平成23年⑤
若干秋の涼しさを感じてきた2学期。チャリコを全力で立ち漕ぎする。別に急がなきゃいけない時間でもないが、僕は何となく全力漕ぎたくなった。今日は快晴で立山連峰が綺麗にそびえ立っている。雪が積もってない立山も無力的だ。
チャンリコを置き下駄箱へ向かった。入り口には山根先生が竹刀を持ちながら
「第二ボタンしめろぉぉおお!!」
と低くて太めの声で叫んでいた。
僕は服装をしっかりやっているので注意されることがない。
「山根先生おはようございます。」
「お、高瀬おはよう!天気が良くて気持ちいい朝だな!
おい!そこのお前!第二ボタンを閉めんかい!!」
と生徒の生活指導を始めたので会釈してその場を去った。
講師室に行くとレッドブルを飲みなが文章の添削してる大谷先生がいた。
「おはようございます。大谷先生。翼、授かりましたか?」
「おはよう、高瀬。小論のチェックしてるんだけどさ、眠くて。あー直す所たくさんだよ。」
「それってひょっとして僕のやつですか?」
「違うよ。高瀬のやつじゃないよ。高瀬は小論の形が整ってきたから自信を持っていい段階だよ。」
「ありがとうございます。大谷先生のお陰です。」
「いやいや、高瀬の実力だよ。教員ってさその子の実力を上げるサポートだけなんだよ。そこから伸びるか伸びないか本人次第。本人の意欲と効率の良さが大事。そこから
もっともっと大事なのは伸びて結果が出ても平然といること。思い上がったり天狗にはならないこと。」
「最後は大事なんですか?」
「そうだよ。まぁ高瀬より長く生きてるからね。そういう風に思うんだよ。
あーそう言えば高瀬は願書出したの?」
「出しましたよ。11月末が試験です。」
「そっか。もうすぐか」
朝のホームルームが始まる5分前になった。
僕は大きい欠伸をしながら階段を上がった。
今日はやけに眠い。
その日の5、6時間目の授業は矢部の日本史だった。授業は板書して矢部が教科書を読む。何の面白味もないし、本当に適当な授業だ。
あのぶっきらぼうの表情で怠そうに教科書を読んでいる。僕はお経を聞いてるような感覚になり、だんだん眠くなってきた。朝から異常に眠かった。
矢部の教科書読みが南無法蓮華経になってきた瞬間、良い心地になった。窓から秋の涼しげな風が漂う。
ゴン!
と真上から鈍い音がした。
僕はゆっくり目を開けると矢部が教科書を片手で持って立っていた。
恐らく、教科書の角っこで僕の頭を叩いたのだろう。
「高瀬、そんなに俺の授業がつまらないか。」
僕は眠気と焦りで何も言葉が出なかった。クラス全員、僕と矢部を見ている。
矢部は大きく息を吸った。
「もう一度言う!!俺の授業がつまらなかったのか!!!!」
と叫んだ。
僕は凄く冷静だった。なぜか分からないが自信に満ち溢れてる感覚だった。
てか、何でコイツにあーだこーだ怒鳴られなきゃいけねぇだよ。
何も出来ない、頭の柔軟性がない理不尽野郎に謝る必要はない。
僕は少し姿勢を直して矢部に言った。
「はい、つまらなかったです。」
矢部は僕の方を睨みながら
「俺のことバカにしてるんだろう?なぁ答えろよ。」
「はい、バカにしてます。この学校の教員の中でポンコツだと思います。」
「ポンコツっていうけどよ。今俺が教えてる内容をロクに聞かなきゃお前の受ける大学は受からねぇよ!」
僕は鼻でフンっと鳴らし
「矢部先生に言われたくないですね。一回落ちてる方に言われる筋合いはないと思います。」
「俺のことをバカにしやがって!!!お前みたいな奴はいつか痛い目に合うんだよ!お前、今の段階でも普通落ちるからな!?」
「受かったらどうしますか?合格したら全力で僕に謝って下さいよ!!自分が無能でしたと!」
矢部は
「そんなん知るか!!」
と言い放って教壇の方へ戻った。
僕はコイツの面子の潰すことを想像しただけでワクワクしてきた。




