平成15年②
1学期が終わり夏休みになった。周りの奴らは友達とプールだの海だの花火大会だので盛り上がって話していた。僕は友達がいないので、そんな浮かれた話しには耳を傾けないようにしていた。美喜ちゃんが卒業してから完璧に一人ぼっちになった。毎日、休み時間は図書室で本を読んで過ごし、さっさと帰宅して家に篭って、また本を読むのくりかえしだ。
最近、美喜ちゃんが学校に行っていないらしい。僕の母親と美喜ちゃんの母親が話してるのを偶然聞いた。なぜ、あの明るい活発過る美喜ちゃんが学校に行かなくなったのか不思議だった。あと、少し前にマンションの出入り口で会った時、美喜ちゃんの顔色は凄く悪かった。声掛けても反応なかったし。
夏休みの朝はすごく早かった。朝6時起きにウトウトしながら準備して近くのお寺に行き、地域の小学生達みんなでラジオ体操する。ラジオ体操が終わった後の報酬はうまい棒2本だ。大人になった今思うと、うまい棒2本のためにラジオ体操をよくできたなと褒めてやりたい。
朝からアブラゼミとミンミンゼミが合唱を奏でる8月後半。合唱というよりは騒音だ。
僕はいつものように、ウトウトしながらラジオ体操へ向かった。ラジオ体操を終え報酬を貰い(うまい棒2本)自宅のあるマンションへ向かった。マンションの入り口に行き、階段を上がろうとしたら、階段に美喜ちゃんが俯いて座っていた。
「美喜ちゃん?おはよう。何してるの?」
美喜ちゃんは顔を上げ一瞬「へ?」と顔した。すると美喜ちゃんは
「朝になっても寝れなくてね。なんだかなぁ」
と呟いた。
「美喜ちゃんは早起きなのかと思ったよ。」
「最近ね、私いろいろと考え過ぎて寝れないの‥
あれ?美味しそうな物持ってるじゃん。一個ちょーだい。」
美喜ちゃんは一気に表情を変え、悪魔の笑顔を見せた。
「分かったよ。はい、これじゃ‥」
と言いかけたところで、美喜ちゃんは僕の手から勝手に取った。
「あ!美喜ちゃん!そのコンポタージュ味は僕が食べようと!」
「いいじゃない。私はたこ焼き味よりコンポタージュ味の方が好きなの」
これが年上の権力というものだ。
仕方なく、その場でたこ焼き味を食べた。
僕は食べながら
「美喜ちゃん、どうして階段で座ってたの?」僕は美喜ちゃん聞いた。
美喜ちゃんはうーんと言いながら、答えなかった。
もう一回聞いてみた。
「なんでなの?」
美喜ちゃんは僕のことをじっと睨んだ。
「あのね。女の子は聞いて欲しいくないこともあるの。デリカシー無さ過ぎ‥」
「デリカシー?新種のポケモン?」
「はぁ‥お子様には分からないのよ。」
(お前だってまだお子様だろ。)
しばらく2人とも沈黙していた。
すると、美喜ちゃんが「ねぇ今日暇?」
と聞いてきた。
お、これはデートのお誘いかと察知した。
僕は満面の笑みで「空いてるよ!」
と答えた。
「どっか、お出かけしようか?」
「うん!僕、夏休み出かける用事が全くなさかったからさ、退屈だったんだ!」
「うんじゃ、決まりね!」
僕は満面の笑みで頷いた。
「いつ、お出かけするの?美喜ちゃん!」
「今日」
「今日?」
「うん、今日」
「今日いきなり?」
「つべこず言わずに、はい!わかりました!っていいなさい。」
「はい、わかりました。」
年上の権力というものだ。
「9時に富山駅で、よろしくね。」
美喜ちゃんは続けて
「あ、お母さんに言わなくてもいいよ。私が伝えておくから。」
僕はその言葉に迷った。
「え、でもお小遣い貰いたいから、お出かけすること言わないと‥」
すると、美喜ちゃんはニッコリ微笑んで
