平成23年③
夏休みは学校と家の往復だった。
朝、いつもより遅く起きて寝ぼけながら、朝食を取る。制服に着替えてチャリに乗って学校へ向かう。暑い日差しが照りつける中、田んぼの畦道を走る。額から止まらない汗。
教室に着いてからタオルで顔と髪を拭く。そして、バックから取り出したキリンレモンを一気飲みだ。
お昼から日本史の補講を受け、その後に大谷先生の現代文の補講を受けて、最後に大谷先生に小論文の添削をして貰うのが日課だった。
夕方、大谷先生に小論文の添削をして貰った。大谷先生は一通りで読んで
「形としては、随分良くなった。読みやすくなったし、起承転結が最初の頃より良くなってるじゃん。」
と笑顔で言った。
僕の褒め言葉を間に受けることなく、無表情だった。
「先生、形としては良くなっていると僕もそう感じます。だけど、」
「うん?」
「なんか、ペンが進まないんです。息詰まるというか。」
大谷先生は口を窄めながら、
「それは、頭が疲れて動かないということ?それとも、気持ちの問題?」
「モチベーションですかね。ここの大学に行きたいんですけど、なんか意識が上がらないんです。」
と僕は今の不安な気持ちを話した。
こんな甘ったるいことを言ってたら、普通は何言ってるんだ?てやんでい!となるだろう。
大谷先生は僕の顔を見ながら
「一回、受験勉強休んでみたら?」
「休む?」
「サボることも大事だと思うよ。夏なんだから、友達と海行ったり、お祭りに行ったりさ、リフレッシュすることも大事な受験勉強だよ。」
「‥‥‥」
「あ、ごめんごめん。高瀬、友達いなんだった。」
と先生はあざとくニヤッとした。
僕はそれに対して先生の顔をジロっと見ながら
「やっぱ、家でぐーたらした方が気分転換になりますよ僕は。」
とボソッと言った。
先生はうーんと言いながら
「大学に行ってみれば?」
「大学にですか?東京まで行って?」
「そーだよ。気分転換に観光がてら。でさ、受ける大学に行けばさモチベーションも上がるんじゃない?」
「なるほど。それはいい案かもしれませんね。」
と僕は頷いた。
「あそこの大学は東京の渋谷だから、受験当日だと、迷う可能性もあるかもしれない。
富山に住んでいる田舎者が渋谷駅に行ったら、ビックリする。なんだって迷宮のクロスロードだよ。」
僕はえ?と若干驚き、迷宮のクロスロードというワードに若干引き、
「そんなに、迷うもんなんですか?え?富山駅よりデカイんですか?」
「ぶっちゃけた話。俺は高瀬が受ける大学の卒業生なんだ。そんで、受験当日に電‥」
「え?先生!ここの大学出身なんですか?」
「そーだよ。んでね、受験当日、なんの準備をしてこなかった俺は渋谷駅で迷ってさ、パニックって。出口は分からんし、人を避けるのに精一杯だった。」
「先生も大学で文学を専攻したんですか?」
「そーだよ。でさ、タクシーを使って大学まで行ったんだよ。5分ぐらいで着いたんだよ。
タクシーの金無駄にしたってね。」
「志望理由ってなんだったんですか?」
「そーだよ。しかも、東京も案外ね寒くてビックリ。富山みたいに雪は降ってないけど、寒かったね。」
「先生、肝心な所は茶化しますね。」
大谷先生は立ち上がり
「こういうリフレッシュの方法もあるってことね。」
と言い教室を出た。
僕は最近できるようになったペン回しをしながら、今後について考えた。
目覚まし時計とケータイのアラームが同時に鳴った。僕はすぐに起きて両方止めた。そして、また布団に入った。5分後ケータイのアラームがまた鳴り、止めて布団に入る。
そして、5分後再度アラームがなり
「うるさいなぁ」と一人でボソッと呟き
アラームを止めて起きた。
すぐ家を出る準備をした。
自転車に乗り、富山駅まで漕いだ。
早朝の富山は物静かで、人類が滅びたのではないかと思わすほど静かだ。
僕は無料の駐車場にチャリを置き、新幹線口へ向かった。
この改札口で領収書を入れた奴もいたなと思いながら改札を抜けた。




