平成23年①
僕は山尾先輩たちが抜けた後もイレギュラーでベンチ外から同級生たちと後輩たちを応援していた。結局、3年間雑用と応援で僕の高校生活の部活動は終わった。イレギュラーの同級生たちは次々辞めていき、最年長イレギュラーとして役目を果たし終えた。誰からもお疲れ様とか、頑張ったねという言葉は掛けられなかった。何のために頑張っていたか分からなかったけど、何故か清々しい気分だった。部活を引退して、直ぐに受験モードに切り替えた。少し前から、目星を付けていた大学で歴史や日本文化を学んでみたいと思っていたからだ。僕が一番大好きなことを勉強したいと思った、「一番大好きなことを勉強したい」誰かさんが言っていたな。
朝のホームルームが始まる1時間前に学校に着く。職員室に入り、自分の教室の鍵を取りに行く。いつも取りに行く際に、声を掛けてくる名物先生がいた。
「お!高瀬!おはよう!!」
ゴツい身体にサングラス。座っているイスの隣にテニスのグリップが巻いてある竹刀がいつも置いてある。この人は別に剣道部の先生ではない。
「山根先生。おはようございます。」
と頭を下げてお辞儀した。
「高瀬は偉いな!部活動やってた時は朝練に出て、次は朝勉か!大したもんだ!」
とゴツい声で言った。
この人はいつも大袈裟に褒める。担当は英語だが、授業自体は受けたことがない。この人は英語なんか教えれるのか疑問だった。
僕は誰もいない教室に入り、黙々と日本史の勉強をした。
朝のホームルームが近くなると多くのクラスメイトたちが教室に入り騒がしくなる。ホームルーム15分前には動物園状態になっているので、寝たふりをして過ごす。
そして、ホームルームが始まり授業を受ける。ホームルームと授業が始まっても、動物園はいつまでたっても閉園しない。僕は誰とも喋らず6時間目まで終える。帰りのホームルームが終わってから15分ぐらいで動物園にいる動物たちはみんな帰り閉園する。そこから19時過ぎまで誰もいない教室で勉強し帰る。これが僕の受験ライフだった。
次の日も朝早くに学校に着き、職員室に入り、教室の鍵を取った。
山根先生は自分のデスクでコーヒーを飲んでパソコンをじっと見ていた。
僕はいつものように山根先生に挨拶をする。
「山根先生、おはようございます。」
僕は軽く会釈をした。
「おお!高瀬!おはよう!今日も朝勉か!」
僕は「はい!頑張ります!」と言い教室を出た。相変わらず、山根先生の隣には竹刀が置かれていた。
僕いつものように朝勉をし授業を受けた。
今日は土曜日ということで4時間目にロングホームルームという授業があった。今回のテーマは未成年飲酒、喫煙だった。
うちの学校では飲酒と喫煙で停学、退学になる輩が何人かいた。それを学校全体で見直す方針として、この授業をやるのだろう。
僕はこのロングホームルームが嫌いだった。
担任の矢部先生がクラス全員に向かって
「この未成年飲酒、喫煙でのメリットとデミリットを近くの奴らで話し合え」
と言った。
メリットってなんだよ。メリットなんかないだろ。
僕以外のクラスメイトたちはそれについて話し合ったり、それと関係ない誰々と誰が付き合ってるとか、AKBだと誰が推しメン?など話していた。僕は一人ポツンと下を向いて座っていた。
15分ぐらい下を向いてだろう。
矢部先生が「よーし、終了。2.3人ぐらい前で話し合ったことを発表してくれ。」
発表と言う言葉を聞いて、クラスはシーンとなった。すると矢部先生は、適当に3人選んで前で発表させた。僕は選ばれなくてホッとした。
結局、3人とも似たような内容で
「未成年が行うと健康に害するから」
「決まりだから」
など、小学生かよと思う発言を聞いていた。
授業終了5分前になって、矢部先生が話をまとめた。皆がようやく授業が終わると、伸びをしていた。
矢部先生が今回のテーマのまとめをして
目を細めて
こう続けた。
「今回の授業で一人、やる気がない奴がいた。」
と言った。
クラスがまたシーンとなった。
矢部先生は
「誰だか分かるか?思い当たる節がある奴手を挙げろ。」
誰れも手を挙げなかった。
僕は周りを見渡した。今日の授業で授業自体を妨害した奴らは、今回いないはずだ。
「高瀬、お前だよ。」
クラスの奴らが窓側の一番後ろにいる僕を見た。
矢部先生は続けた。
「近くの奴らと話し合えって、俺言ったよな?なんでやらなかった?」
僕はテンパった。
「や、あのそれは」
「お前、俺のことバカにしてるのか?」
「違います。話し合う人がいなかったんです。」
「なんだ、その言い訳?話に入れて貰えよ。」
「すみません。」
「すみませんじゃねーーだよ!!!舐めてんのかお前!!」
「す、すみません。」
「お前さ、俺のこともバカにしてるし、クラスの奴のこともバカにしてるだろ?あれか、クラスで一番成績がいいから調子乗ってるんだろ!?最近よ、お前の拒否反応がクラスの雰囲気を悪くするんだよ!!」
「違います。調子には乗っていないです。」
「それだよ!!普通に申し訳ございませんでした!!って謝れよ!素直になれよ!!