「いいのよ。私の小遣いであなたの分も払うから大丈夫よ。だから、あなたのお母さんや私のお母さんにも出かけること言わなくていいからね。私が伝えておくからね!分かった?」
僕は満面の笑みで「わかった!」と答えた。
「じゃあ私はいろいろと準備することがあるから、駅でね!」と言い、
僕にうまい棒のゴミ袋を渡して家に入った。
僕はゴミを握って舞い上がって家に戻った。
僕はウキウキしながら家を出た。美喜ちゃんに言われた通り親には言わず家を出た。
僕らのマンションから富山駅まで歩いて約30分ぐらいだ。家族と旅行に行く時はバスか路面電車を使う。しかし、今回は節約も込めて歩きで富山駅に向かって歩いた。
暑い日差しがてり続ける夏の日。汗が尋常なく止まらない。美喜ちゃんはJR入り口付近でタオルハンカチで額の汗を拭って待っていた。
「もう、付いてたんだね。」
「駅まで歩いて行こうと思ったんだけど、暑いからバスで来ちゃった。」
「それで今日はどこへお出かけするの?」
と僕は質問した。
僕は
「美喜ちゃんのことだから、買い物?大和で買い物?それか環水公園?」
美喜ちゃんは横に首を振った。
どこに行くつもりなのか。
「立山の方に行こう。」
「立山!?」
「遠出。遠出だよ。」
と笑いながら答えた。
まさか、そんな遠くに行くとは思わなかった。近くの大和で買い物して、ウロチョロして終わりだろうと思ったからだ。
僕は自信なさげに
「お母さんにやっぱり伝えた方が良かったかも。」
と言った。
それに対して美喜ちゃんが
「だから!あなたのお母さんには伝えてあるから!」
と強く言われた。
そこまで言われるなら、まぁいっかとなってしまった。
美喜ちゃんが微笑みながら
「早く、地鉄に乗って行こう!」
と言った。
僕はそれに対して「うん!」と答えて切符を買いに行った。
特急券を買い富山地方鉄道線に乗車した。
車内の殆どが観光客のように見える。
夏休みシーズンなので家族や学生カップルが多い。この地鉄は富山駅から立山駅結び、昔ながらのレトロな味が染みた車両が特徴だ。やはりレトロなので、座席がかなりフカフカしており、長時間座っていたらケツが痛くなる。車両あるあるだ。
僕と美喜ちゃんは2人掛けの座席に座った。
美喜ちゃんと久しぶりに会ったので、電車の中でお話ししようと思ったが、肝心の美喜ちゃんは富山駅から出発してすぐ眠りについた。着いたら起こしてと言われ、すぐに爆睡。まぁ確かに早朝会ったときは、朝まで寝付けないとか呟いていたから、眠いんだろう。そっとしておいて、終点まで窓の景色を見ていた。
窓の景色は住宅街から森林と入り、川を渡って本格的な山の中へと入っていった。自分たちと同じ富山なのに全く別世界だ。ここに住んでいる人たちはどうやって暮らしているのだろうか。コンビニもスーパーない、娯楽施設もない。自然そのものしかない。山と木々に囲まれた世界へ僕たちは引き込まれていく。
立山駅に着き、多くの観光客が降りていく。
僕は美喜ちゃんを起こした。
「美喜ちゃん!着いたよ!立山着いたよ!」
と肩を揺らした。
美喜ちゃんは、眠そうな声で
「以外と早かったわね‥」
と言い、ウトウトしながら立ち上がった。
それから僕たちはケーブルカーに乗り、美女平駅に向かった。
ケーブルカーは10分ぐらいで美女平駅に着いた。そこからバスに乗り室堂という所に向かった。
バスは多くの観光客で賑わっていた。
僕と美喜ちゃんは2人掛け座席に隣同士で座った。
ここから黒部アルペンルートを走り室堂へ向かう。
美喜ちゃんは眠そう表情で
「小4以来かも、ここ通るの。」
「僕は初めてだよ。だから美喜ちゃん行き方知ってたんだ。」
「小4の時に校外学習で行ったよ。だから、あなたも今年の秋にここ通るじゃない?」
