平成15年①
気温は暖かくなったものの、町の風景はまだ春を迎えてなかった。桜はまだ7分咲き。もう4月になったというのに、春ぽくない。せっかく中学校に入学するのに、テンション上がらない。小学生の時の同級生はほぼ隣の中学校へ行って、なぜか私を含めた数人は学区分けのせいでみんなと違う学校に行くことになった。完全にアウェイだ。頭の中でいろいろと考えているうちに学校に着いた。
(もう中学生か‥)
校門に立て掛けてある「入学式」を見つめた。
みんなと仲良くできるか、不安な所もあったが、自分自身の長所であり短所でもある過剰な自信が入り混じっていた。
(私なら上手くできる!)
その日は入学式だけ行い、教室で大量の教科書を受け取り終わった。
その日は母も途中から来たが、職場にすぐ戻らないといけないので入学式は出席し、私の写真を数枚撮って去った。随分久しぶりに誰とも話さず帰路に着いた。小学生の時は仲良し女子とキャーキャー叫んで遊んで、帰りは弱虫小僧と帰ってたなぁと懐古した。
まぁでも、大丈夫!私は頭いいからなんとか、なるでしょ!
そう思っていたけど、上手くいかなかった。
入学式の次の日から、いろんな人に話しかけた。みんなはじめましてで、いくつかのグループがもうできてたけど、小学生の時のようなフランクなノリで話した。以外と女子って意見や話しに同調したり、輪で盛り上がると大抵いけると当時の私はそう思っていた。そしたら、どんどん人が集まってきて、いくつかのグループが繋がってやがて大きなグループになった。女子って群れで生きているものだから。当時、私が考えた格言。私はその人気にあやかって、学級委員に立候補した。「美喜なら、任せられるよ。」「美希ちゃん、ギャグセン高いからなぁ〜 」「一ノ瀬って以外に可愛いよな。」もう私は完全無双状態。このクラスを仲のいい、盛り上がるクラスにしたかった。
「満場一致で、女子の学級委員は一ノ瀬さんで決まりで良いですか?皆さん?」
と先生は教室全体に通る声で全員に声掛けた。
ほぼ全員が「は〜い」と返事した。男子の一部は「ほ〜い」だったかな。
男子の学級委員はまぁまぁイケイケの池谷くんって子が選ばれた。
165cmの長身でサッカー部の体験入部でいきなりレギュラーを取ったらしい。化け物かよ、コイツは。
ゴールデンウィークが終わり、世の中は5月病という難しい病が流行始めていた。私はこの時、4人のグループの一角にいた。直美、千春、沙織、光希といういつメンがいた。直美はショートカットで背が高く大人しい雰囲気の女の子。千春と沙織はいつも2人でくっついていて、頻繁に手を繋いでたりするので、あっちの方の方々かなと匂わす関係だ。この2人は幼稚園の時から付き合いで、ずっと何から何をするまで一緒だったらしい。光希は‥光希は正直苦手な所があった。一緒にくだらない話をしてる分には楽しいが、自分より下だと思った子をバカにしたり、貶す所が目立った。正直、親友の中でも礼儀ありというか、言った方が彼女のためになるのかなと考えていた。
しかし、光希はクラスの女子、男子とも仲がいい。それに他クラスには小学生の時の友達も沢山いた。敵に回したくないっていう気持ちが先行していた。
よく光希は、窓側の1番前の席でいつも本読んでる小暮さんという子の批判を頻繁にしていた。「本を読んでいるから、頭いいぶってる」「小学生の時、アイツ6回リコーダーを忘れて先生に怒られていた。」など木暮さんに敢えて聞こえる声で私たちに向かって話していた。直美も千春、沙織も正直引いていた。でも当の本人は空気が読めなく、気を使えないのでずっと木暮さんのことをペラペラ喋っていた。もし、仮に注意してしまったら、光希の気分を悪くしてしまう。敵に回されるかもしれない。逆に私がイジメられるかもしれない。でも、今言わなかったら、後悔する。心残りするかもしれない。それに私は学級委員だ。
ある休み時間に事件は起きた。
光希がまた小暮さんのことを言い出したので私は見かねて注意をした。
「ねえ光希。もうそのネタつまらない。」
光希は私の顔を直視した。他の3人は黙って下を向いた。
光希は後ろ髪を指でくるくると巻きながら、へらへら笑っていた。
「美喜?どうしたの?マジメになって?」
「木暮さんのこと言うのやめなよ。聞いてて、不愉快だし。面白くもないし。別に本読んでんだから、そっとしとけばいいじゃん。」
光希は口元がピクピクと動いていて、今にも叫び出しそうな感じだった。
すると、さっきまで下を向いていた直美が顔を上げ恐る恐る、言葉を発した。
「光希ちゃん‥うちも美喜ちゃんの言っている通りだと思う。よくないよ‥こーいうの。」
千春と沙織も顔をあげ
「私もそう思う‥」
「私も‥」
沈黙が1分ほど続いた。
さっきまでへらへらしてた光希は俯いていて、無表情だった。
肝心の小暮さんは席に座って本を読んだままだった。
恐らく、彼女も気づいているに違いない。
すると、光希は口を開いた。
「ごめん。そうだよね‥うん。気をつけるね‥」
光希は俯いたままだった。
凄いきまずい空気が流れる。
クラスの男子たちは黒板の前でチョークを投げ合ってはしゃいでいる。
きまずい空間があるのは、私たちだけだ。
休み時間終了の鐘がなり、5人とも黙り込んで席に座った。その日のその後は、5人とも仲良く話してたと思う。光希は下校の帰り道まで小暮さんの話しを一切しなかった。
私は光希が分かってくれたのだと凄く嬉しかった。
帰り道、直美と千春、沙織と別れて光希と2人きりになった。さっきは光希に言い過ぎたかな?友達に真剣に注意されるのも、抵抗あるよね。でも、光希はゴメンと4人の前で言ってくれた。光希はスゴイ素直な子、大事にしていかなきゃな。
「ねぇ光希。さっきはキツイこと言ってゴメン。光希の気持ちをもっと考えてあげればよかった。」
光希は俯いた表情した。
「うんうん。美喜の言っていることは正しいよ。」
と首を振った。
「ありがと。」
光希はまだ俯いた表情だった。
「美喜ってすごいよね。容量良くて、人に気を使えるし。」
「ちょっと、どうしたの?私のこと褒めて。」
私は頬をやや赤くした。
「褒めてるんじゃないよ。羨ましいの。美喜の存在が。」
え‥どういうこと?
