45.道案内
腕の中のダンがピクリと動き、首を伸ばすようにして鼻を動かす。
――クン、……クンクン。
『ねえ、主人。なんだか、とっても甘い匂いがするよっ』と、ダンが話に割って入った。
「……っ!? アンジェの犬は喋れるのかい?」
ポールは驚きに目を見開く。
……あ。
ポールに、ダンとユウのことを何も伝えていなかったことに気付く。ユウは自由に行き来していたが、基本は侯爵邸と訓練場所以外は連れ出していない。リアムの件があってから、特に慎重になっていたのだ。
だから、ポールとは初対面。
「ええ……はい。でも、魔物じゃないですからね! ペット……いえ、私の家族です!」
興味深そうに繁々とダンを見るポールに、慌てて伝えた。
「それよりも、ダン。何か臭うの?」
ダンの優れた嗅覚を知るルイが尋ねる。
『うん! 甘〜い美味しそうな匂い。こっちから!』
そう言って、私の腕から飛び降りたダンは走り出す。
「ちょっ! 待ってダンっ」
ちょこまかとした動きなのに、速い。慌てて追いかける四人と一匹。
草深い木々の間を抜けると、ダンの後ろ姿があった。パタパタと尻尾を振って、お座りしている。
ダンが見ていた先には――
「え? 花……の中に女の子?」
「あ、ダン。それ以上、近寄っちゃ駄目だよ」
ルイが注意する。
「あれは、アルラウネだね。魔物の一種なんだよ。甘い香りで誘惑した男性を捕らえ、養分とするんだよねぇ。ほら、ツタが伸びてきたでしょ」
と、ポールは説明してくれたが。
「いや、ポール師団長! 何を呑気に言ってるんですかっ。男性ばかりのこの状況で。……って、ダンも男の子じゃないっ!」
シュゥーーッ! とツタの伸びが加速してダンに向かう。
「……あっ、危な」
――――ザンッ! パラパラパラパラ……
私が動くより早く、一瞬でダンは赤茶髪の男の子になり、ツタを切り刻む。
正にジルベルトの訓練の賜物。ダンの変身スピードは速くなり、直ぐに戦えるようにと首輪に剣も収納してた。
「主人ぃ、甘いのお菓子じゃなかったみたい」と、ダンはしょぼんとした。
「そっか、でもお菓子だったとしても拾い食いはダメよ!」
「いや、アンジェ……そういう問題では無いぞ」
ほのぼのとした会話が交わされていると、イライラしたのかアルラウネが叫んだ。
『キィーッ! あんた達なんなのよっ! どうして私の誘惑が効かないのよっ! しかも犬、人獣なのっ!?』
「え――――喋った!?」
私にはそっちの方が驚きだ。
『ええ、ええ、喋りますとも! 悪い? それより、あんた達は何者よ? 私のツタを切ってくれちゃって!』
「それは、貴女が先に攻撃したからでしょっ!」
『で、何者なのっ?』
「……勇者一行ですが」
『あー、勇者ねぇ。ふうーん』
何なんだ? この魔物……。
じぃーっと、観察していたポールが唐突にアルラウネに寄って行く。
「どうしたんですかっ!? しっかりして下さい」
誘惑にかかってしまったのかと、慌てて止める。
「え? この、アルラウネちょっと面白いから、土ごと引っこ抜いて持ち帰かえろうかと。生態とか、細胞も取って詳しく調べた方がよりわかるからね」
生きたままの細胞……。
サラリと言ったポールに、ドン引きする。いつもの揶揄い……ただの脅しだと思いたい。
ポールの、掌の上では何かの魔法が発動し始めた。
そして、真っ青になるアルラウネ……。
『絶対嫌よっ! 引っこ抜かないでっ!! 良いこと教えてあげるから、お願いよ!』
「……良いこと?」
『魔王城への近道を教えるわっ。予言もしてあげる!』
必死に懇願するアルラウネに同情がわき、ルイに視線を送る。ルイは頷いてポールを止めて、アルラウネの話しを聞くことにした。
アルラウネには、本当に予言や予知の力があるのだとか。
『そこの道をとにかく真っ直ぐよ。ただひたすら真っ直ぐ行けば、魔王城の正面に着くわっ。それから、あんた!』
アルラウネはこちらを指差した。
「ええっ、私?」
『そうよ! あんたは狙われるわ。かなりヤバイ奴にね。死にたくなかったら、気をつけなさい』
……それが予言だった。
私が狙われるのは、聖女役だからかもしれないが。それほど大魔王は強いということなのか。
アルラウネにはその未来が視えたのだろう。
死という言葉に少し不安になると、心配したライアンが私の肩を抱く。
「大丈夫だ、俺が絶対に守る!」
うん、きっと大丈夫だ!
――そして、一行はアルラウネの言った道を進むことに決めた。




