平成23年⑦
12月中旬、富山は一気に銀世界になった。見慣れた光景だ。
後期のテストも終わり卒業までゆとりがある生活になるだろう。授業はなくなりほぼ自習の時間になった。クラスは動物園状態。その園内にセンターや一般試験を受ける人もいるが寝てるか騒いでいる。恐らく危機感がないのであろう。1時間目から6時間目までほぼ自習だった。僕は勉強することがないので、司馬遼太郎の「坂の上の雲」をずっと読んでいた。『誠に小さな国が開花期を迎えようとしている』まさに素晴らしい冒頭だ。僕らの若い世代は司馬遼太郎はもちろん、夏目漱石、太宰治、遠藤周作などなどその作品を読んだこともないし、名前を知らない輩もいる。
僕らの世代はワンピースやナルトなどジャンプ系が占めていた。クラスの奴らはワンピースのエースが死んだとかわーわー言い合いをしてる時、矢部が手を叩いて静かにするように言った。
「お〜お前ら静かにせぃ!冬休みについてと受験組の奴らの連絡事項をするぞ〜」
と言って連絡事項を伝えて出した。
僕は冬休みはすることないし、受験も終わったので本を読みながら聞き流していた。
僕は本を読んでる途中で視線をややうえの方にした。いきなりクラスがしーんとしていた気配に気付いた。僕は顔を上げるなり、なんとなく察することができた。
「高瀬、どこまで俺をちゃかすんだ?」
僕は一息ついて
「すみません‥気をつけます。」
とボソッと言った。
矢部がいきなりスイッチが入った。
教卓をバンっとひと蹴りして叫んだ。
「お前は俺のことを舐めている!!!大人をバカにするのはいい加減にしろテメェ!!」
「大人をバカにはしてません。」
「そーいう屁理屈はどーでもいいんだよ!!
後で隣の教室でやるか?あ!!?どーなんだよ!!」
「知りません。」
矢部が俺の席まで来て僕の机を蹴り、僕の大好きな坂の上の雲の5巻を投げ捨てた。
僕も僕で頭に血が昇り、大切な本をこのように投げる始末をしたコイツを許せなかった。
「なげんなよ‥」
「あ?生意気なこと言うな!!」
「本を大切しない教師がどこにいる」
「じゃあ教師をバカにする生徒はどこにいるんだよ!!!てかさ、お前さ大学受かったのに担任の俺に報告なしか!!いい身分だなぁお前は!」
「敢えて言いませんでした。」
「はぁ??バカか?」
「僕がこの大学に受かったら謝罪するんでしょ?それは教師としての立場がなくなるので言いませんでした。」
「謝罪?お前が勝手に話しを進めてこじらせたんだろ!!」
「そもそも、僕が受けた大学に1回落ちた人にあーだこーだ言われたくないのと、お前受からないとか言っときながら謝罪の言葉がないのは先生としてどうなんでしょうか?」
「お前さ、恥ずかしくないか?そんなアホみたいなこと言ってさぁ」
「いえ、恥ずかしくないです。というより先生の方が恥ずかしいと思います。
と言うより
早く謝罪して下さいよ!
僕に!
謝罪して下さいよ!!!
早く!!
早くして下さいよ!!」
「そんなもんしねーよ!!!」
「早く謝れよ!謝れよ!!!」
クラスの女子が隣のクラスの先生たちを呼んでくれたのか他の先生たちが仲裁に入った。
僕は落ち着いて宥められ席に着いた。
その後、給湯室で他のクラスの先生たちに話しを聞いて貰ったりしたが何を言ったか覚えていない。僕は疲れきっていた。
学校で1時間、事情聴取され何もお咎めなしで開放された。
僕は呆然としていた。今まで溜まっていたものが放出されエネルギーが不足してる感じがした。今までこんなに叫んだことも怒り狂ったことはなかった。僕は下駄箱で靴を履き外へ出た時に「お〜い高瀬〜!」と声を掛けられた。
振り向くと大谷先生がいた。
僕は気まずいさを感じたが取り敢えず挨拶をした。
「お疲れ様です。僕、帰りますね。」
大谷先生はひょっこりした顔で
「高瀬大丈夫か?矢部先生とぶつかったんだって?」
「はい、ぶつかったと言ったらぶつかりました。けど、僕的にはスッキリしたので良かったです。」
「なるほどなぁ」
「今日は疲れたんで帰りますね。」
大谷先生はふぅーと一息付いて
「高瀬、高瀬が受験する前に俺が言った言葉覚えている?」
僕はうーんと思い出そうとした。
「結果を出しても平然といること。思い上がったり天狗にならないこと。それが大事だと。俺は高瀬が大学に受かったことは凄く嬉しかったよ。でもね、大学に受かることより、その毅然とした態度が大事だと思うんだよ。結果を出したんだからいいじゃないか。
せっかく頑張ったのに高瀬のイメージが悪くなっちゃうし。頑張ってるのは俺も知ってるし山根先生も知ってるし。自分のことをしっかり見てくれる人は絶対にいる。それを忘れないで欲しい。」
僕はその言葉に対して何も言えなかった。確かにあんなに敵対心を出さなくても良かった。確かに矢部はうざい奴だけど、こんな大ごとにして何も得なかった。僕は確かに調子に乗っていたのかもしれない。
僕は無表情でチャリに乗り帰宅した。