「先取り学習だね。」
僕の言葉に対して美喜ちゃんはニッコリ笑った。美喜ちゃんはニッコリ笑うとエクボがキュッと上がる。僕はその優しい表情がすごく好きだ。
すると、美喜ちゃんの笑顔が急になくなった。
「小学生の時はすごく楽しかった‥
私の周りには沢山の人がいた。」
「え‥?」
「あなたはさ、いつも1人じゃん?友達もいなくてずっと一人ぼっちじゃん。寂しくないの?」
僕はこの質問にどう返していいか悩んだ。
「寂しいよ。美喜ちゃんが卒業してから、さら寂しくなった。」
「あなたは一人ぼっちに慣れてるかもしれないけど。私はその立場だったら凄く辛い。」
「別に慣れてないよ。僕は好きで一人ぼっちになってるんじゃないもん。みんな僕のことバカにするんだもん。」
「それで、よく学校に行けるよね。私だったら学校いけない。」
「僕はそんなことで、学校行かないってことはないよ。」
「なんで?」
「こんな僕にでも、味方になってくれる人たちがいるから。」
「味方?」
「うん‥」
バスの案内アナウンスが流れ、室堂に着いた。
バスを降りた瞬間、寒さが襲ってきた。
僕は
「さむっ!8月なのに、なんで寒いの?」
と美喜ちゃんに聞いた。
「ホント呆れるわ。山の上なんだから寒いに決まってるでしょ。よく半袖半ズボンで来たわね。」
「いや、だって立山に行くとは思わなかったからさ。」
僕の足はブルブルしていた。
流石に子供は風の子というが、限界がある。
美喜ちゃんは「しょうがないな。」といい
リュックからピンクのパーカーを出した。
「防寒用で持ってきたから、これでも着なさい。」
「ありがとう‥」
正直、内心はピンクかよ。と思ったが早く寒さをなんとかしたかったので、ピンクのパーカーを着た。
「大きてダボダボだよ。美喜ちゃん。」
美喜ちゃんは笑いながら、
「大きさ全然合ってないね。でも、似合ってるんじゃん。ピンク。」
と今日一番の笑いを見せた。
「男子がピンクっておかしくないかな?」
「おかしくないよ。むしろ可愛いらしいよ。」
と言ってまだ笑っていた。
僕は凄く照れ臭かった。
室堂からトロリーバスに乗って大観峰へ向かった。
美喜ちゃんはワクワクしながら
「すごいね!トンネルの中ずっと通っていくの。」と笑顔で言った。
それに対して僕は
「ちょうどここは破水帯があった場所だよ。」となんかの専門家ぽく発言した。
「破水帯?何それ?」
「トンネルを掘る時に水がプァーって出るんだよ。ここを掘るのに長い期間かかったんだ。黒部の太陽でも鮮明に描かれてたよね。」
美喜ちゃんは、つまんなそうに目を細めて
「そーいう、知ったかぶり。つまらないでーす。本の読み過ぎだと思いまーす」
と僕に意地悪ぽく言い返した。
トロリーバスを降りてロープウェイに乗った。
美喜ちゃんは
「ヤバイ!超ヤバイ!景色すごいね!綺麗!」とテンションアゲアゲだった。
ロープウェイからの眺めは山々の自然と緑色に染まった黒部湖が美しく輝いていた。自然が作り成す宝石。まさに絶景だった。だがしかし、僕は高所恐怖症で足がまたブルブルした。下を見ると山々が広がっているいい眺めだ。いい眺めなんだけど、高低差がヤバイ。
「まだ、寒いの?大丈夫?」
「寒くはないんいだけど、なんかね‥」
美喜ちゃんはニヤッと笑って
「怖いんでしょ?ねぇ怖いんでしょ?」
「こ、こわ、怖くないし。」
僕は強がった。
美喜ちゃんはふふふって笑いながら
「ピンクのパーカー着てるせいか、強がってる所も可愛くみえるの。よしよし大丈夫だぞ〜」
と軽く僕の頭を撫でた。
恐怖と興奮の気持ちが入り混じって大変なことになりそうだ。もし、ここから落ちたとしても、幸せだったと言えそうだ。
