平成20年②
暑い日差しが照りつける夏の日。太陽がエグいぐらい僕の顔に熱をぶつける。そういえば小学生の時に美喜ちゃんと立山行った時も、このぐらいの暑い日だったな。僕は一人で富山駅JR口で待っていた。時間になっても一向に幼馴染が来る気配はない。最近親に買って貰ったウォークマンでGReeeeNの「愛唄」を聞いて待っていた。年上の幼馴染は待ち合わせ時間を15分ぐらい過ぎた所でやってきた。
特に急いでいる様子はなく、どこか涼しげな感じだった。
「遅くなってごめんね。CD屋さん行って、前から買いたかった嵐のone love買ってて遅くなった。」
美喜ちゃんは申し訳なさそうに言った。
俺より嵐かよ。と思いつつも
「気にしないで。」
と笑って答えた。
「今日、どこに行くの?」
美喜ちゃんは笑顔で
「氷見行こうよ!」
「氷見?いいけど。氷見で何するの?」
「せっかくさ、富山にいるんだったら富山らしい所行きたいじゃん。そう思わない?」
「そうかなぁ‥」
「じゃあ、早く行こう!」
と言い美喜ちゃんは駅の中へ歩いて行き、僕はその後ろについて行った。
あいの風とやま鉄道に乗り、高岡駅降りてJR氷見線に乗った。
氷見線はかなりローカルな電車で車内には殆ど人が乗っていなかった。
僕と美喜ちゃんは隣同士で座って電車が発車するのを待っていた。
隣でケータイをいじる美喜ちゃんを僕は見つめていた。美喜ちゃんは高3で凄く大人ぽくなった。ちゃっかりお化粧もしてるし、ファッションセンスも凄く良い。ヒラヒラと揺れるフレアスカートも可愛らしい。富山みたいな田舎だと逆に浮くのではないかと思うが、いつもの制服姿の美喜ちゃんとは違う綺麗なお姉さんになっていた。
「何?ジロって見てんの?」
「え?え?‥え?」
「電車の中でオドオドしないでよ。」
「ごめん。」
電車が出発した。
住宅街を走り、更地を走り、一気に海沿いへと出た。僕らの乗っている電車の窓から広々とした日本海と雄大な立山連邦が青々しく聳え立っている。山と海が混じり合う風景は本当に美しい。日常的に自然を意識したことがないが、こんなに美しい景観が僕らの住んでいる地域にある。
僕は窓から景色を堪能している傍、幼馴染は最近買って貰った、ケータイ電話をポチポチと弄っていた。
氷見駅に着いて僕らは降りた。
美喜ちゃんは
「ここから歩いて番屋街行ってご飯食べましょ。」と言った。
そこから海沿いの道を2人で歩いて行った。波の音が静かでサッーと流れて、頭上高くに鷹がピュ〜ロロと鳴いていた。
海沿いの一本道を歩きながら美喜ちゃんは僕に聞いてきた。
「春樹くん、進路決まった?」
「うん、決まったよ。美喜ちゃんの高校受ける予定。」
「うちの高校?」
「うん。家から通いやすいし。テニス部もあるし。」
「そーなんだ。高校自体のレベルは高くないけど、春樹くんの今の状態で受かるの?私は凄く心配なんだけど。」
僕は頭の後ろを掻きながら
「もうちょっと勉強すればなんとか。」
「もぉ心配なんだから」
海沿いの道から横断歩道を渡って、番屋街に続く橋を渡った。車道と歩道は綺麗に整備されているものの、車はほぼ通ってない。人もポツポツしか歩いていない静かな町だ。橋を渡ると右手側に番屋街が見えた。ここの氷見番屋街は富山の海産物や足湯、温泉が楽しめる道の駅である。
美喜ちゃんは
「寿司食べよう!」
と言いルンルンだった。
そこの回転寿司は富山で有名な回転寿司屋で、すぐそばにある氷見漁港から取れた魚を食べれる人気のお店だ。
「美喜ちゃん、ここお店はすごく有名で美味しいけど値段が‥」
やはり、中学生からしてみれば回転寿司屋はかなりハードルが高い。
「今日は春樹くんのお疲れ会なんだから、私が奢るよ。」
「え!本当に!でも、なんか悪いよ」
「いいの!中学生より高校生の方が経済的余裕がありますから!」
美喜ちゃんは笑いながらお店へ入って行った。僕もその後に続いた。
僕らはテーブル席に案内された。
美喜ちゃんは小声で
「奢るって言ったけど、あまり高いの選ばないでね。大トロとかうにとかノドグロとかやめてね。」
「うん、分かった。」
と僕は答えた。
美喜ちゃんは口を尖らせながら
「ねぇ春樹くん!ブリ食べたい!」
と言った。
「あ、うん。あ、ああのーすぃませーん。ブリ2皿下さい。」
「あ、ごめん。私もう一皿ブリ食べたい」
