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閃きました

新作です、よろしくお願いします。





 兄たちによく笑われる。お前は夢を見すぎだと。

 たった一人の相手と出会い、恋に落ち、その人との結婚を夢見ることの、なにが悪い。


「そんなこと、実際にある訳ないだろ!」


 そう言って笑う女遊びの激しい三男に、イラっとする。この兄とは恋愛に関しては、一生分かり合えそうにない。


「なんで若いうちから一人に絞って、その相手と結婚しなければならないんだ? お前は恋愛小説の読みすぎだって」


 それのなにが悪い。恋愛小説……。その中でも胸キュン必至の乙女小説は、まさに恋の指南書。


「確かにお前は可愛いよ? 可愛いけどさあ……。女の子なら、そういう夢見る発言でも構わないさ。だけどお前、男じゃないか」


 男が乙女小説のような恋愛を望んで、なにが悪い!


◇◇◇◇◇


 国王夫婦である両親の間に長男が誕生したのは、二人が結婚した翌年のこと。

 その次の年には次男、その二年後に三男が誕生。順調に三人の王子を産んだ母の地位は、揺るぎないものとなった。

 母を愛する父、国王も、これにより臣下から側室の案を打診されても、堂々と断れるようになった。


「次は妃のような娘が欲しいなあ」


 ある日、父は呟いた。人間とは欲深いもので、新たな欲……。父は娘の誕生を願うようになった。

 母も娘が欲しいと思っていたので、二人は頑張った。結果、四男、五男が誕生。


「五人も男の子だったのよ。きっと次こそ女の子よ!」


 そうやって頑張った結果が、六男の僕。

 両親は娘ではないと、落胆した。とはいえ、もちろん僕にも愛情は注いでくれている。

 今では自力で娘を得ることを諦めた両親は、早く息子たちが結婚し、義理の娘を迎える日を楽しみにしている。


 さて、五人も兄がいれば、六男である僕が王位を継ぐ確率は低い。三男は女遊びが激しいが、長男と次男は人格者で素晴らしい、自慢の兄ときたものだ。そんな彼らを差し置いて僕が国王になる可能性は、限りなくゼロに近い。

 王子が六人もいればそれを利用し、己の権力を高めようとする困った奴らも出てくるが、僕たち兄弟の仲は悪くない。

 すでに次男を含む僕たち弟全員、いずれ国王となる長男を補佐すると決めている。


 しかし貴族界では、長男派と次男派という派閥を頭角に、各王子の派閥が勝手に存在している。所属している人数は、産まれた順に少なくなり、僕に至っては片手でも余る。

 そのことに不満はない。むしろ気楽だし、安心して兄たちの手助けに専念できるから、ありがたい。


 王になることはないが、それでも王子であることに変わりはない。将来安定確実と言われる、僕との結婚を望む女性は、多く存在する。

 僕の見目は兄たち同様、悪くないが、『可愛い』と評されることが多い。

 琥珀色の瞳に色白な肌。まだ若いから華奢な体だけど、あと数年もすれば、兄たちにも負けない鍛えられた体になれるはず。癖のある髪の毛は、こげ茶色でふわふわ柔らかい。だから小さい頃は、『天使』と呼ばれていた。記憶にないけれど。


