平成21年②
春の陽気がポカポカしてしてる日だった。
先月まで雪が降り積もっていたのに、僕らの住んでいる町は何も事もなかったように明るくなっている。少し大きめのブラザーを着ながら家を出た。自転車に乗り学校に向かった。学校に着いても小中学校と同じで放課後まで誰とも話さなかった。話さなかったのではない。話せなかった。クラスには何グループか友達の輪が出来ており、僕は輪に入れず一つの個体として存在していた。昼休みも一人で弁当を食べ、授業を黙々と受けて、放課後は部活に行く。毎日これの繰り返しだ。
部活動は県内のテニス強豪校であり、いろんな各地から強い選手たちが集結していた。入部した途端からレギュラー選手たちの雑用係になった。
部員たちは男女合わせて約60人。レギュラーになれるのはほんの一握りで大半の部員はレギュラー外だった。
そういう風な環境だったので、同期や先輩たちも何人か辞めていく人もいた。
3年生の先輩たちの目標だった全国大会は残念ながら実現せず、3年生は引退した。1.2年生主体の新しいチームになった。先輩たちが引退しても僕はレギュラーに入ることはなかった。
夜まで全体練習をやって、夜からレギュラーだけの練習になり、僕は球出しや球拾い後片付けなどを黙々と行った。お陰でレギュラー陣のボレー練習とスマッシュの球出しは部内で1番人気があった。レギュラーの連中から「高瀬、球出し」「高瀬以外、球出ししないで。」
俺をなんだと思っているんだと心の中でボヤいていた。
そんなの中、部活内の小休憩の時に毎回、声を掛けてくる先輩がいた。
ほぼ身体の9割が筋肉が出来てるんじゃないかと思うほどのマッチョの山尾先輩だ。
背が高くてマッチョ、そして僕らのチームの部長でもある。
「高瀬、乱打。」
と言い
僕をコートの向こうへ行けと促す。
先輩がゆっくりロブを打ち上げた。
僕は「お願いします!」
と言い帰ってきたロブをトップ打ちで叩き込んだ。
先輩は来たなという顔をして、ガッと構え僕の打ち叩いたボールを思いっきり打ち返した。僕も負けじと帰ってきたボールを思いっきり返した。そのボールを先輩はドライブ回転(縦回転)を掛けて左に抜けるようなコースを変えたボールを打ってきた。僕はそれに反応出来ず、態勢を崩しボールをなんとか返したがネットをした。
「おい、どうした!そんなもんか!」
と先輩は叫んだ。
僕はネットまで走ってボールを取りに行き、また乱打を始めた。
10分間打ち合いをして休憩時間が終わった。
先輩は休憩することなく、練習を始めた。
そして、僕も休憩することなくボール拾いを始めた。練習が終わったのは9時頃だった。いつもこのぐらいに練習が終わる。レギュラー陣もイレギュラー陣もみんなヘタヘタで疲れ切っていた。帰りのミーティングが終わり、部員たちが一斉に帰宅する。そのまま帰宅する奴らもいれば、コンビニでたむろして帰る奴や密かに部内で付き合っている奴らは近くの公園でイチャイチャしに行っていた。
そんな中僕は一人でチャリに乗ってかえるか、山尾先輩にラーメンを誘われてから帰るかだった。その日は後者だった。
「高瀬!食いに行くぞ〜」
「はい、わかりました〜」
お互い自転車に乗り、富山駅の方へ向かった。山尾先輩とはいつも西町大喜という店で食べる。正直、毎回ここだから違うお店を行こうよと思うが、毎回先輩に従っていた。
ここの西町大喜というお店はブラックラーメン発祥のお店である。僕と先輩はラーメンとご飯を注文する。元祖ブラックラーメンなので、白飯と一緒に食べないと口と腹がキツくなる。そのぐらいラーメンのスープが濃い。
先輩は麺をすすりながら
