物やアンデットが、魔王の影響で凶暴化するかもしれません。それを抑えるのは、聖騎士団や各領地の貴族や騎士達になります」
「成る程。そちらの勢力も整えろということ」
「その通りです。私に考えがあります」
ニコリと微笑む。僕の、シナリオ通りに動いてもらわなければ。
そして、アンジェが社交界デビューした宴の後、聖剣授与式を行うことを提案した。
勿論、貴族たちの心を掴む台詞もレクチャーしておく。貴族や民を納得させる為、ポーションの準備、必要な量等を説明した。
流石の王も、サイモンも、異論も出ず舌を巻いていた。
国王からの提案で、僕も社交界デビューをしてアンジェとダンスを踊り、最大限に注目を集めておく様にと約束させられた。
ダンス……仕方ない。ライアン師団長に相談するか。
サイモンの部屋を後にして、そのまま聖騎士団本部へ向かい、早速ライアンにダンスの相談をした。
何故か……。
物凄く乗り気のライアン師団長は、オスカー副師団長を捕まえて、訓練後にダンス特訓メニューを組み込んだ。
どうせ、ダンスするなら姉さんとが良かった……。
オスカー副師団長、めちゃくちゃ美形だけど男同士だし……。
しかもダンスって、こんなに接近するのか。
色々悲しくなってきたが、オスカー副師団長は当日の衣装まで相談に乗ってくれた。
僕が女なら、確実にオスカー副師団長に惚れてたな、うん。
◇
姉さんの社交界デビューと僕の聖剣授与式は、見事に大成功を収めた。
聖女アンジェと勇者ルイは、その場に居た貴族たちに神々しい程の存在感をみせつけたのだから。
そして、ようやく魔王の討伐に出発した。
ずっと、引っかかっていた違和感が、魔王に近付くにつれ……確信へと変わっていった。
魔王を倒す……いや、魔王を倒すように仕向けた奴を倒さなければならないと。
予想通り、魔王は自分の死を望んでいた。その上……まだ小さな子供の姿。
ここは、裏ボスが存在する……邪神ルートか。
最悪、全滅……それだけは、避けたい。
だけど、この魔王は――。
魔王の気持ちが、少し理解出来た。自分なら、そんな繰り返しの人生は耐えられない。
いっそ、一思いに殺してほしい。そうに思うのは当然だろう。
「わかりました。では、勇者が魔王を殺します」
自然と口から言葉が出ていた。
魔力を聖剣に込めて、魔王の首に向けて振り下ろした瞬間
―――キイィィィ――ンッ!!
物凄い衝撃を受け、聖剣が弾き落とされた。
魔王と僕の間に飛び込んできた人物。
「……っ! ね……姉さん!」
僕の剣を弾いた姉さんは、クルッと魔王を見て一言。
「うちの弟に、人殺しはさせませんっ!」
そりゃ、人殺しなんてしたい訳ないじゃない。
でも、アンジェ……いや姉さんは、伊織の心を心配していた。
ライアンやポールも、魔王より邪神を倒す事を選択した。
……だが。
最悪な神は、僕らのやり取りを滑稽とばかりに楽しんでいたのだ。




