10.騎士団見学
窓を開けると、爽やかな日差し。朝からとても良いお天気で、絶好の聖騎士団見学日和だった。
楽しみで、ワクワクが止まらない。
『主人、嬉しそうだね〜』
『本当ね。帰ってきたらお話聞かせてね!』
ベットの上でゴロゴロしながら、ダンとユウが話しかけてくる。
「もちろんよっ! 楽しみに待っててね」
リリーにお願いして、動きやすく、それでいてライアンの義妹として恥ずかしくないような服装に着替えさせてもらった。今日は見学だから、あくまでも侯爵令嬢らしくだ。
ライアンと一緒に馬車に乗り込むと、すぐに出発した。
先に、王宮とは少し離れた騎士団用の別棟へと向かう。私はまだ社交界デビューを果たしてないので、王宮には入れない。
だから、ライアンが戻って来るまで、聖騎士団本部の師団長室で待つようにと言われた。
到着すると、副師団長を紹介してもらう。
「副師団長のオスカーだ。私が戻るまで、義妹のアンジェをよろしく頼む」
「アンジェ嬢、副師団長のオスカーと申します」
にこりと微笑み、オスカーは騎士の挨拶をしてくれた。
「オスカー様、よろしくお願い致します」
副師団長オスカーは、美丈夫のライアンに負けず劣らずの美しい顔立ちの青年だった。黒髪のライアンと、プラチナブロンドのオスカーが並ぶ姿は、息を呑む程に圧巻だ。ま、眩しい……。
「すぐに戻るから、くれぐれも! 大人しくしているようにっ」
「もちろんですわ、お兄様」
「オスカー、アンジェから絶対に目を離さないように」
ライアンはしつこい位に釘をさし、王宮の魔術師団本部へ向かった。
そんなに心配しなくても……信用無いなぁ。まあ、初対面で窓から逃げるような事しちゃったしね。
「アンジェ嬢、よろしかったら紅茶でもいかがですか?」
オスカーが手際よく、美味しそうなお菓子と紅茶を入れてくれた。あまりにも容姿端麗で、本当に騎士なのか疑いたくなる。
でも……副師団長なら、かなり強いはず。いつか手合わせ願いたい!
令嬢として、あまり男性をガン見するのはまずいので、何気なく窓に目をやった。
訓練の掛け声が聞こえてくる。
師団長室の窓は、ちょうど訓練場が見渡せる位置にあにあった。どうせ時間があるなら、窓に張り付いて外を見ていたい。そんな気持ちを、グッと抑える。
ふと、オスカーがこちらを見ていることに気がついた。窓をガン見してたのバレたかな?
「オスカー様? どうかされまして?」
「いえ、失礼しました。アンジェ嬢のことをお話しされている師団長が、余りにも嬉しそうでしたので……つい」
オスカーの言葉に含みを感じた。
――はっ!
もしかして、オスカー様はお兄様のことを……。あの、禁断のやつ? あまり巴時代は、そっち系の本は読んでこなかったから詳しくない。
でも、確かに二人が並ぶ姿は美しい! 両思いだとしら、妹として応援すべきよね? オスカーは良い人そうだし。うん!
「オスカー様! どうぞ、お兄様を幸せにしてやって下さいませ!」
ガシッと、オスカーの手を掴みライアンを頼んだ。
「………あの。私と師団長は、その様な関係ではありませんよ?」
「あら?」
しまった、早とちりだったか!
オスカーが口元に手を当てて、堪らないと言う様に笑うのを我慢して……いや、もう完全に声を殺して爆笑している。
「す、すみ……ません。師団長が面白い義妹が出来たと楽しそうに仰ってたのですが、アンジェ嬢が余りに完璧な侯爵令嬢だったので、不思議に思っていたのです。それが……ぷっ……」
なんだ、お兄様は私のことバラしてたのか。だったら、無理に侯爵令嬢しなくても良かったんじゃない。
それにしても、この世界の男性は笑上戸が多いのだろうか。
「お兄様、私のことを面白い義妹だと? なら、自然体で居てもよろしいでしょうか?」
「ぶっ。どうぞ、この部屋の中では大丈夫ですよ」
「では、遠慮なく!」
ダッと窓に駆け寄り張り付いた。
見える、見える〜! 訓練がっ!
やはり、剣道と騎士の剣術は全くの別物だ。そもそも、使う剣が違うのだから。今は木剣でやっているみたいだが、本物はもっと重いだろう。
あれ?
青い髪の人、物凄く強いのでは? 見た感じ、周囲の人よりだいぶ小柄だけど。
ガバッと振り返り、オスカーに尋ねる。
「あの向こうの青い髪の人、かなりの強者ではないですか?」
オスカーは、目を見開き驚く。
「確かに、彼はかなり強いです。若いですが私達と同等の腕前ですよ。………よく分りましたね」
「それは、見たらわかるじゃないですか?」
そりゃ、あんなに隙がなくて、無駄の無い流れるような動きだし。多分、気も扱えるだろう。ライアンやオスカーと同等?
――いや、彼はもっと……。
そして、そのまま窓に額をくっつけてガン見し続けた。いつの間にか戻ってきたライアンに、窓から剥がされるまで。
「アンジェ、私は大人しくしていろと言わなかったか?」
「はい。大人しく窓から訓練を見ておりましたが?」
「………。淑女は、そんなに額が赤くなる程、窓に引っ付いて長時間立ってはいないぞ」
――あ。
慌ててオデコを両手で隠す。やってしまった。
ぷっ……クスクスクスと、オスカーの笑い声が聞こえる。
「師団長、アンジェ嬢は先見の明をお持ちの様ですよ」
「オスカー、どういうことだ?」
「その窓から訓練を見ただけで、ルイが一番強者であると断言されましたよ」
「……そうか」
私は不思議に思い、首を傾げた。
なんとなく、二人の会話に違和感を覚えたのだ。