「ごご、ごめんなさい。ブリ4皿下さい。」
美喜ちゃんは僕の姿を見て微笑んでいた。
「え?」
美喜ちゃんは
「ううん。何でもない。」と答えた。
ブリ4皿運ばれてきた。
美喜ちゃんは目を輝かせながら
「いただきます!」
と言い食べた。
「おいし〜やっぱ富山のお寿司は日本一だね!」美喜ちゃんは笑顔で食べていた。
僕もブリを食べた。正直、富山以外の寿司を食べたことがないので、ブリはこの味という先入観しかなかった。
僕が食べている姿を美喜ちゃんは見つめていた。
「うん?」
「春樹くん、美味しい?」
「うん、美味しいよ。」
「良かった。」
「あ、いや食べてる所じっと見てるかさ」
美喜ちゃんは笑いながら、
「美味しそうに食べてるなって思ってさ」
僕は照れ臭くてやや下を向きながら食べた。
それから、僕らは白エビにマグロにアジなどを頼んだ。
そして食べ終わり、本当に美喜ちゃんが全額払って店を出た。
僕は会釈して、
「ありがとう。ご馳走様でした。」
と言った。
それに対して美喜ちゃんは
「こちらこそ、美味しそうに食べてくれて
ありがとう。」
と言った。
回転寿司屋を出て、番屋街の外にある足湯に浸かった。
ここの足湯は小さな丘の上にあり、そこから氷見の海を見渡しながら、足湯に入れる。
僕らは靴置き場で靴と靴下を脱いだ。
美喜ちゃんの足は白く、綺麗で細っそりしていた。
僕らは隣同士に座り海を眺めた。
小学生の時も隣同士で座ることもあったが、
今、久しぶりに隣に座ると凄く緊張する。
ドキドキが止まらない。小学生の時にはなかった感情があった。
足湯に入ったばかりなのに、もう熱くなってきた。夏だからか?いや多分違う。
色々と頭の中で妄想と思考が混じり合っている僕の姿を美喜ちゃんはじっと見ていた。
「え?」
「ううん。」
美喜ちゃん微笑んでいた。
「なんかねぇ、最近春樹くんが可愛くてヤバいの。寿司食べてる姿とか、一生懸命素振りしている姿とか見るとね可愛くて仕方ないの。」
僕はあぁと言いながら何も返せなかった。
「可愛い過ぎて、キュンとしちゃうの。」
僕は身体から熱がおびて、頭がぽーとなった。中学生にしてみれば、刺激が強過ぎた。
「あ、でね、春樹くんに伝えないといけないのことがあるの。」
「うん。ちょっと待って。」
「どうしたの?」
「ちょっと息吸わせて」
僕は一息ついた。
美喜ちゃんの言葉をしっかり受け止めれる状態にしたかったからだ。
「いいよ。どうぞ、」
僕は背筋を伸ばした。
「そんな、かしこまらなくてもいいよ。言うね。」
「うん。」
僕は手をグーにしたまま膝に置いていた。
「私、高校卒業したら、東京に行くの。」
「え?」
思ってみないような発言だった。
僕はかなり動揺してたと思う。
「私ね。洋服が好きなの。デザイナーとかアパレルの店舗運営をやってみたいんだ。だから東京の服飾の専門学校に行くことしたんだ。」
「そうなんだね。」
「富山にイオンできたでしょ?そこでアパレルのバイト始めたんだ。そうしたら、洋服にハマっちゃって」
僕は美喜ちゃんがバイトしてたことも初耳だったし、そんな大きい夢を描いていたことも知らなかった。
「だから、私も東京で頑張るから
春樹くんも高校受かって、テニス頑張ってね。応援してるし、私のことも応援しててね。」
僕は大きく頷いた。
「うん、応援する。美喜ちゃんがそんな大きい夢を描いて歩み出してるなんて
知らなかったよ。」
「夢に向かってやろうと思ってるんだけどね。
やっぱり不安もあるよ。東京ってどんな感じなんだろうって。」
「僕も行ったことないから、分からないな。」
「不安だけど、渋谷や原宿や最先端のオシャレを目の当たりにしたいの。そして、勉強したい。私ね、初めて人生の中で1番勉強したいって思ったんだ。1番大好きなことを勉強できるっていいじゃん?嫌いなことは頭に入らないけどね。だから、春樹くんも受験勉強の時1番興味ある分野から勉強すれば、やりやすくなるんじゃない?」
「確かにそうかもしれない。僕は歴史が好きだから‥」
「だったら、歴史をガッリ勉強すればいいじゃない?そしたら、他の所も補えられるよ。」
美喜ちゃんの目は輝いていた。イキイキとしており、前を向いていた。僕はそんな美喜ちゃんを見てて凄く嬉しかった。嬉しかったけど、遠くにいちゃう淋しさもあった。
