47.魔王?
――城の中は不気味なほど静まり返っていた。
一階には窓が無く、暗い廊下が続く。
自分達の足音しかしない中、トラップや急な攻撃にも対応できるように神経を研ぎ澄ましている。ポールの魔術具のランプのおかげで、視界が確保されたのは有難かった。
暫く歩き続けて行くと、突然目の前に階段が現れた。
多分……階段の先に来いということなのだろう。無言で頷き合うと、階段を上り始めた。
不思議な感覚だった。
階段を上っている筈なのに、階段を下りている……そんな、ふわふわとしたアンバランスさ。ずっとこのままだったら、目が回ってしまいそう。
ようやく階段の終わりが見え、辿り着いた先には大きな扉があった。
ルイは振り向くと、扉の正面を避けるように目配せをする。私達は、左右に分かれると、壁に背をつけ待機した。
そして、タイミングを見計らったルイは、一気に扉を開け放つ!
シーン――……。
開かれた両開きの扉の先には、静けさだけが広がる。何も起こらない。ルイは微動だにせず、ただ正面を見つめていた。
あれ? と思い、部屋をそっと覗き込む。
「――よく来たね。勇者よ」
部屋の中に、少し高い声が響く。
誰も居なそうな空間には、二人の人影があった。
そして、その声の主は――
えっ! ……子供!?
もう一度。目を凝らしたが、部屋の奥にある立派過ぎる玉座に座っているのは、確かに子供。銀色の長い髪に、赤い瞳をした幼い男の子だった。
その隣に立っているのは……。深紫の髪に真っ黒なマントを羽織った、冷たさを感じる美貌の青年。
ええっと……どっちが魔王?
私たちの心を見透かすかのように、突然クスクスと子供は笑い出す。
「驚かせちゃったかな? 魔王は……僕だよ。こっちは、従者のベルゼビュートだ」
まさかの、そっちだとは!
小さい子供には不釣り合いな、表情に喋り方。
ライアンとポールも同様に驚いているが、ルイだけは平然としていた。
「魔王……。僕が勇者のルイです。貴方が、僕らを此処へ来させるように仕向けましたね?」
「うん、そうだよ。勇者ルイ。君に頼みがあるんだ」
魔王のその言葉に、隣に立つベルゼビュートは、彫刻の様な顔を苦しそうに歪める。
魔王の頼みって、一体……。
「……僕に、魔王を殺せと?」
ルイの言葉に、その場に居た全員が絶句した。
「へえ……驚いた、どうして分かったの?」
「なんとなくかな? 何か……、この世界はちょっと違和感あったんだ。確信したのは、今。魔王を見てかな?」
いや、もうダメッ!
私は業を煮やして口を開いてしまう。
「ちょ、ちょっと! ルイに、そこの魔王っ! 意味がわかんないよっ! 私にも分かるように説明してっ!」
ライアンとポールは、この空気を読まない私の発言に慌てて口をふさいだ。――ぐぬぬっ!
「あはは、勇者の仲間は面白いね。命知らずなの?」
「まあ、そうですね。でも、勇者の僕より姉のほうが強敵ですよ」
苦笑したルイに言われ、魔王は興味深そうに私を眺める。
「勇者の姉か……聖女? いや、ちょっと違うね。あれ……勇者が二人?」
え、初耳ですが。ムグムクと私は言うが、言葉にはならない。
「まあ、僕らは元双子ですからね」とルイは肩を竦めた。
「なるほど、双子か……」
「ところで――。魔王として復活し、何年経ちましたか? 今のその姿が……偽りではなく、生まれて成長したのだとしたら。見た目からして、五〜六年という所でしょうか?」
「ああ、その通りだよ。ちょうど五年が経過した」
「やはり、そうなんですね。――僕らは十五歳です。つまり、転生してから十五年が経っているんですよ」
ルイは何を言いたいのだろう?
口を塞がれたまま、二人のやり取りを見守る。
「魔王が復活してしまったと聞いたのが十五年前。でも、魔王は復活してまだ五年。変ですよね? 誰かが嘘をついているんです」
そういうことかっ|
(自称)神――――!!!
話に加わりたいが、ムグムクとしか声が出せない。
「では、魔王の口から、勇者に殺してほしい理由を聞かせて下さい」
魔王はコクリと頷いた。
「僕はもう、魔王として生きることを望まない。勇者に倒され封印されて、また復活しては倒され封印される。この終わりの無い、無限のループを断ち切りたい。僕は、この世界を支配したいとも、生き長らえたいとも思ってはいない。だから、封印ではなく……僕を消し去ってほしいのだ」
――それが、幼い姿の魔王の望みだった。