「ブラックラーメンってな、ご飯のおかずとして、出たものなんだよ。昔、ここの地で働いていた人たちのスタミナをつけるためにブラックラーメンが生まれたんだ。」
「先輩、その話5回目です。あと、すすりながら喋ってるんで、汁メッチャ飛んでます。」
先輩は笑いながら
「高瀬ってさ、言葉一つ一つおもしれーよな。口達者!」
「自分変わり者なんで。だから友達も彼女もいないんです。」
「俺も友達はすくねーし、彼女なんていねーしな。」
「以外ですね。山尾先輩のような県でトップを争うテニスプレイヤーで、女の子たちからキャーキャー言われてる方なのに。」
山尾先輩はハハハと笑いながら
「その褒め言葉嬉しなぁ。でも、友情や恋愛より欲しい物があるんだ。」
「全国大会出場ですか?」
「そうだな。個人、団体ともに全国大会出場することを高校生生活全て捧げたい。彼女なんか、高校卒業しても作れるかもしれないが、インターハイは高校生生活しか成し遂げれない。」
「先輩!熱いっす。」
「周りの奴らは練習後、イチャついる輩がいるがそんな奴は全国なんて無理だ。俺は一つのことを専念して一つの夢を絶対に叶える。
邪念があるからダメなんだよ。」
「邪念?」
「そう、邪念。高瀬はその点、しっかりやっていると思う。お前テニス大好きで、テニス一筋ぽいもんな。」
「そうですかね。」
「彼女でもいるのか?」
僕ははぁ〜と一息ついて
「彼女は居ないですけど」
「好きな人はいるんだ?」
僕はうーんと唸りながら
「そうですね。でも、もう遠い所に行っちゃって。夢を追いかけて遠くに」
僕は和かに笑った。
「遠くにか‥どこに?」
「東京です。」
「東京!?‥」
「もう、会うことはないとおもんですけどね。先輩、僕食べ終わりましたよ。」
「はえーな。俺まだ3分の1残ってるわ」
「てか、先輩。毎回良く特盛食えますね?尊敬しますわ」
と僕はゲラゲラ笑って答えた。
「高瀬、その好きな人追いかけろよ。」
「え?マジですか。」
「今じゃなくてというか。高校卒業したら追いかけてみたら?」
「追いかけるんですか?あれですか、高校生活をテニスに捧げてから、追いかけるってこですか?」
「そーだよ。連絡してさ。会えませんかってさ。」
僕はハッとした。
「あ!連絡先聞いてない!!」
「お前アホか」
先輩は笑って返した。
「女テニの部長の長島っいるだろう?1年の時付き合ってたんだ。」
「え?マジっすか。いつも腕まくりして二の腕太い長島先輩とですか!」
「おい!若干バカにしてるだろ。」
先輩は突っ込んで、続けて言った。
「お互い3年生の引退まで我慢しようって約束したんだ。お互いインターハイに出るって目標があるから、それまで距離を置いてるんだ。」
「そうなんですね。二人ともインターハイ出場できそうですよ。」
先輩は腕を組んだ。
「分からない。油断したら一気に潰れるからな。高瀬もインターハイ出れる可能性もある。」
「俺もですか?」
「毎日、休憩時間に乱打してるだろ?お前ホントいいフォアハンド打つよ。毎回深いボール返ってくるから、相手後衛は苦労するよ。あとは、フットワークをもっと改善すればな。」
僕らはお店を出て解散した。
僕はチャリに乗ってマンションに向かった。
夜の富山駅周辺はひっそりとしており、落ち着いた雰囲気だ。昼間にいた人々はどこ行ったのだろうか。
富山城が光に照らされてライトアップされていた。
マンションの駐車場にチャリを置いて立ち止まった。ここで立ち止まっていれば美喜ちゃんが声を掛けてくれそうな気がした。
「ねぇ!春樹くん!」
ってまた呼んで欲しいよ。
今、東京であの人は何をしているのだろうか?東京は今、僕が見上げている夜空と同じ景色しなのだうか?
