表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

平成26年②

東京の4月も富山と変わらず、ちょうどよい暖かさだった。

3年間渋谷に通っていて驚いたのは、この間に渋谷駅が急激に変わっていることだ。渋谷ヒカリエがドカンとそびえ立ち、山手線のホームはずっと工事をしている。

僕はいつも通り、大学までの坂を上っていた。すると後ろから、

「高瀬くん!」

と、いきなり声をかけられた。振り返ると、名波さんがいた。

「あ、名波さん」

名波さんはキュッと口角を上げて、

「おはよう! 高瀬くんも同じ授業かな?」

と声をかけてきた。

「うん、多分。同じ資格だし、一緒かな」

と答える。

名波さんとはあまり話したことがない。いかにも陽キャラという感じだな、と心の中でつぶやいた。

「高瀬くんって富山出身なんでしょ? 富山ってどんな所?」

「どんな所かぁ。うーん。田舎といえば田舎かな。海があって山があって、個人的には東京よりご飯が美味しいかなって」

そう答えたが、反応がない。不思議に思って名波さんを見ると、スマホをポチポチいじりながら、

「あ、もしもしエミリー? 今、高瀬くんといるんだけど、エミリーもう教室着いた?」

と電話していた。

(いや、質問しといてスルーかよ)

今日の授業は、学芸員資格のゼミだった。

教室に入ると、エミリーと飯田がいた。

「なんで? 飯田いるんだ?」

飯田は僕の後ろにいた名波さんをチラッと見たあと、

「いや、俺もさ、家にいても暇だから学芸員資格やることにした。続けられるか分からんけど」

と言った。

ゼミは全員で15人。最初は自己紹介から始まり、名前や出身地、趣味などを一人ずつ前に出て話した。

先生が、

「じゃあ次は、名波花音さん」

と言うと、名波さんは笑顔で前に出た。

「名波花音です。3年生です。音楽サークルと学生サポーターをやっています。

音楽サークルは、中学・高校で吹奏楽部だったので入りました。

お兄ちゃんがこの大学の卒業生で、学生サポーターをやっていたので、私もやろうかなと思って。明日から大学説明会の準備があるので、忙しくなりそうです。

趣味は料理です! 今はビーフストロガノフを練習しているんですけど、お母さんみたいにうまく作れなくて。以上です!」

そう言って、少し照れながら席に戻った。横にいたエミリーが、僕のことをチラッと見た。

授業はオリエンテーションだけで、45分ほどで終わった。

授業後、エミリーと一緒に宮川の授業を受けに移動していると、

「ねぇ高瀬。知り合いの女の子紹介してあげよっか?」

と唐突に言われた。

(何を言い出すんだ、この人は)

「なんで? 別にいいよ」

「花音は無理だよ。彼氏いるし。叶わない恋だから、きっぱり諦めたほうがいいよ」

「別に好きってわけじゃないし」

「いや、もう顔に出てるのよ。『花音のことが好きです』って」

「マジで?」

「自己紹介のとき、ずっと真正面から見つめてたし。花音が今練習してる料理は?」

「ビーフストロガノフ」

「ほら、ちゃんと聞いてるじゃん」

「そりゃあ、人の話はちゃんと聞いてるよ」

「じゃあ、私が自己紹介で言ってた、ハマってる料理は何?」

「ハンバーグ?」

「オムライスです」

「でもさ、エミリー。俺は名波さんは違うかなって。あんまり人に興味なさそうというか、なんというか」

「言いたいこと分かるよ。あっさりしてる感じでしょ?」

「そう。だからなんか違う気がして。もう少し大人っぽい人がいいというか」

「チューした幼なじみと比べてるの? ていうか、その人まだ会えてないの? 彼氏できちゃうよ? 私たちより年上なんでしょ。もう彼氏くらいいるかもね」

すると、後ろからいきなり尻を蹴られた。振り向くと斎藤がいた。

「おう! お前ら夫婦漫才してんな!」

エミリーが笑いながら、

「違うよ。高瀬がまた花音のこと思い出して、頭の中お花畑になってるの」

「変態!」

「違うわ! エミリーも変なこと言うなよ」

「変態!」

当時の僕は、名波さんのことが本当に好きだった。

だからこそ、自分に都合のいい言い訳を考えて、諦めようとしていた。

少しだけ、複雑な気持ちだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