41.社交界デビュー
魔力の枯渇はしないまでも、かなりの量の魔力を使って大量の回復薬を作り上げた。
とにかく、ポールは人使いが荒かったのだ。
ハァァ……疲れた。
「……これ、何人分あるのでしょうか?」
「うーん、聖騎士団と近衛隊と魔術師団の全員分かな?」
だから、それって何人なのよっ!
あー、聞くのも面倒になってきた。
「もう、今日は帰っていいですか? ちょっと疲れてしまいました」
正直、立っているのがやっとだ。
「だよねぇ。こんな高級ポーション、普通こんなに作れないよ。下手したら作ってる方が倒れるよね」
――――!! それをやらせたのは、誰よっ!
「さてと。じゃあリアム、今日はもういいからアンジェを送ってあげて。あっ! 何なら僕が送ろうか?」
悪戯っぽく笑うポール。
「遠慮します。リアムお兄様、帰りましょう!」
冷たい視線を送りつつ、即答した。これ以上、体力を消耗したくない。
そんな状態だったからか、馬車の中ではリアムがだいぶ気遣ってくれた。
「アンジェ……大丈夫かい?」
「お兄様、ありがとう存じます。一晩休めば大丈夫ですよ。この国の、守り手が使うための回復薬ですから。無理してでも用意しておかないと。私が魔王城に向かったら、近くにいない人には癒しが出来ませんから」
とリアムに微笑んだ。
それぞれが配置された場所で戦うのだ。当然、各々で回復しなければ、やられてしまう。
リアムは私の言葉に胸を打たれていたようだが……。
まぁこの程度の疲れは、ご飯食べて寝たらすぐ治るしね。どうにかなる。
きっとポールは分かっているのだろう。
◇
――そして。
ついに、社交界デビューの日がやってきた!
その日は、早朝から準備に追われていた。
湯浴みに始まり、お肌や髪のお手入れ。リリーやハンナ以外のメイドも次々とやって来る。
用意されたドレスに相応しいメイクアップに、複雑に編み込まれた髪のセット。慣れないコルセットを着せられて、どんどん仕上げられていく。
足元で、ダンとユウがキラキラした瞳で、私の変身していく工程を見守っている。
最後にドレスとアクセサリー、ライアンからのペンダントも着けた。
鏡に映る自分の姿に、目を見張る。メイド達の腕が良いのも知っていたが……。
アンジェに転生して、この身体や顔もすっかり見慣れたと思っていたけど。この姿は聖女と言うより、まるで天使の様だった。
メイドたちもうっとりする。
これは、凄いわ……有り得ない容姿ね。
支度も終わったので、ライアンの待つ場所へと向かった。
姿が見えたので声を掛けるが――。
「ライアンお兄様、お待たせ致し……ま……した」
言葉が上手く出てこない。
玄関ホールに続く廊下に佇む、ライアンの姿にすっかり目が奪われてしまったのだ。
私の鼓動はどんどんと速くなる。
まるで、本物の王子様のようだった。
イケメン過ぎよ……お兄様。
いつもの見慣れた騎士団制服でも、侯爵家の嫡男らしい隙の無い紳士的な服でもない。
社交界用の光沢ある黒のタキシードに金と銀の刺繍が品よく施され、白いシャツの襟元はフリルで華やかになっている。引き締まった体の線が強調されていた。
更には、ライアンの黒髪はオールバックにセットされ、より艶を増していて、正に眉目秀麗のその姿。
――ドキドキが止まらない程に美しかった。
私に気付いたライアンは、一瞬目を見開くと、今度は眩しそうな顔をして色気を漂わせる。
「ああ、アンジェ……美しいな」
「――ふぁっ!? あ、ありがとう存じます。お兄様もとても素敵です!」
ライアンにすっかり見惚れていた。悟られないように、慌てて返事する。
ライアンは、私の首元に掛かっていたペンダントを見つけると、少し屈んで嬉しそうに「よく似合う」と言った。
ライアンはエスコートに、スッと手を差し出す。そこに私は手をそっと重ねた。
それから――いつもより豪華な侯爵家の家紋の入った馬車に乗り、会場となる宮殿へと向かった。
王宮へ続く門をくぐり、初めて入る宮殿は豪華絢爛で、圧倒された。
私は緊張からか、自分の手を組むようにギュッと握っていた。ライアンはそれに気付いたのか、安心させようと大きな手を包むように重ねてくる。
緊張は解れたが、違う意味でドキドキしてしまった……。静まれ、心臓!
馬車から降りると、ライアンはスマートにエスコートしてくれた。
会場の扉の前で待機する。
名前を呼ばれ、二人で会場に足を踏み入れると――響めきが起こった。
聖騎士団師団長であり、貴族界でも有名な侯爵家の長男で、誰もが認める美貌を持つライアン。
そして、そのライアンがエスコートする、天使みたいな妹のアンジェ。
会場の貴族達から、感嘆のため息が漏れたのは当然だった。