羨ましい?
「美喜!じゃあね!」
「あ、うん!光希。また明日。」
光希と別れた。
家に帰るまで光希の発言を考えていた。
次の朝、おはスタをガッツリ見てしまい、いつもより遅く家を出た。
中学生になっておはスタとか、卒業しなきゃな。最新ゲームランキングは気になるからなぁ。ニュースとか見て世の中の流れを勉強するべきなのか。そう考えてるうちに学校に着いた。教室に入ってすぐに直美に声をかけた。
「直美!おっは〜!」
しかし、直美は反応がなかった。
おはスタ知らないのかな?朝ズバ派か?
「ねぇ直美。おはよう!」
直美は下を向いたまま反応がなかった。無理矢理、無表情を作っているようだった。
おかしいな。直美体調でも悪いのかな?
千春と沙織の方に行き
「直美がおかしいんだけど。」
と笑って言ったが
この2人も反応がない。
なんで?
何がどうなってるだ?
辺りを見渡したら、クラスの何人かが私のことをずっと引いているように見ている。
私、何かやったのかな?
もう一回、千春と沙織に声を掛けた。
「ねぇ、なんかおかしいよ。どうなってるの?」
すると、
「おかしいのは、お前だよ。」
後ろを振り向いたら光希がいた。
光希は私のことを睨んでいた。蛇が獲物を狙うくらいの勢いで。その光希の表情は今まで見たことなかった。心臓がバックンバックンしてはち切れそうだった。この状況を理解できずに固まっていた。
光希は口を開いた。
「前からさ、思ってたんだけどね美喜。ちょくちょくさ、クラスの人気を取る為にいい人ぶったりさ、頭いいアピールするのウザい。見てて、見苦しいよ。仲良くするのもしんどいわ。」
私は足がガクガクだった。凄く怖かった。女のシラバほど怖いものはないんだと当時はそう感じた。言葉が出ない。
光希はまだ責める。
「クラスにもうお前の味方なんかいないから。今後、私たちの所にこないでね。」
光希は続けて
「はぁ〜スッキリした。直美、千春、沙織、トイレいこっ!」
と言い教室を出て行った。
クラスがしーんとした雰囲気になった。この状況でチョークを投げ合う男子たちも大人しく席に着席している。女子のシラバはそのぐらいスゴイ。
私は黙って席に座った。
光希は昨日のことで怒ったのかな。もともと、私のこと嫌いだったのかな。なんで?光希‥
私はその日、放課後まで誰とも話さなかった。気持ちが話せる状態ではなかった。
その日の放課後は学級委員会があり、男子の学級委員イケイケの池谷くんと学級委員集合場所の教室へ向かった。池谷くんとは話したことなかった。てか、今日のシラバを見られて話しづらいよ。お互い無言で、ある一定の距離を保ちつつ教室へ向かった。学級委員会は各学年のリーダーを決めて先生のありがたいどうでもいい話しで終わった。内容は覚えていない。今日のシラバのせいで話しが耳に入らない。
学級委員会が終わり、自分の教室に向かった。廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「待って、一ノ瀬!」
振り向くと、池谷くんがいた。
「どうしたの?池谷くん?」
「一ノ瀬、大丈夫か?」
「大丈夫って、何が?」
敢えて、触れられたくないかったので、はぐらかした。
「佐藤たちと何かあっただろ。」
「光希たちと?あ、うん。そうだね。でも別に池谷くんには関係ないでしょ?」
「あぁ、関係ねぇけどさ。一ノ瀬辛くないか?」
「いや、そうでも。」
「もし、何かあったら俺に言えよ。俺は男子の学級委員だから。頼りにして欲しい。一ノ瀬もあまり一人で抱え込むなよ。」
と言い私の肩を叩いて去った。
なんか良く分からなかったけど、ちょっぴり嬉しかった。私にも味方になってくれる人がいたなんて。早く光希と和解したい。
次の日の朝も教室では一人ぼっちだった。
授業始まる前まで、こんなに時間が経つのが遅いんだと感じた。すると、光希が私の席に来て机をバーンと叩いた。
「ねぇ!美喜が学級委員になったのってさ、池谷くんと距離を縮める為の工作だったの!?」