ロープウェイを降りて呼吸を整えてケーブルカーに乗った。とにかく乗り換えが多い。
ケーブルカーは目的地まですぐに着いた。
そこから数分歩いて、黒部ダムに着いた。
美喜ちゃんが「黒部ダムだぁ〜」と言いながらはしゃいで走っていった。
子供だなぁと思いながらも久しぶりに美喜ちゃんの満開の笑顔を見れた。
「ねぇ!来てよ!見てみて!湖がエメラルドグリーンだよ!」
とまだはしゃいでいる。
「ねぇ!あそこの
展望台行こうよ!」
上を見上げるダムと山々を見渡せる展望台がはるかうえにあった。一応、階段の手すりはあるが、階段は急で高所恐怖症の僕には自殺行為だ。
「美喜ちゃん、一人で行っていいよ。」
美喜ちゃんは、またニヤッと笑って
「怖いでしょ?高い所怖いんだー?」
と小バカにしてきた。
僕はもう見栄を張ってもしょうがいないので、正直に
「うん、怖いから登れない。」
と答えた。
「え〜一緒に見ようよ。せっかくきたんだもの。」
「登る自信がないよ。」
すると美喜ちゃんが
「ほら、手を貸して」
僕の手を持って階段へ誘った。
美喜ちゃんの手に触れたのは、昔に給食で使う小袋を返した日の放課後ぶりだ。
美喜ちゃんは、僕の手を離さず先頭に立って次々階段を登っていく。
僕は美喜ちゃんのペースに追いつくのに必死だった。
あの日の放課後。小6の上級生たちから助けてくれた美喜ちゃん。泣いてるいる僕の手を握ってくれた時、美喜ちゃんの強さを感じた。僕は美喜ちゃんのところに早く追いつきたくて必死だった。年下だけど、いつか認められて欲しくて。褒めて欲しくて。この時の僕は小学生だったので、この気持ちがなんなのか分からなかった。けど、この日のこの時に気づいたことは僕はこの人とずっと手を握っていたい。ただそれだけしか考えていなかった、それしか考えられなかった。まだ、子供だったから好きっていう表現を上手く頭の中で処理できなかったんだろうな。
展望台についた。暑い日差しが照りつけ、黒部ダムを中心に湖と山々が美しく輝いている。
残念ながら今日はダムの放水日ではなかったが絶景だった。
美喜ちゃんは目をウルウルさせながら
すごい!すごい!とすごいを連発していた。
「ねぇ凄いよね。自然ってなんで、こんなにも私たちの心に光を照らしてくれるんだろうね?」
「うん?」
「なんか、哲学ぽいけどさ。私たちはこの自然のおかげ生きさせて貰ってんだってね。山も水もなければ私たちは生きていけない。」
「ふん」
「この世界ってさ、自分一人だけで生きていくのって難しいだなと思ってさ。絶対に生きていると、なんかしら関わるものの。人じゃなくてもさ。」
「うん」
美喜ちゃんは僕の顔を見ながら目を細めて
「ねぇ、聞いてるの?一人でこんな哲学じみたこと言う恥ずかしいじゃない。」
恥ずかしいじゃないと言われても、その話しがなんのか分からなかった。僕も中学生になったら分かるんじゃないかと思った。
手を繋いで階段を降りて、食堂へ向かった。
黒部ダムカレーを2つ頼んで食べ、黒部ダムを後にした。
帰りのケーブルカー、トロリーバス、ロープウェイに乗っている間は2人でポケモンの話で盛り上がった。ポケモンって本当に凄いと思う。年齢とか関係なしで語り合えるし、ポケモン好きの人はけっこう世の中に多い。
室堂から美女平駅までのバスは二人ともはしゃいだのもあり、昼飯食べた後だったので、ぼーとしてた。
旅の小休憩も大事だ。
バスが一旦、一時停止しアナウンスが流れた。どうやら、右側の窓から「称名滝」という滝が見えますよという観光のアナウンスだった。
この称名滝は落差日本一の滝らしい。
