39.ウィルからの呼び出し
魔術師団師団長ポールに、だいぶ翻弄されたが、どうにか話はまとまり平穏な日常が戻ってきた。
――ただ。
相変わらず、ジョセフから花束と手紙が届くし……ポールからは、時々お手製の変わった魔術具が送られてくる。
王族は、プレゼントをするのが好きなのだろうか?
そして、なぜか……。
最近、ライアンはルイに頼み込んで、忙しい仕事の合間にジルベルトに鍛えてもらっているらしい。
私も一緒に訓練したいと言ったが、却下された。
ルイ曰く、「姉さんが悪い」と。解せない。
――そんなある日。
「アンジェ、ウィルから剣が仕上がったと連絡が来た」
ライアンは聖騎士団本部から帰るとすぐ、私に知らせを持ってきてくれた。
「本当ですか! ライアンお兄様、今すぐウィルの所へ行きましょう!!」
さあ、行こうとライアンの手を取る。
「落ち着け、アンジェ……。今は、夜だぞ。明日は休日だから、明日でいいだろう?」
「はいっ! ぜひ、明日お願いします!」
ライアンは、呆れつつも優しく笑う。私の頭を撫で、自分の部屋へ戻っていった。
「ダン〜! ユウ〜! やっと、私の剣が出来上がったのよ!」
ボブッと、二匹の居るベッドにダイブする。
嬉しさのお裾分けとばかりに、むぎゅ〜っと二匹を抱きしめてスリスリする。
『主人よかったねー!! 僕も早く見てみたいよ』とダン。
「私も早く見たいわ!」と答える。
『結局、主人はその剣をどう持ち運ぶの?』とユウは首を傾げた。
「それがね。中々ジルベルトお爺ちゃんの所に行けてなくて。なんだか忙しいみたいなの。だから明日、お兄様とウィルに相談するつもり。ユウも良いって言ってくれた案が、出来ると嬉しいんだけどね」
ユウも、剣を担ぐのは私の体型だと難しそうだからと、一緒に色々考えてくれたのだ。
興奮で寝付けないかと思ったが、ユウとダンのモフモフに挟まれて、ワクワクしながらいつの間にか眠りに落ちていた。
――翌朝。
私は、随分と朝早くに目が覚めてしまった。
仕方ないので、筋トレと素振りをしていたら夢中になり過ぎ……リリーに見つかり叱られた。
それを見てしまった反動なのか……。
リリーとハンナはやたらと可愛い、いかにも令嬢らしいワンピースをチョイスする。しかも、今回は髪型まで美しくセットされた。
ライアンは、やって来た私の姿に目を細める。
「……アンジェ、今日はウィルの所へ行くので良かったのか? それとも、変更してデートにするか?」
「お兄様、それはもちろんウィルの武器屋です!」
変更なんてとんでもない! と伝えるとライアンは失笑する。
「ぶっ! その格好で武器屋とか言うんじゃない」
「仕方なかったんです! 朝から興奮して筋トレと素振りしてたら、リリー達に見つかって……それで、この格好にさせられてしまったんですっ!」
「おい、朝から素振りをしていたのか? ……良いメイド達だな」
おかしな方向に進もうとしている妹を、正統派令嬢に戻そうとした素晴らしいメイドだとライアンは感心した。
確かに見た目だけなら、どこからどう見ても、華のある完璧な侯爵令嬢に仕上がっている。
しかも、中身は私だけど、アンジェは美少女だ。
――そんなこんなで、ウィルの店に着いた。
「いらっしゃい! お嬢ちゃん、今日は一段と可愛いなぁ! この店、似合わな過ぎるぞっ!」
苦笑しながらもウィルは褒めた。
そして、店の奥から待ちに待った剣……日本刀を持って来てくれた。
鞘から抜かれた刀は、美しく光っている。
私はゴクリと唾を呑み、その刀を手に取る。
手にした瞬間のズシッとした程よい重さ。両手で柄を握ると、不思議な程にしっくりくる。鐔の下には、邪魔にならない様に縁金に沿ってぐるりと魔石が埋め込まれていた。
「……素敵っ!」
「刃も打ち直して、切れ味も完璧だ。その魔石は、魔力を流し易くする手助けをする。でかい魔力量でも、耐えられる仕組みになっているぞっ!」
良い仕事しただろう! と、自信満々にウィルは胸を張ってニカッと白い歯を見せた。
「最高です! ウィルさんっ、ありがとうございます」
超ご機嫌の私に、ライアンは小さな箱を渡してきた。
「これは、何でしょう?」
「……開けてみろ」
箱の中には、意匠の凝ったカメオペンダントが入っていた。とても高価そうな特殊な魔石に真ん中には、犬と猫の絵が彫られている。
「素敵っ!」
「アンジェ、それに魔力を流せ」
「えっ? あ、はいっ!」
ペンダントに魔力を流した瞬間に、ピカっと赤く光り脇に抱えていた刀が吸い込まれた。
――――――えっ!?
「それは、剣を収納するペンダントだ。それなら、どこへでも持ち運べるだろ。アンジェは、こういうのを欲しがっていると……ユウが教えてくれた」
「も、もしかして、お兄様が作ったのですか?」
「……まあ、な。ジルベルトとルイに手伝ってもらったが。いや、その……訓練のついでになっ」
「お兄様! ありがとう存じます!!」
嬉しさの余り、ライアンに抱きつきお礼を言うと……ライアンは珍しく耳まで真っ赤になった。
それに気付いた私も、ライアンとの距離感に慌てて離れる。もう、全身が茹でダコ状態になりそうだ。
そんな私達を、ウィルは生温かい目で見ていた。