 可愛かったからか、末っ子だからか、はたまた女の子を望んでいたからなのか。

 幼い僕が寝る前によく読み聞かせられたのは、お姫様が王子様と結ばれる、女の子向けのお話が多かった。僕自身、その手の話に夢中になった。

 だからなのか、今も女性向けの小説……。胸がときめく、きゅぅんとする、甘酸っぱい乙女小説が大好きだ。


◇◇◇◇◇


 四男の誕生日を祝うパーティーが城の庭で開かれ、兄と同じ年頃の令嬢たちと、その姉妹が多く招かれた。

 そう、これはただの誕生パーティーではない。パーティーという名の、集団お見合いだ。

 五男と僕も必ず出席するように言われた。あわよくば、僕らも相手を見つけるようにという、両親の魂胆が見え見えだ。


「本日はお会いでき、嬉しゅうございます」


 気の強そうな顔をした令嬢が挨拶をしてきたので、微笑みながら返事をする。


「イポーミア伯爵のご息女、アルテ嬢ですよね。本日は兄の誕生パーティーに、ようこそおいで下さいました」

「きゃあ! 私の名前を覚えて下さっているなんて! 光栄ですわ!」


 両手を胸の前で組み、大げさなほどに大きな声で叫び、周りの令嬢に、自分は特別なのだとアピールを始めるアルテ。

 いやいや、別に君が特別だからではないよ。六男とはいえ、僕も王子だから。人の名前と顔を覚えるのは、必須スキルなだけだから。


「王子様、私のことは覚えていらっしゃいます⁉」


 ところが一人だけ名を呼んだせいか、我も我もと他の令嬢たちが詰め寄ってきた。


 えっと……。


 気がつけば僕を中心に、ぐるりと令嬢方が円を組んでいる。

 ……これは全員の名前を言わないと、ダメか。

 対応を誤ったなと後悔するが、仕方ない。


 円の一部と化したアルテの左隣から、時計回りに一人ずつ順番に名前を呼んでいく。まるでなにかの呪文のように早口になっているが、人数が多いので許してほしい。

 名を呼びながら体の向きを変え、令嬢たちの顔を見回す。

 誰もがギラギラと獲物を狙う目で、互いにけん制しあいながら僕を見ている。


 正直、この場から逃げ出したい。

 僕は胸がきゅんとなるような人が好みなんだ。そう、可愛い花やレースが似合う、乙女小説のヒロインのような子がいいんだ! 断じて目を光らせ、牙をむき出しに、鋭く尖らせた爪でライバルを蹴散らし、獲物を狩るような女の子は好みではない!

 とは言っても、初恋すらまだだけど……。

 だけど乙女小説ファンとして、初恋は大切に育てたい。肉食獣に邪魔をされたくない!


 あと少しで全員の名前を言い終わる。さて、どうやって逃げよう。

 その時視界の端に、とある一人の令嬢の姿が飛びこんできた。

 一人テーブルにつき、あーん。と、嬉しそうに大きな口を開け、ぱくりとケーキを口に運んだ令嬢の姿が!


 ……これだ!


 全員の名を言い終えると、すぐに輪の中から抜け出し、急いでケーキを食べている令嬢のもとへ向かう。


「シェリー嬢」


 声をかけられた彼女は、口に入れていたケーキをゆっくり飲みこむ。それからナプキンで口元を拭き、立ち上がるとドレスの裾をつまみ、お辞儀をする。


「ビルゴ王子、ごきげんよう」


 お辞儀をすれば用は終わったと、またすぐ席に着き、今度はフォークでぶすりと切り分けられたステーキを刺し、口に運ぶ。そのまま幸せそうに、もっちもっちと食す。

 彼女の行動が不敬だと騒ぐ者は、誰もいない。彼女はこういう人間だと、皆が認識しているからだ。

 彼女の血統は、なにかに執着することで有名。それに夢中になると、他のことは目に入らない。

 執着の対象は、シェリーは料理。その兄は本。父親は絵画だと、誰もが知っている。


「いつ見ても君の食べっぷりは素晴らしいね。幸せそうに食べる姿に、惚れたよ」


 もっちもっち。

 最高級の笑顔で彼女のフォークを持つ柔らかい手を握れば、周りから悲鳴に近い声が上がるが、シェリーは顔色一つ変えず、口を動かしたまま。

 あれ? 僕、見た目がいい王子のはずだけど? 自分で思うほど、見た目が良くなかったのかな? いろいろ自信を失くしそうだよ。

 それでも諦めるものかと、頑張る。


「どうだろう。二人で庭園を歩かないか?」


 やっと肉を飲みこんだシェリーは、テーブルに並ぶ料理を見回し、嫌そうな顔を作る。

 ……そうか、僕は料理以下か。そうか、そうか。


「……後で君だけの特別なデザートを、城の料理人に用意させる」

「お供します」


 耳元で囁けば、簡単に承諾を得られた。

 いろいろ思うことはあるけれど、とにかくシェリーよ。君、いつか食べ物につられ、誘拐でもされてしまうのではないかな。不安だ……。

お読み下さり、ありがとうございます。


結末までの下書きは済んでおり、全4話の予定です。

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