富山に住んでいる僕でもこの滝は知らなかった。
美女平駅に着いて、ケーブルカーに乗り立山駅に着いた。
僕は欠伸をしながら
「立山駅まで道のり長かったね。今日は本当に楽しかったよ。」
と美喜ちゃんに感謝の気持ちを伝えた。
すると美喜ちゃんは
「え?まだ帰らないわよ。」
「うん??」
「せっかくだから、称名滝行きましょ。」
「え?時間大丈夫なの?帰り遅くなるとお母さんが‥」
「だから、時間は大丈夫なの。伝えてあるから!」
「うん、そっか。」
「私、称名滝は行ったことないの。」
「わかったよ。美喜ちゃんが言うなら。」
地鉄には乗らずに称名滝へ行くことに承諾した。
丁度、僕たちがいるところに称名滝行きのバスが来た。グッドタイミングだ。
「ほら、行きましょ!」
と美喜ちゃんは言い
2人でバスに乗った。
美喜ちゃんは立山駅で貰った観光マップを見ながら、「バス降りたら道のり一本、真っ直ぐ歩けば着くよ。」
と僕に言った。
バスに乗って約20分ぐらいで滝の最寄りのバス停に着いた。
バス停の所に称名滝→という看板があり、そこの川沿いの一本道を歩いて行った。
今日は天気が良いので川が銀色に輝いていた。川を覆うのは多くの山々。この川沿いの一本道を歩いていると、RPGの主人公になった気分になる。僕は勇者で、美喜ちゃんはなんだろう?魔法使い?賢者?ラスボスを倒した後は2人が結ばれるなんて。大人になった今思うと、この時に変な妄想癖が付いたのは確かな記憶だ。
僕はクソな妄想しながら歩いていると美喜ちゃんは僕に話しかけてきた。
「空気が美味しいってこいうことなんだね!本当来て良かった!」
美喜ちゃんはリラックスした表情だった。
「なんかね、こういう自然がある所に行くとさ、普段凄い嫌こととか、今だけ忘れられるの。このまま時間が過ぎなければいいのにって思うんだ。」
僕は美喜ちゃんのリラックスした表情に微かに悲しみが見えた。
「ねぇ、美喜ちゃん、あの」
美喜ちゃんは何かを察知したように直ぐに答えた。
「今日。朝、階段に座ってた理由話すね。」
「あ、うん」
美喜ちゃんは敢えて明るく話そうとしていた。
「学校行くの辛くなっちゃんだ。色々とあってね、一人ぼっちになっちゃったの。」
「え?一人ぼっち?」
僕は耳を疑った。
「私、全部が嫌になって家に逃げたの。ホント情けないよね。中学生になったのに幼いことしてさ。その事が頭いっぱいになっちゃって寝れなくなったの。」
僕はなんて声を掛けてあげれば良いか分からなかった。
「私のことを思ってくれる人はいない。みんな私のことを鬱陶しいと思ってるよ。」
暫く沈黙が続いた。
ガンガン日を照らしている太陽と蝉の声が鳴り響く。
だんだん滝に近づいて来てたのか、滝のゴォーと流れる音が聞こえて来た。
やがて、橋が見えて橋の奥の方に大きな滝が見えてきた。
美喜ちゃんは、また笑顔に戻り
「滝大きいね!近くで見れるの楽しみだなぁ」
とワクワクしていた。
滝のすぐ傍まで行った。
二つの流れが途中で一つの流れに纏まり、大量の水が流れていた。水量が凄いので、滝壺から水のミスト(水の煙)が流れていた。
美喜ちゃんが
「あそこの橋に行ってみよう!」
滝壺の上に橋があった。
橋は水飛沫でけっこう濡れている。
僕と美喜ちゃんは橋の真ん中に行き、真正面で滝を見た。
美喜ちゃんは
「すっごーい!これぞマイナスイオンだね!」
「マイナスイオンって何?」
「え?聞こえなーい!滝の音が大きくて聞こえなーい!」
「だから!マイナスイオンってなーにー?」
「もっと!大きい声でー!」
「マイナス!イオン!ってなぁーにぃーー?」
「私もよくわからなーい!!」
わからないのかーい!