なんのことか私は分からなかった。
「知ってるんだからね。昨日、池谷くんと話してた内容。私を悪者扱いにして池谷くんと仲良くしたいわけ!?」
「光希。違うよ。池谷くんはただ気を使ってくれただけだよ。」
「私の名前を気安く呼ばないで!気を使うってなんなのよ!」
光希、池谷くんのこと好きなのかな。そんなことより、光希の怒りが静まらない。
すると、池谷くんが私と光希の前に来た。「佐藤、やめろよ。なんか情けねーな。人に当たるとか。」
光希は気不味い顔をしていた。
池谷くんはクラス中に全員に向かって
「一ノ瀬を悪く言う奴は絶対に許さねぇからな!」
クラスがしーんと静まり返った。そのまま池谷くんは自分の席に着いた。
肝心の光希は「なんなのよ‥」とブツブツ言いながら教室を出た。
池谷くんに助けてもらった。すごいいい奴なんだと、その時は思った。
その日も放課後まで、誰とも話さなかった。
学校が終わり、下駄箱で靴を履き替えていると、池谷くんに話しかけれた。
「一ノ瀬!ちょっといいか?」
サッカー部のユニフォームを着ていたから、これから部活なんだろう。
「うん?何?」
私は問いかけた。
「一ノ瀬、やっぱ今は辛いか?」
「うん。そうだけど。あ、朝はありがとう。すごく嬉しかったし、助かったよ。池谷くん優しいね。」
「一ノ瀬に言われると照れるな。」
と池谷くんは笑った。
私は池谷くんに微笑んだ。
「なぁ一ノ瀬、もし、何かあったら俺に言えよ。」
「池谷くん、ありがとう。」
池谷くんは真剣な表情で私のことをじっと見つめた。
「俺、一ノ瀬の傍にいるからさ。てか、俺は一ノ瀬のことを守ってやりたい。」
池谷くんの真相が分からなかった。
「あ、うん。ありがとう。」
と私はそう返した。
池谷くんは私の近くにいきなり寄ってきた。パーソナールスペースに侵入してきている。
「俺、一ノ瀬のことが好きだ。付き合って欲しい。」
と告白された。今までの人生で告白なんてなかったから凄い新鮮だった。
「ごめんなさい。付き合えないです。ごめんなさい。」
「一ノ瀬、彼氏がいるの?」
「いや、いないけど」
「じゃあ、付き合ってよ。俺はアイツらから一ノ瀬を守ってやれる。」
「ごめん。それとは別で。池谷くんのこと恋愛対象に見てないというか、ごめん、好きって感情はない。でもね、今日の朝は凄く嬉しかったよ。」
池谷くんはまだ私のことじっと見つめていた。瞬きはほぼしていない。
「なんで、俺じゃダメなの?俺みたいなクラスのリーダー憧れない?一ノ瀬、付き合ってよ!」
「ごめん。告白はすごい嬉しいけど。ごめんなさい。」
私はすぐその場を去ろうとした。
しかし、ガッと腕を掴まれた。
「なぁ、一ノ瀬お願いだよ。いいじゃん彼氏いないんだから。」
「ねぇ、離してよ!痛いから!」
「嫌だ!離さない!」
「離してよ!怖いよ!池谷くん!」
男にこんなに強く腕を握られたことなかったから、凄く怖かった。
無理矢理、腕を振って池谷くんの手から離れた。思いっきり走って校門を出た。
心臓がバクバクして、息するのが苦しかった。
田んぼの畦道でしゃがみこんだ。
もう嫌。なんでみんな私の事を悪く扱うの?
私一人ぼっちだよ。誰にすがればいいの?もう学校に行きたくない。こんな中学生活になるなんて思わなかったのに。もう無理。消えたい。涙が止まらない。私を信頼してくれる人なんか、この世にはいないのだと咽び泣いた。
帰り道が辛かった。
自宅のマンションの前についた。恐らく母はまだ仕事中で帰ってきてないだろう。
「美喜ちゃんも、学校終わりなの?」
横を向いたら、あの泣き虫小僧が顔を覗き込んでいた。ランドセルを背負っていたから学校帰りなのだろう。
私は敢えて無視をした。多分、言葉を発したら涙が出そうだから。年下の子には泣いてる姿は見せたくない。私は黙って家の玄関に入った。
やっぱり母親は帰ってきてなかった。
自分の部屋に入って頭がおかしくなるぐらい泣き叫んだ。