それから、山尾先輩は個人戦を制し、富山県チャンピオンになった。さすがだと思う。学校中で1番の有名人になった。そこらへんの非常勤講師より名は知れていた。大阪で行われるインターハイを前に、僕らの高校の全校集会でテニス部の壮行会を行うことになった。
テニス部のレギュラー陣と真ん中に山尾部長が並んだ。
全校集会の司会を行なっている猫背の教頭先生が
「ええ、ですね。これから少しの時間ですね。テニス部のですね。壮行会をですね。
行いますね。」
と言った。
周りの女子たちは「山尾さーん」と叫んでおり、男子たちは「めんどくせー」とぶつぶつ言っていた。
教頭先生が背中を丸めた状態で
「テニス部のですね。部長のですね。山尾くんからですね。決意表明をですね。言って貰いますね。では、ですね。どうぞです。」
山尾先輩はマイクを持って
「あ、あ、あ、この度、僕たちテニ」
「マイクはですね。入ってますよぉ。」
と教頭先生が口を挟んだ。
女子たちが一斉に「黙れよ!教頭!ですね。ですね。うるせー!」と野次が飛んだ。
山尾先輩は仕切り直して
「この度、僕たちテニス部は個人、団体ともにインターハイに出場することが出来ました。それは僕たちだけの力ではなく、ご指導頂いた先生や保護者の方々、そしてグランドを頻繁に開けてくださった、運動部の皆様のおかげです。それに対して、僕たちは恥ずかしくない試合をし、全身全霊で全国大会を戦って参ります。目標は全国制覇です。チーム一丸となって頑張ります。」
山尾先輩はハァ〜と息を吐いて続けた。
「そして、僕には個人戦もあります。個人戦で富山県制することができたのは、皆さんのお陰と‥」
と山尾先輩は詰まった。
みんな、え?という風に山尾先輩のことを見た。
「恵美が応援して続けてくれたことです!」
それを聞いていた女子たちはえー?はぁー?とガヤガヤした。肝心の長島先輩は顔を真っ赤にして顔を隠して座っていた。
ガヤガヤしている生徒の何人かが
「付き合ってのー?」
と山尾先輩に聞いた。
「はい!」
と山尾先輩は大きい声で言った。
キャーやえー??と声が交差した。
一体、この間のラーメン屋で話した邪念とらやらは一体なんだったのか。僕は体育座りのまま空を見上げて考えた。僕は一つのことを集中してやってしまう人間だが、山尾先輩のようにテニスに集中し、大事な人と繋がれる器用な人もいるのだと。
教頭先生が場を静めるために、頑張っていたことが脳裏に残っている。
「皆さんですね。静かにしましょうね。はい、お着いてくださいね。はい、はい。山尾くんも、もう戻りないさいね。」
とハンカチで広がっている額を拭いた。
インターハイは団体戦も一回戦負け、山尾先輩も一回戦負けで3年生の先輩たちの夏は終わった。
たまに富山駅の方にいく道中、西町大喜の傍を通る。よく、山尾先輩と長島先輩が仲良く
お口アーンしながらラブラブで食べていた。
ブラックラーメンは富山で働く労働者のために作られたと豪語していた先輩がお口アーンされていた。僕はその姿を店の窓越しからチラッと見た。
夏の日の夜。半袖一枚で過ごしやすい気温だ。自転車に乗り家に向かった。家の近くの田んぼ鈴虫たちがいい音色を響かせている。マンションの駐車場に自転車を止めた。自転車置き場にある、もう使われることがないと思われる自転車を見つめた。随分年月が過ぎたが、そんなに汚れてはなかった。綺麗に大切に使っていたのだろう。タイヤはパンクしているが保存状態は良い。僕は夜空を見上げた。(美喜ちゃん元気かな)