もっと、可愛がって欲しかった。褒めて欲しかった。くだらない話しをしたかった。手を握って欲しかった。
美喜ちゃんは立ち上がって
「そこの海見ようよ。」
と言った。
僕らは足湯から出て、番屋街を出た。
番屋街を出て道路を渡ると海だ。
テトラポットの手前に広場があり、そこから海を眺めることができる。
美喜ちゃんは手を上に伸ばしながら
「そよ風が気持ちいいね!なんだか落ち着くねぇ」
そよ風で美喜ちゃんのスカートがヒラヒラ揺れていた。
僕は後ろで海をずっと眺めている幼馴染を見つめていた。
美喜ちゃんが振り返った。
「なんか、元気ないね?疲れちゃった?」
僕は慌てて
「そんなことないよ!」
と返した。
「もし、疲れたとか、帰りたいとかは、しっかり言ってね。」
「うん。」
(まだ、帰りたくないよ。)
「ねぇ、あそこの見晴台登ってみない?」
近くに低い大きな白い見晴台があった。
「うん、いいよ。」
「あの高さだったら、春樹くん怖くないもんね。」
美喜ちゃんは悪戯っぽい顔で笑った。
「このぐらい、平気だよ。」
僕らは階段を登って上に着いた。
周りに高い建物がないため氷見の海を一望できる。
「私ね東京行っても故郷のことは忘れないよ。綺麗な景色に美味しいご馳走。そして、美しい思い出もあったから。」
「美しい思い出?」
「うん、本当に美しいだけじゃなくて、淋しくて辛くて闇しかない時もあったよ。そんな中でも光を刺してくれたこと。私のことを応援してくれて、仲良くしてくれた周りの人も美しい思い出だよ。正直、ここを離れるのは寂しいけどね。でも、友人達も4月から新しいスタートを切るから、私も負けないようにってさ。」
「美喜ちゃんなら、容量がいいし、頭いいから大丈夫だよ。」
「春樹くんから言われても嬉しくないし。もう、私のこと知ってるでしょ?」
「うん、頼れるお姉さんのような存在だけど、心は凄く純粋で抱え込みやすい。一人で悩む癖がある。」
「分析し過ぎ!」
美喜ちゃんは笑って続けた。
「東京に行って上手く行かなかったらどうしようかなって。また、一人で抱え込んだらどうしよかなってさ。周りには誰もいなし。ひとりぼっちで出来るかな?なんてね。」
美喜ちゃんは作り笑いをした。
「大丈夫だよ。僕は応援してるよ。」
「ありがとう。」
「僕は美喜ちゃんの味方だから。」
美喜ちゃんは僕の顔を見て、キュッとえくぼをあげて微笑んだ。
「その言葉、凄く嬉しかったんだ。あの時凹んでたからさ。」
「だから、もし辛くなって帰ってきたら、また隣に座わるよ。」
「ありがとう!春樹くん!」
僕と美喜ちゃんはお互い顔を見合わせながら笑った。
「ちょと!春樹くん、私より背が大きいじゃない?いつから大きくなったの?」
「え!?逆に今気づいたの?」
「全然、気づかなかった。
てかさ、そんな上から見下ろさないでよ。恥ずかしいじゃん。」
「あ、ごめん。」
「ごめんってさ、昔からごめん、ごめんってさ本当にごめんって思ってるの?」
「うん。」
「じゃあ、誠意見せてよ。」
「誠意って?」
「ごめんに対しての行動。」
「わかった。」
僕は上から見下ろしていた幼馴染をさらに顔を近づけた。本当にこのまま奪ってしまいそうだ。幼馴染もそれを期待しているのか、否かわからない。幼馴染も下から僕のことを優しく見つめている。
「ごめんね。美喜ちゃん。」
と呟き、
僕はそのまま年上の幼馴染の唇を奪った。
どのぐらい奪っていただろうか覚えていない。時が止まっているような感覚だ。
僕はずっと目を瞑っていて、美喜ちゃんの表情を直視できなかった。
お互い唇を離した所で、沈黙が続いた。
美喜ちゃんは、穏やかなのか無表情なのか分からない感じで僕のことを見つめていた。
僕も美喜ちゃんのことを見つめることしか出来なかった。
僕は重い口を開いた。
「美喜ちゃん、ごめん。本当にごめん。」
と謝った。
そしたら、美喜ちゃんは満面の笑みで
「帰ろっか」
と言った。
僕は「うん。」
と言い氷見駅へ向かった。
駅に向かうまでと電車の中では、ファッションの話や、バイトで経験したことなど美喜ちゃんの話しをずっと聞いていた。
特にキスに関してもお互い、その日は何も話さなかった。
美喜ちゃんはどういう気持ちだったのか、謎だった。嬉しかったのか、嫌だったのか?なんとも思わなかったのか。そして、キスの仕方があれで良かったのかも、中学生の自分には分からなかった。




