49.創造神
――私は怒りで頭に血が上る。
「あなた神のくせに、なんなのよっ!! 最初にこの世界を……国を救えって言ってたでしょうがっ!」
『ふふふ、そうだよ覚えていた? この神が創った、ゲームみたいな世界を救えとね。少し抜けているドジっ子神様の演技も、中々だっただろう? 君たちの世界にあるゲームという物は、実に面白いね』
なんじゃそりゃ……。脳みそ腐ってない? この神は。ゲームを現実にするとか有り得ない。
「じゃあ………私と伊織を間違えたのも演技?」
『あははは、それは本当に間違えた! だから巴、君は後で回収するつもりだったんだよ。死なないようにチート機能つけておいたろ?』
回収って……。物のような扱いに、ギリっと歯噛みする。
『――だけどね。伊織のモチベーションが、この世界で巴が生きていることだったから、そのまま放置したんだよ。それなのに、まさか一緒にここまで来るとは想定外だった。巴、お前は邪魔だ――』
ニヤついた雰囲気がガラリと変わり、無機質な視線を浴びせられた。
――ゾクリと、背筋が凍る。
『さあ、伊織。……いいや、勇者ルイ。魔王を倒して封印するんだ』
「………断る」
ルイは静かに返事した。
おやっ……と、神は眉を上げる。
『残念だ――。君はもっと、賢い人間だと思っていたんだけどね。巴の悪影響かな? ……じゃあ、この勇者パーティは全滅させて、リセットしよう!』
神は掲げた手を、楽しそうに下ろした、その瞬間。
――――ズンッ!!!
突然、空気が重くなった。
ズシッと身体が地面に押し潰される。
いや違う。倒れ込んだ全身に、もの凄い重力がかかっている様だった。自分の身体が床にめり込むように、頭さえ上げることが出来ない。
――っく、苦しい! 内臓が潰される……。
視線だけ動かすと、ルイ、ライアン、ポール、ダン、ユウ、魔王、ベルゼビュートが同じ状態で苦しんでいる姿が。
特に体の大きなライアン。ゴホッ――と吐血した。
それを目の当たりにした瞬間、私の感情の箍が外れた。
ぐぬうぅぅぅっ――――!!!
許さない! 許さない! 許さないっ!!
怒りで涙が溢れてくる。
持てる魔力を最大限に引き出すと、指がピクリと動き、刀が握れた。
マナの全て手に集めると刀に注ぎ込んでいく。
――刀が私の魔力に耐えられないかもしれない。
でも、ウィルの言葉を信じ注ぎ続けた。勢いよく、刀に流れ込む魔力。
刀は、私の魔力を吸い上げて……大きな光りに包まれた。
『無駄な足掻きを……』
神が、更に力を加えようとした時だった。
――ピキッ。……ピキ……ピキ、パリンッ!!
私の刀に小さな傷が出来始め、砕ける音と共に内部から閃光が真上に走る!
激しく何かがぶつかった。
白く何も無かったはずの空間。まるで白い天井がひび割れて行くようだった。
バラバラと大きな破片が落ちてくると、そこには真っ黒な空が現れた。
神は、自分の領域に傷を付けた私を、忌々しそうに睨んだ。
そして――。
私の手にあった、砕けたはずの刀を見て……驚愕する。
『なっ、何故それを……お前が持っている――!!』
激昂した神は、バッと私に手を翳す。
――嫌な予感。今まで以上の凄まじい力の波。
けれど、もう。
持ちうる限りの魔力を放出した私には、応える力も無い。
苦し……い。声……出せな、い――……。ん?
開けているのさえ辛い目の端に、何かが映る。
真っ黒な空から、得体の知れない生き物が顔を覗かせた。
あ……あれは竜? 違う……蛇?
「……ケツァルコアトル……だ」
ルイの小さな呟きが聞こえた。
きっと同じ物が目に入ったのだろう。
バラバラになった白い天井は全て消え去り――。
空にはケツァルコアトルと呼ばれた、蛇らしき物に乗った光があった。
――そして、その光から声が響いた。
《 それは、我が答えよう。我が息子よ 》
『……!!? ち……父上……』
実体を持たない光に、慄く神。
フッと、押し付けられていた体が軽くなるが、まだ立ち上がることは出来ない。
ただ息を殺し、光と神の会話に耳を傾ける。
《 お前は我を欺き、神として在るまじき行いをした。その者の持つ剣は、我と繋がる一つの光。この世界の救済として、我が落としておいた物。その者は、強運を持っていたようだ 》
神は恐怖に顔を歪ませ、身動きはもちろん、言葉を発することすら出来ない。
そして――
シュルシュルと伸びたケツァルコアトルの舌に巻かれ、拘束された。
《 人の子よ。我は創造神。不出来な息子が迷惑を掛けた。代わりに、息子が創ったこの世界はお前達に委ねる。好きにすると良い 》
それだけ言うと、創造神ケツァルコアトルは邪神を連れ、癒しの光を降らせて飛び立った。
――静寂に包まれる。
私達は……助かったの?




