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11.弟との再会

 特別に、訓練場の中も見せてもらえることになり、ライアンの後について歩く。

 近くで訓練を見学できるなんて!

 本当は、スキップしたいくらいなのだが、実行したら確実に雷を落とされるだろう。


「今日は休日なので、ほぼ自主練に近い」


 私に合わせたスピードで、ゆっくり説明しながら歩いてくれる。

 なるほど。休日だから、私を連れてきても問題無かったのか。

 

「直ぐそこでやっている奴らは、団の中でもかなりの手練れだ」


 体格の良い、熟練された剣筋の三人を指差した。

 多分、ライアンより年上だろう。こちらに気が付き、声をかけてきた。


「団長ぉ、今日は随分と可愛いお供をお連れですね? ……まさかっ、恋人ですか!?」


 興味津々という感じで、上から下まで眺めてくる。いくらなんでも、上司に対してその質問はダイレクト過ぎないか?


「こいつは、義妹だ。聖騎士団に興味があるそうだから、見学させているだけだ」


 笑いながら答える。


 おや? 怒らないんだ。

 チラッとライアンを見る。かなり信頼関係が成り立っている様な雰囲気だった。


「初めまして。妹のアンジェと申します」


 一応、令嬢らしく挨拶をしておく。


「「「おー! やっぱ、女の子はいいなぁ」」」


 将来美人になるとか、変な男に気をつけろとか、色々語りだした三人……。


「もう……分かったから、さっさと訓練に戻れ」


 ライアンは、冗談混じりにシッシッと追い払う。

 名残惜しそうな三人を後にして、訓練場の端の方までやって来た。さっき、窓から見えたギリギリの場所だ。もう少し先に、彼が居るだろう。


「師団長ぉー!」


 背後からライアンを呼ぶ声が聞こえると、慌てて走ってくる人物が見えた。


「師団長、申し訳ありません! 王宮より急ぎの連絡との事です。一度、本部までお戻り下さい!」


 ライアンは即座に頷き、私を見た。


「お兄様が戻られるまで、のんびり見学しておりますので。どうぞ本部へ向かわれて下さい。外部の人間が居ては不味いでしょう?」


 王宮からの連絡なのだから大切な用事に違いない。

 ライアンは一瞬、心配そうな顔をしたが、すぐに戻るからと本部へ向かった。


 これで、好きなように見て回れるわっ。くふっ。


 ライアンを見送ると、心の中でほくそ笑み、足をすすめた。向かうは青い髪の男の所だ。ちょうど視線の先には、青い髪が見えてきた。


 後ろ姿だが、太陽の日差しを受けた青い髪がキラキラと透け、まるで輝いているようだ。流れるような動きに合わせ、揺れる髪が何とも美しい。

 思わず近くに行き過ぎてしまった。私に気付いたのか、青い髪の男は振り返る。


 あれ……青年というより、まだ少年に近い若さだ!


 小柄なわけだ。

 オスカーも強いと認めていたが……青髪の少年ルイと目が合った。


 ―――――――!!


「……ね……姉さんっ!?」

「えっ!? うそ、伊織?」


 お互い、全く以前の姿とは違ったが――。

 わかるっ! 確かに伊織だ。


 双子のシンパシーと言うやつだろうか。

 ルイ……いや伊織は私に駆け寄ると、強く強く抱きしめた。


「姉さん……本当に姉さんなんだね! 無事でよかった!」

「……伊織、ごめんね心配かけて」


 弟の涙声に優しく答えた。

 そして、抱きしめられながら伊織の背中をさすってあげる。

 たぶん、向こうの世界で(わたし)は死んだんだ。橋から落ちたのだから。


 ようやく伊織は落ち着いたのか、抱き締めていた手を離し、じっと私を見詰める。

 それから、ポツリ、ポツリと口を開いていく。


「姉さんが突然死んでしまって――。僕の代わりに、姉さんが異世界転生させられたって、後から知ったんだ。本当に信じられなかった……」


「私も信じられなかったわよっ! 変な神が、勝手にパニクって床から落とすんだものっ!」


 思い出すと腹が立つ。その時の状況を伊織に愚痴る。


「はは……見た目は変わっちゃったけど、姉さんが元気そうで本当に良かったよ」


「それなりに、楽しくやってるわよ。こんな超絶美少女になるとか、ね。まだ鏡見ると驚くけど……でも、伊織も相当なイケメンね!!」


「確かに!」


 本当に久しぶりに姉弟で笑った。


「そうそう! ダンとユウも一緒に住んでるのよ。私、ダグラス侯爵家の養女になったの。ビックリでしょ?」 


「ええっ!? ダグラスって……じゃあ、ライアン師団長の家じゃないか!」


「そうなのよっ。それで、剣道がない世界は耐えられなくて、この世界の剣を教えてもらおうとね。今日はお兄様と、見学……に」


 そこまで言って気が付いた。


 ……この場所って、師団長室からギリギリだけど、しっかり見えたよね?

 サーっと血の気が引く。まさかね。


 恐る恐る、背後を振り返ると――師団長室の窓には、ライアンがペッタリ張り付くようにこっちを見ていた。


 ――ゾクッ! と寒気が。


 ……ど、どうしよう?




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