3.人との遭遇
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森を抜けると、そこには小さな川が流れていた。自然の中にあり、水が澄んでいて美しい。
「「ここで汲んだのっ!」」
そう、自慢げに言う二人がとっても愛おしい。またまた、ぎゅ〜っと抱きしめる。
すると、ガサッ……ガサガサッ……と茂みが動く。
――何か来るっ!?
ダンとユウはビクッとした。
「……危険な臭いがするっ!」ダンが怯え、ユウも震え出す。
――守らなきゃ!!
ただそれだけ思った。咄嗟に落ちている長くて硬そうな木を拾い、五歳から習い続けている剣道の竹刀の様に、両手で構える。
――来るっ!
刹那。獰猛そうな真っ赤な眼をした、大猪が飛び出してきた。
と同時に、私は地面を蹴って助走をつけると、一気に飛び上がる。神経を木に集中させ、猪の頭の真上に振り下ろす。
その振り下ろした木は、なぜか輝き……まるで日本刀のように、大猪を真っ二つに割った。ドサァッっと、左右にその体は倒れピクリともしない。
「……えっ、なんで……?」
思わず疑問が口をつくが、その惨状に唖然とする。
「「巴すごい! カッコいい!!」」
でも、ダンとユウは感動しているみたいだ。思わず手にした木を凝視するが、何の変哲も無いただの木だった。無い頭で必死に考える。
これは一体どうした事だろう?
脳震盪を狙って打ち込んだのに、木が刀になった?
それに、この大猪は何?
意味がわからない。こんな大きさの猪なんて、見たこともないよ。
「これが、あの変な神が言ってたチートってやつだね!!」
ダンがキラキラした瞳でそう言った。
「チートって、何? あの神?」
チートという言葉に聞き覚えがあった。
――そうだ!
白い部屋から床が消え、なぜか落っこちて。
『チートなやつと強運』がどうのって聞こえたんだ。他にも何か聞こえたけど、よく思い出せない。
「ねえ、ダンはチートって何かわかるの?」
私にはさっぱりと分からない言葉だよ……。
「えー、巴は覚えてないの? よくゲームとかパソコンしながら、伊織が巴に言ってたじゃない。ズル出来ちゃう、すっごい力でしょ?」
「……そうなの? 覚えてない……」
私はポメラニアン以下の脳みそしか無いのかも……と悲しくなってくる。
「しょうがないわよ、巴は剣道一筋だったから」
さりげなく、ユウがフォローしてくれた。ありがとう……持つべきものは優しい猫ね。
「はぁ。でも、これからどうしよう?」
ガサ……ガサガサガサ。
「ひゃっ! 今度は何!?」
ダンとユウは何かを察知したのか犬と猫の姿に戻る。
「――アンジェ、こんな所に居たのか?」
ガサッと草を掻き分け、男が現れた。
「だ……誰?」
私の声が聞こえなかったのか返事は無い。
アンジェって誰よ。
キョロキョロ見渡すが誰も居ない。男は明らかに私を見ている。ならば、そのアンジェとは私のことかなと思う。
「何をやっているんだ? さあ、帰るぞ」
帰る……つまり、知り合いなの?
この端正な顔立ちの美丈夫が、誰だかさっぱり分からない。
しかも、綺麗な服装しているし。昔、教科書で見た貴族みたい。私が着ている服とは随分と品質が違う。
全く状況が理解出来ないので、取り敢えずダンとユウを連れて、その男のあとを追う。
足の長い男の歩幅にあわせ、小走りぎみに歩き続けると、木陰に立派な馬が繋がれているのが見えた。
男が馬に近付くと手招きされ、ヒョイっと乗せられる。その男も軽やかに跳び乗り、手綱を持つ腕の中にすっぽりと私は収まった。私の腕の中にはもちろんダンとユウがいる。
初の乗馬だっ。ワクワクする!
ふと腕の中から視線を感じた。
あうっ……、ダンとユウの目が呆れている。不安な筈の状況なのだ、これ以上緩むな私の口元よ。
そして森を後にして暫くすると、街へと入ったようだった。それなりの賑わいがあり、下町みたいな雰囲気。
――へぇ。
色々な出店があった。興味深々で見ていると、チラチラと行き交う人々がこちらを向く。
な、何か見られてない?
よくよく見れば、その視線は私や馬ではなく、この美丈夫に行っているみたい。
服装が周りと全く違うからかな?
この辺の人は、私みたいな質素な服しか着ていない。貴族と平民……そんな差を感じるなぁ。
何となく居心地の悪い私と違い、この男は気にも留めていない様だった。