お前、帰りのホームルーム終わった後、職員室へ来い!!」
と叫ばれロングホームルームはシーンとした雰囲気で終わった。
ロングホームルームが終わり矢部は教室を出た。周りの奴らは僕のことをチラチラ見ながら、「ヤバない?」「高瀬よく分からないことで怒られるとか可愛そ過ぎるだろ」と笑いながら談笑していた。誰も僕のことを心配していない。というよりも皆んな僕のことをネタにしバカにしている。
帰りのホームルームが終わった後、教卓の傍にいる矢部が
「高瀬、逃げるんじゃねーぞ。」
とやや大きめな声で叫んだ。
当時は一体何が悪いのか分からなかった。理不尽な対応にイライラもしていた。
僕はお手洗いに行き、一旦教室に戻りお茶を飲み、落ち着かせ職員室へ行った。
「失礼します。」
僕は矢部の所へ向かった。
矢部はユーチューブを見ながら頬杖をついていた。
2人は一言も喋らず、矢部はユーチューブ見て、僕は矢部の隣で無言で立っていた。
ユーチューブの動画が終わったのか、矢部は僕のことを睨みつけながら
「今日のあの態度はなんなんだ?」
「なんのことでしょうか?」
「なめてんのか?」
「いや、なめていないです。」
「お前のそーいう態度がなめんてるんだわ!!」
矢部の声が職員室中に響いた。
職員室にいる先生たちは黙々と仕事をして、いかにも知りませんけどという雰囲気だった。
「てめぇさ、なんも言わないよな。しゃべれねーのか?」
「いいえ。」
「進路のこととかさ、てめぇ何も言ってこないじゃねえか。やる気あんのか?」
「大学受験するつもりです。」
「どこの大学で、どういう入試受けるんだよ。漠然としてるんじゃねーよ。」
「東京にある 大学を受けるつもりです。」
矢部の瞳孔がかなり開いた。
「お前じゃ無理だよ。俺でも、浪人して受かったんだからよ。受験舐めんな。」
「舐めてないです。」
「強気でいっくるけどよ、お前の成績じゃセンターも一般も無理だ。舐めんな。」
「取り敢えず、最初は推薦入試を受けるつもりです。」
「まさか指定校か??」
「はい。」
「あのさ、一言言っていい?」
「‥‥」
「聞いてんだよ!!」
「はい。」
「俺はてめぇのこと推薦する気がない。やめとけ。」
「なぜですか?」
「成績以前に態度が悪いからダメだ。推薦はしない。指定校推薦受けるのは自由だけど、俺はてめぇを推薦するつもりはない。
その悪態を直せば考えてやる。」
「はい。」
矢部ははぁあと大きな溜息ついた。
「てめぇは全てにおいてヤル気ないんだろ。よーく分かった。もう、行け。」
と言い手でしっしっとされた。
僕は何も言い返すが出来ず職員室を出た。
それから、僕は変わらず受験勉強に専念し、指定校推薦枠に応募した。評定は大幅にクリアしていたので、通る確率は高いと予想していた。夏休み前に指定校推薦枠の結果出る。
僕は1学期が終わるまで、山根先生に挨拶をして朝勉を続けた。
7月後半、あとちょっとで夏休みだ。
いつものように6時間目の授業が終わり、帰りのホームルームが始まった。
矢部が生徒全員に向かって
「指定校枠の結果ついて話すから、該当する奴らはホームルーム終わった後に職員室へ来い。」
と言った。
僕はホームルームが終わった後、職員室に寄った。
すでにうちのクラスの5.6人ぐらいが矢部の席に並んでいた。
クラスの女子が
「やったー!ありがとうございます。矢部先生!」
とキャッキャしていた。
すると矢部は
「気を引き締めて頑張れよ!」
と偉そうに椅子に座りながら言った。
矢部は次に並んでいた女子に
「お前は服装がだらしない。第二ボタンは閉めろって何回言っても聞かないから今回は保留な。」
「え〜なんで。先生頼むよ〜」
とその女子は手を合わせて「お願い!」と言い続けていた。
矢部は眉間に皺を寄せながら
「ちゃんと服装を正せば、すぐにでも指定校枠出すからさ、頑張れよ。な?」
その女子は「はーい」とショボンとしながら教室を出た。
最後に僕の番になった。
矢部は無表情で僕の顔を見ながら
「残念だが、高瀬には指定校枠は出させられない。」
「はい。成績が悪かったからですか?」
矢部は溜息をつきながら
「生活態度が悪い奴は指定校枠を出せない。」
「僕のどこが生活態度悪いのですか?」
「自分の非を認めないこと。人を見下すこと。コミュニケーションを全く取らないこと。」
続けて矢部は
「今はまだ高校生だから許されることで、社会に出たらお前みたいなのは、許されるべきではない。」
「取り敢えず、指定校での推薦は無理ってことですか?」
「高瀬、人の話をよく聞け。俺はテメェの態度について話してるんだろう?」
「態度とかより、推薦枠は今後一切与えられないのかを知りたいんです。」
矢部は腕を組みながら
「今後一切ない。指定校推薦ってな学校の代表として受けに行くんだぞ?お前にその資格あるか?そして、俺はお前の推薦文を作成して大学に出さないといけない。でも、俺はお前について書くいい内容がないんだよ。」
僕は目を細めながら
「でしたら結構です。自分の力で頑張ります。」
と言い職員室を去った。
僕の周りには使えない奴らばっかりだ。
全員敵だらけだ。
取り敢えず、別方法で考えないといけない。
センター試験、一般試験まで見据えないと。
僕は放課後残って勉強せず、帰宅した。