僕大きく息を吸って
「ねぇ!美喜ちゃん!!今日の黒部ダム行くの時のバスの話だけど!覚えてる!?」
「なんだっけ!?」
「こんな!一人ぼっちの僕でも!味方がいる!って話し!」
「思い出した!!ってかさ!味方って誰なの!?」
「お父さんとお母さんと先生と!あと、」
「うん!」
「美喜ちゃんだよ!!」
「私!なの!?すごい嬉しいよ!!」
「だから、美喜ちゃん!!自分のことを誰も思っていないとか、鬱陶しいとか思わないで!!
ここに、味方がいるから!!!」
「ありがとう!!」
「美喜ちゃんが悲しんでいる顔より、笑顔で笑くぼきゅっと上がった美喜ちゃんの方が
僕は好きだよ!!」
「ありがとう!!ってかさ、けっこう濡れてきたから橋!もう、渡ろう!!」
「わかった!!」
橋を渡ってさっきと反対側の方へ行った。
橋に数分しかいなかったのに、2人ともまぁまぁビショビショだった。
美喜ちゃんはタオルハンカチで顔を拭きなが
「けっこう濡れちゃったね?」
「うん、美喜ちゃんのピンクのパーカーも濡れちゃった。ごめん。」
美喜ちゃんは笑いながら
「許す!」
と言った。
それから、続けて
「さっきの言葉凄い嬉しかった!味方って言ってくれて。ありがとう。春樹くん!」
僕も照れ臭かった。
面と向かってありがとうなんて。
「これ、私も拭いちゃったけど、春樹くんもハンカチで顔拭きなよ。」
とタオルハンカチを貸してくれた。
「ありがとう。」
と言い顔を拭いた。
今治のタオルハンカチからは一ノ瀬家の柔軟剤の匂いがした。お菓子じゃない甘い匂いがする。どこの柔軟剤を使っているんだろうか。僕が変態になっていたら、美喜ちゃんが
「早く、返してよ。いつまで、顔を拭いてるの?」と言われ、
僕は一気に変態モードが解除された。
それから僕たちは近くのベンチに座り滝をずっと眺めていた。尽きる事ない水の流れ。僕が知らない間に美喜ちゃんは一人で悩みを抱えていた。誰も相談せず一人で戦っていた。いつも僕には明るく振舞って、お姉ちゃんぶって偉そうにするくせに、自分が負った心の傷は見せないんだと。そんないつも頼りきりにしていた幼馴染に僕は何ができるんだろうか。
美喜ちゃんはずっと滝を見つめていた。
僕はそれを隣で見守ることしかできなかった。
「帰りたくない‥」
美喜ちゃんは呟いた。
それから30分ぐらいベンチに座っていた。
何もお互い言葉を発さず、ずっと干渉に浸っていた。
「美喜ちゃん、そろそろ駅戻らない?帰るの遅くなっちゃうよ。」
美喜ちゃんは俯きながら
