36.勇者を指名
どうやら、ポールとリアムの中で……。
私は、あっと言う間に最高峰の聖女にされたらしく、実験は終了だった。
そもそも、光属性の人間にしか癒しは行えないそうだ。レベルはどうであれ、癒しが出来る時点で聖女に認定されるのだとか。
光属性でも、癒しは出来ないが、浄化ができる人もいるのだとポールは言う。
取り敢えず、高度な回復薬を作れた私は両方らしい。
……浄化って、何だろう? 違いはよくわからないが。
本来、もっと細かく能力を調べる為に、たくさんの魔術具が用意されていたが。全てを超越した結果が出てしまったため、それ以上の判定は必要なくなった。
あの数々の魔術具は、ポールが研究を重ね、魔石を組み込み試行錯誤で作り上げた物だった。
リアムの言った通り、あんなでも本当に凄い人だったみたい。
「それじゃあ、アンジェ。リアムと一緒にサイモン爺の所へ行っておいで〜」
「おいっ、ポール! ジジイじゃない、占星術師のサイモン様だ!」
「あー、はいはい。急がないと待ってるよ〜」
「……ったく! ………アンジェ、行こう」
リアムに手を引かれ、また螺旋階段を登るのかと思いきや、その先にある扉の前に立たされた。
リアムが壁に指先で何かを描く。
も……もしやこれはっ!
術式が組み込まれた、箱のような部屋。完全に、エレベーターだった。
◇
向かったのは、占星術師が居る場所。ここの最上階の部屋だった。
下の階とはガラリと雰囲気が変わった。その薄暗い部屋の奥に、サイモンと呼ばれた占星術師は座っている。
好好爺然とした風貌のサイモンは、不思議な魔力の持ち主で、占星術を用いて王国や王家の吉凶判断を行っているそうだ。
まあ、かなりの重鎮てことよね。
入り口付近の従者らしき人に、サイモンの近くまで促された。リアムは私の背後に控える。
「其方が、聖女のアンジェだな」
「は、はい。サイモン様」
「うむ。かなり珍しい星の下に生まれたな。……其方は、この世界を左右する」
「ええっ!? 私がですか?」
私は間違えられた、おまけでしかないのに。この世界を左右するとか重過ぎる。きっとこれも、何かの間違いだろう。
「そうじゃ。ただ、もう一人……其方と同じ星の下に生まれた者が居る」
あ、伊織のこと……それなら納得よ!
占い、凄いわっ!
これは、いい感じにルイを勇者に出来るかもしれないと思った。
「これから……この世界に大きな災いが起こる。それを、止めることが出来るのは其方と……もう一人の人物じゃ」
きたぁ―――っ!! お、落ち着け、私!
「そ、その災いとは、大魔王復活ですよね?」
「……そうじゃ」
背後で、リアムが息を呑むのが分かった。
そして。
サイモンは顔を上げると、懇願するように真剣な眼差しを私に向けた。
「どうか、この国……いや、世界を救ってほしい」
「はい。わかりました」
私が真摯に受けとめると、サイモンがフッと力を抜いた。
――ここからが本題だ。
自然な流れで、ルイのことを伝えなくちゃ。
「その代わり、お願いがあります」
「願い? それは、なんじゃ?」
「実は、夢で御告げがありました」
前にルイが言っていたことを思い出した。何かあったら、神が言ったとすればいいって。
「なんと………!!」とサイモンは目を見開く。
「私には魔王を倒すことが出来ません。その、もう一人の人物。それこそが、魔王を倒せる唯一無二の存在――勇者なのです」
実際に、伊織が言われたのだから嘘じゃないし。
「私は、勇者が誰なのか……一目見て分かりました。その人物を連れて参ります。どうか、その勇者に王家に伝わる聖剣をお貸し下さい。魔王を倒せるのは、勇者が使う聖剣だけです」
「そ、そこまでご存知とは! アンジェ様……貴女は神の御使いなのですね」
いや、まあ。確かに連れてこられたけど、本当に神かは怪しい……。自称ですよ、あの神は。
「このサイモンにお任せ下さい。必ずや、王から聖剣を借り受け、勇者様にお渡し致します」
「では、サイモン様。聖剣が手に入りましたらご連絡下さいませ。勇者と共に魔王を倒しに参ります」
――そして、魔術師団本部での聖女(役)の仕事を終えた。
はあぁぁぁ、やっと一つ役目が果たせたわ。聖女から、神の御使いにランクアップされてしまったが。
それにしても――。
後ろを歩くリアムの視線をもの凄く感じた。
リアムにはまだ言っていなかったことを、ペラペラ喋ったのだから当たり前かもしれない。
もともと、完全に聖女と認められてから、国王へそれを伝えるつもりだったのだから。
でも、チャンスだったし……私自身、急展開で驚いているのだ。
言い訳を考えていると
「……アンジェ。その……勇者とは誰なんだ?」
なんだ、そっちか! 御告げの件じゃなくて良かった。
「ま、まさか……兄さ」
「あ、聖騎士団のルイですよ」
リアムに被せて言ってしまった。
あれ? 今「兄さ……」って?
リアムは全く想像していなかった人物だったのか、愕然としていた。




