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31.現実逃避

 突然のジョセフの来訪に、私はぐったりしていた。

 セバスチャンやメイド達にも疲れが見える。


 そりゃ、何も準備もしてない状態で、いきなり王太子が来たらねぇ……。侯爵の留守中に粗相があったらと、気が気じゃなかっただろう。

 私だって、お花畑ではお互いを知らなかったから気軽に話してはいたが。この世界の常識を知ってしまった今は無理だ。


 ――――ドスドスドスドスッ!


 大きな足音がすると、また私の部屋の前で止まる。


 ひっ……今度は何っ!?


「アンジェ!! 大丈夫かっ?」

「……え? あ、ライアンお兄様」


 やって来たのがライアンで心底ホッとした。

 けれど、勤務中のこんな時間にライアンが帰ってくるのはおかしい。


「ど、どうされましたか?」

「どうしたって……王太子殿下が突然来たと!」

「ええっ!? もうご存知なんですか!」


 ジョセフはさっき帰ったばかりだ。


 聞けば、どうやらユウが事態に気付き、急いでルイの居る聖騎士団の訓練場に向かったらしい。

 たまたま、ライアンと剣の訓練をしていた時だったので、慌てて帰って来たそうだ。


 事の成り行きを説明すると、ライアンは安堵してまた訓練場へと戻って行った。


「ねえ、ダン。ユウは?」


 ソファーに座った状態で、ウトウトし始めたダンに尋ねる。


『んー? まだ帰ってきてないよ。伊織のとこだよ、きっと……』


 ダンは満腹で眠いのか、目を閉じコロンと横になる。

 この部屋でおやつを食べながら、ひとりぼっちで留守番していたのだろう。私が戻って安心したみたいだ。

 すぐに小さなイビキが聞こえてきたので、プッと吹き出してしまう。可愛すぎっ!

 

 反対にユウは、ライアンが侯爵邸に戻っている間、ルイと何か対策を練っているのかもしれない。

 機転が利くというか、ユウは本当に頼りになる。


 そういえば……。


 東の樹海の調査結果は、どうだったのだろうか。


 憶測ではあるが、樹海には沢山の魔物が居るはず。森で、まれに遭遇する程度の魔物より、格段に強いものが。

 でなければ、専門の文官に普通の護衛を付けた調査隊ではなく、聖騎士団に依頼するはずが無い。

 ましてや、魔物の動きが活発になっているなら、尚更だ。


 ちなみに、大魔王ってどんな奴だろう……。ルイはちゃんと倒せるかしら?

 聖剣も見ておきたい……出来たら切れ味の方も。もしも使い物にならなかったらと、少し心配になった。

 

 そんなことを考えていたら、今ウィルに加工してもらっている自分の刀が気になってくる。

  

 なんかもう今日は疲れたし。うん、嫌なことは忘れて好きなことだけ考えよう!

 決して現実逃避ではない……。そう、これからのためのイメージは大切だもの!


 自分に言い訳しつつ、ふと思う。


 私の身長だと、あの日本刀をどう持ち運ぶのが良いか? ……え、背負うとか? 


 巴の頃より、アンジェの今はもっと小柄だ。武士みたいに脇差しなんて出来ないし。

 こんな体型で、80cmはあった刀を鞘に収めたら更に長くなり、背負うのも微妙。絶対動きにくい。


 いっそ……刃の部分だけ、他の空間に仕舞えないかしら?


 鞘に魔法陣を組み込むか、魔法を付与すれば可能な気がする。

 それとも、ポーチみたいなのを異空間と繋げてそこに収納するとか?

 アクセサリーとかに魔石を組み込んで、そこに仕舞うのもありかしら?

 ベルトのバックルに……あ、それは何かに変身しそうなヤツだから却下だわ。

 

 何だかワクワクしてきた……ふふっ。


 ちょっとこれは、ジルベルトに相談した方がいいかもしれない。あの小屋を作ったのだ。もしかして、携帯可能な武器庫とかあるかもしれない。



 最近、自分の部屋の一画に、あの山岳の訓練場に繋がる転移陣を勝手に敷いてしまった。

 わざわざルイの家を経由するのも大変なので、直接訓練場集合なら人目につかなくて良いと思ったのだ。


 誰かが間違えて転移されないよう、私とダンとユウの魔力だけに反応する様に組んである。

 まあ、かなりの魔力を使うので、普通の人にはまず使えないだろうけど。


 山岳の訓練場にいけば、ルイの家にも難なく転移できる。

 

 直接、ルイの家に転移出来るようにしても良かったが……。ライアンにバレたら、大目玉を喰らいそうな気がした。もう家出もするつもりは無いし、ルイとの関係は知っているから、大丈夫だろうけど。


 うぅ……ん、たぶん、きっと、大丈夫な……はず。自信はないな。



 善は急げで転移しようと思ったら、誰かが来る気配がした。


 ――トントンッ……と、ノックされた。


 今日は本当に来客の多い日だなと思いつつ、扉を開ける。

 そこには、王宮から戻ったリアムが立っていた。


「え、リアムお義兄様!?」


「アンジェ、ただいま!」


 と両手を広げ、満面の笑みでハグされた。


 ……え。リアムお兄様、そんな陽気なキャラでしたかっ!?





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