32.朗報
「アンジェ、朗報だ!」
リアムは、私に早く伝えたくて急いで帰ってきたらしい。自分の部屋には戻らず、私の部屋に直行するほどに。
ここ数日。ずっと王宮に詰めていたリアムには、疲労の色が見える。相変わらず、髪型はピシッとしていて隙の無い美男子ではあるが。
「リアムお兄様、お疲れなのではないですか?」
私が心配すると、少し驚いた様子でリアムははにかんだ。やはりキャラが変わっている……。
「ずっと徹夜続きだったから、な。アンジェに心配かけない様に、身なりはちゃんと整えて来たんだが。全く……アンジェには、敵わないな」
「優しいですね」と自然笑みが出てしまう。
わざと明るく振る舞ったのは、リアムなりの気遣いだった。
「それで、どんな朗報なのでしょうか?」
コテリと首を傾げると、急に真剣な眼差しを向けたリアムは、私の両肩を掴み顔を覗き込んで言う。
「魔術師団内で、アンジェの魔力測定結果や癒しの能力、過去の文献とも照らし合わせて、師団長や幹部で審議した」
「そ……それで、どうなりましたか?」
ドキドキしながら結果を尋ねると、リアルは表情を緩めた。
「アンジェは、聖女と認定された!」
よ……よかったぁ!!
ホッとしたが、もう一つ気になっていることがある。
「では……王太子殿下とは?」
「普通、聖女は子を宿すと力を失ってしまうから、結婚は国としてさせない筈だ。ただし、王家の子孫に聖女の力を継がせたい場合は、別だが……。子供がその力を受け継ぐかは運次第だから、可能性は低い」
――だから安心していい、とリアムは言った。
へぇ……、聖女って力失うんだ。
なんか私の場合、当てはまらない気がするけど……普通じゃないから。あの神が間違えただけで、そもそも聖女じゃない。
「できれば早急に、魔術師団本部へ一緒に来てほしい」
「えっ、魔術師団の本部ですか? つまり、王宮内ですよね?」
「そうだ。我が団本部には、持ち出し厳禁の魔術具がある。それを使い、更にどれ位の力があるのか……癒しの他に聖水、つまり回復薬等も作れるのかを調べたい。アンジェは特例で、出入りを許可された」
ちょっとモルモットにされそうで、怖いな。
まぁいざとなったら、王宮爆破して逃げれば……。
私が物騒な……いや、不安そうに見えたのか。リアムは、全て自分が付き添うから安心するようにと言った。
「それから、魔術師団と共に王に仕えている、高位の占星術師がどうしてもアンジェに会いたいと言っている。とても、信頼できる人物だ」
「……わかりました! では、いつ向かえば宜しいでしょうか?」
「そうだな……。私はこれから戻って報告をする。だから、明日また迎えに来よう」
そう言い残し、リアムは王宮へ戻って行った。
これは、急いでルイとライアンに報告しなきゃ――そう考えていた矢先に、ユウが帰ってきた。
『主人、ただいま〜。伊織が、王宮内で動きがあったって言ってたわっ。それで、これ預かってきたのよ』
おお、なんてタイムリーな!
ユウの首には、まるで誂えたかの様な首輪がしてあった。
――いや違う。
首輪じゃなく、キラキラ輝くルビーのような、大きな魔石が埋め込まれたブレスレットが巻かれていた。
ユウの首からブレスレットを外す。意外とズシッとしている。
「ユウ、重かったでしょ? 首は痛くない?」
『ううん、これ着けると全然重くないのよ! 伊織が、主人がいつも身に着けていられるように作ったって言ってたわ』
それは、ルイとジルベルトの共同製作の、通信できる魔術具だった。
あの二人には、作れない物は無いんじゃないかな?
この魔術具があれば、わざわざ出向く必要はない。このままライアンの帰りを待つことにした。
ライアンが帰ったら私の部屋に来てもらうように、セバスチャンに頼んでおいた。大切な用事があるからと。
だが、今夜は珍しくライアンの帰りが遅く、帰って来たのは深夜に近かった。
迷いながらも、ライアンは私の部屋にやって来た。
私が成人していたら、きっとセバスチャンに全力で止められただろうが……。




