平成21年①
中学3年の2月。富山の2月の降雪量は半端ない。外を歩くたびに足が埋まる。酷い時だと長靴が埋まって歩けなくなる。その日は朝、早く起きて、制服を着て朝食を食べ家を出る準備した。家を出発する前に受験票と筆記用具、美喜ちゃんから貰った御守りを確認した。外はチラチラと雪が降り続いていた。僕は雪に足が取られながらも歩いて受験校へ向かった。
コートにマフラー、手袋をしてなるべく利き手である右手が悴まないようにした。
この日は僕の高校受験の日であり、そして美喜ちゃんが東京に旅立つ日でもあった。
僕は美喜ちゃんのことも気になるが、試験の方に意識を高くしていた。いい報告が出来るように今は試験のことを考えよう。美喜ちゃんのことはそれからだ。
受験校には試験開始の1時間前に着き、お手洗いを済ませ、席に着席して試験が始まるのをまっていた。周りの受験生たちは参考書など読み漁っているが、僕は今から勉強しても変わらないだろうと思い、ホッカイロを握りながら試験が始まるのを待っていた。
時間になり、担当教官が問題用紙と解答用紙を配って試験開始した。
16時になり5教科全てのテスト終わった。
ようやく、受験から解放されて気持ちが楽になった同時に、早く美喜ちゃんの所へ行かなければと焦りが出た。僕は急いで学校を出て、富山駅へ向かった。雪が多く降り積もっており、路面電車は運休していたのでバスに乗って駅まで向かった。
バスの窓から真っ白な雪景色が広がっていた。歩道に高く積み上がっている雪の塊。歩行者は仕方なく車を気にしながら車道を歩いている。民家の駐車場にいるおじさんはせっせと雪掻きをしている。2回除雪車とすれ違った。そんな光景を見ながら富山駅に着いた。美喜ちゃんは17時半の新幹線で東京に向かう。手ぶらだと申し訳ないので、売店で手渡すご飯を買った。僕はなぜか緊張しながらJR新幹線口へ向かった。
改札口の外には美喜ちゃんのお母さんと、友人たちが美喜ちゃんを囲って話していた。
その輪に近づいてくと美喜ちゃんが僕を見つけて微笑んだ。
「おーい!!春樹くん!こっちだよ!」
とバカデカイ声で叫んでいた。
僕は美喜ちゃんのお母さんと美喜ちゃんの友人たちに挨拶をした。
美喜ちゃんはニヤニヤしながら
「今日、試験どうだったの?」
「社会と国語は良く出来たよ。」
「あとの3教科は全くダメだったんだね。」
「うん!」
「うん!じゃないよ!もぉ〜凄く心配!」
ここにいた一同全員が笑った。
美喜ちゃんの友人たちは
「あぁ、この子が噂の春樹くんね。」
と話していた。
噂のって、美喜ちゃんは僕のことなんて話しているだろう?
「あ、美喜ちゃん、これ良かったら新幹線の中か乗り換えの越後湯沢駅で食べて。」
美喜ちゃんは嬉しそうに
「ありがとう!嬉しい!気を使ってくれてありがとうね。中身は何?」
「え?鱒の寿司だよ。」
「手土産で鱒の寿司渡すって春樹くんぽいね。」
僕は照れ臭くなって頭を掻いた。当時の僕は嬉しかったが大人になった今、考えるとその言葉は褒めてはいないのだと気づいた。
美喜ちゃんはみんなの方向いて
「今日は集まってくれて、ありがとう。東京でも絶対に頑張ります。」
と笑顔で言った。
友人たちは「美喜頑張って!」「たまには帰ってきてね!」など言葉を返していた。
美喜ちゃんのお母さん
「美喜。頑張ってね。お母さん、3月に1回東京に行くからね。それまでに引っ越しや色々準備あるけど頑張ってね。」
「お母さん、ありがとう。春樹くんも来てくれてありがとう。東京でも春樹くんが合格して私の後輩になることを願っているよ。」
「ありがとう。美喜ちゃん。」
「春樹くんなら大丈夫だよ。凄く頑張り屋さんなの知っているから。」
僕は嬉しすぎて頬っぺたが真っ赤になった。
自分の好きな人から頑張り屋さんって言われたら心臓がバックンバックンだ。
「じゃあ、行ってきます。」
と言い美喜ちゃんはキャリーバッグを持って改札口に切符を入れた。
切符を入れた瞬間、もう美喜ちゃんと会えないかもしれないんだという気持ちが込み上げてきた。
さよなら美喜ちゃん。
とその時、改札口がピーロンと鳴った。
「え?お母さん!切符が帰ってきちゃったよ。」
美喜ちゃんのお母さんが娘の所に近づいた。
「美喜、領収書も一緒に入れちゃってるじゃないの。」
「これは、違うの?」
「それは入れないわよ。乗車券と特急券を入れるの。」
美喜ちゃんは切符を2枚入れて改札の中に入った。美喜ちゃんは僕たちに手を振りながら、エスカレーターに乗りホームへ向かっていった。
美喜ちゃんのお母さんは「もぅ、すごく心配心配なんだから‥」と呟いた。
美喜ちゃんの姿が見えなくなった時、心がぽっかりと穴が空いたのか、泣きそうになった。急に寂しい気持ちが襲ってきた。さっきまで頑張り屋さんって言われて舞い上がっていたのに。
美喜ちゃんの友人たちはそれぞれ解散し、僕は美喜ちゃんのお母さんの車に乗せて貰い、自宅のマンションまで送ってもらった。
美喜ちゃんのお母さんは運転しながら
「春樹くん今日来てくれてありがとうね。美喜も凄い喜んでたからさ。」
「いえいえ、こちらこそ、美喜ちゃんにはお世話になったので。」
美喜ちゃんのお母さんは笑いながら
「大人になったね春樹くん。」
と言った。
それから数分会話はなかった。
すると美喜ちゃんのお母さんは
「やっぱり、娘が遠くに行っちゃうの寂しよね。家に帰ったら美喜がいたのに、今日からいないでしょ。あ、一ヶ月に一回美喜に会いに行けばいいんだ。なんてね。」と笑って言った。
「美喜ちゃんいないの、寂しいですよね。」
僕は笑顔で返せなかった。
「そう、寂しいのよ。一ヶ月に一回会いに行きたいなんてね。親バカもいいところよ。」
と笑って答えた。
美喜ちゃんのお母さんは続けて
「ねぇ、春樹くん。美喜のこと好きでしょ?」
僕は勘付かれたと思い慌ててしまった。
「いや、好きっていうか、その幼馴染として、ええ、」
もはや、普通に話せていない。
「でも、春樹くんなら美喜のことをお嫁に持って行っていいと私は思うけどな。」
「え?え?」
「ごめんごめん。まだ、中学生だもんね。」と笑って誤魔化していた。
そんなやり取りをしているうちに、マンションに着いた。
さっきより、雪が強く降っていた。またさらに積もるな。
東京はどんな景色なんだろうか。
ふと、曇り空を見ながら考えた。
さよなら、美喜ちゃん、
美しい幼馴染よ。
この日から僕と美喜ちゃんは富山で会うことは二度となかった。