「帰りたくない。帰るとまた辛くなるの」
「でも、お母さんが心配するし‥」
「ごめん、帰りたくないの‥」
2人とも黙って滝を見ていた。
それからまた30分ぐらい経った
「ねぇ、美喜ちゃんそろそろ帰ろうよ。バスなくなっちゃうよ。」
「だったら、春樹くん一人で帰っていいよ。
私はここにいるから。」
「なんで?美喜ちゃん!帰ろうよ。暗くなっちゃうから。」
「じゃあ、あなた一人で帰ればいいでしょ!!!」
美喜ちゃんは、鬼の形相で僕に対してキレた。
僕はどうすれば分からず、涙がポロリポロリと流れた。
「泣いたって無駄だからね。もう、一人で行きなよ。」
「なんで?みぎぢゃんも帰ろうよ!」
涙が止まらなかった。
どうしていいか本当に分からなかった。
だんだん日が落ちてきて、夕方になっていた。
「私は帰ったら、また悪夢が始まるの。だから嫌だ。」
僕はなんで?なんで?と言いながら泣いていた。
もう、このまま帰れないのか。
すると、橋の向こうから
「おーい!もう暗くなるぞ!何してる!?」と知らない作業着を着たおじさんが手を振っていた。
僕らはなんて返していいか分からず、反応しなかった。
そのおじさんは橋を渡って僕らの所に来た。
「君たち、ここで何してるの?もう暗いから帰りないさい。ここは山の中だから夜になると真っ暗になるから危険だよ。」
僕たちは何も言葉を返せなかった。
「君たち兄弟?親御さんは?」
僕はそれに対して
「兄弟じゃないけど、2人で来ました。」
おじさんは驚いた顔で
「君ら、2人でこんな山の中に来たのかい!?たまげたな」
と言い
「もう、立山駅行きのバスはもうないぞ。」
僕と美喜ちゃんはえ!?と表情をした。
「それぁ、こんな時間だからな。」
僕と美喜ちゃんは不安な表情でお互いの顔を見合わした。
すると、おじさんは笑ながら
「心配することはない。橋の向こうに車停めあるから。立山駅まで送ってやるよ。」
僕は咄嗟に
「ありがとうございます!」
と言ってしまった。
その言葉に美喜ちゃんはジロッと僕の目を睨んだ。
おじさんは
「よし!取り敢えず橋を渡ろう!」と言い
僕らはおじさんの車の場所に向かった。
おじさんは笑いながら
「ここの称名滝はいいだろ。気持ち良くて。運がいい日だと滝に虹がかかるんだ。凄い綺麗でな。みんなそれを狙ってくるんだよ。」
橋を渡った所にセダンの車が止まっていた。汚れており、かなり年季がある車だ。
すると助手席からおじさんの奥さんと思わしき人がヒョコッと窓から顔を出した。
「あら、お父さん、この子達どうしたの?
あなた、連れ子がいたの?」
すると、美喜ちゃんは慌てて
「いいえ!違います!私たちはたまたま声を掛けて貰っただけで!」
おじさんは笑いながら
「冗談だよ!冗談!母さん、まだ子供なんだから変なジョークはよしてくれよ。」
おばさんもハハハと笑ながら
「ごめんね!ビックリしたよね!」
おじさんは和かに
「取り敢えず後ろに乗って」
と言い僕と美喜ちゃんは後ろの席に座った。
車を発進させて、立山駅に向かった。
おじさんは運転しながら
「兄弟じゃないなら、親戚同士か?」
美喜ちゃんが
「いえ、幼馴染です。」
「幼馴染でお出掛けか。仲良しだなぁ」
とおじさんは笑って答えた。
おじさんは
「今日は滝の近くで仕事だったんだよ。本当に良かった。もし、ここを仕事帰り通らなかったら、君たちあそこで野宿だったよ。」と笑った。
僕はこのおじさんとおばさんは常に笑っているだなと思った。
するとおばさんが
「お嬢ちゃん、しっかりしてるねぇ。受け答えが大人の対応なのよ。」
美喜ちゃんは
「いや、そんなことないですよ。」
と丁重に答えた。
「そういう風に返してくれる所がしっかりしてるよ。お嬢ちゃんがあと15歳ぐらい歳行ってたら息子を紹介したいもの。」
と笑って答えた。
おじさんは
「ダメダメ。こんな出来のいいお嬢ちゃんをうちのバカ息子に会わすなんて、だめだよ。お嬢ちゃんには将来、もっといい男が現れるよ。」
と笑いながら答えた。
美喜ちゃんもこの雰囲気で顔の表情がさっきより和やかになった。
おじさんが
「今日は2人で遠出?」
美喜ちゃんが
「はい。二人で遠出です。」
「そっか、遠出か。それはいいことだけどな、今日みたいに遅くなったらダメだよ。お母さんお父さん心配するから。」
おばさんは笑いながら
「まぁ子供の時なんか、遅くまで遊びたい時もあるよ。親から離れたくなる時はあるんだよ。坊やも今日楽しかったでしょ。」
「はい!楽しかったです。夏休みどこにも出かける予定がなかったから、美喜ちゃんに、あ‥お姉さんに連れてきて貰って、夏休み1番の思い出になりました。」
おばさんはゲラゲラ笑いながら
「美喜ちゃんに連れて行って貰って良かったねぇ」
と答えた。
僕は言い間違いしたことに照れくさく頬を赤くした。
おじさんは運転しながら
「旅っていいもんだよ。出会いと出会い。今日君らが、バスに乗り遅れてなかったら、私らとこうやって、車で話すことはなかったんだよ。逆に私らも、いつも通り老いぼれ2人で車乗ってたと思うけど、今日の出会いのお陰でこんなボロ車に花が咲いたよ。」
おばさんは頷きながら
「全く知らない同士でも、支え合って人間生きているものなんだよ。人間同士だけじゃない。自然とも支え合って生きているんだよ。
一人で生きていくって難しいんだよ。
」
おじさんは
「哲学ぽいな!」
と笑った。
美喜ちゃんはなぜか、顔を赤くしていた。
ボロ車は立山駅に着き、僕と美喜ちゃんは降りた。
おじさんが窓から
「気をつけて帰るんだよ。お姉ちゃんはしっかりしてるかもしれないけど、坊や、男の子なんだから、幼馴染のお姉ちゃんのこと守ってやりなさい。そして無事に帰りなさい。」
と笑顔で言った。
僕は「わかりました!」
と答えた。
心の中で使命感ができた。
おばさんが窓から「さようなら〜また会いましょう!」と言って車が去って行った。
僕ら2人は手を振って見送った。
辺りは真っ暗で、虫の音しか聞こえない。
美喜ちゃんは近くにあったバス停のベンチに座った。
「ねぇ美喜ちゃん、帰る?」
「嫌だ。」
またこれが始まった。
「なんで?帰りたくないの?」
「嫌だから、以上。」
「僕お腹空いたよ。」
「コンビニでも行けばいいじゃん。」
「コンビニなんか周りありそうもないよ。」
「ふーん」
僕も美喜ちゃんの隣に座った。
お互い無言が続いた。
なんとか、帰る方法ないのか。
美喜ちゃんを説得させる方法ないのか。
そんなことより、お腹が空いて力が出ない。
ふと、僕はおじさんの言葉を思い出した。
(僕が守ってあげないと)
「美喜ちゃん、お腹空いたでしょ?僕何か買ってくるよ。周りにお店か売店あるか探してくるよ。」
「あ、うん‥ありがとう。じゃあお金渡すね」
と言い200円受け取った。
僕は200円を握りしめて歩いて行った。
美喜ちゃんはベンチでずっと俯いた表情をしていた。




