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早く来いよ

緊張して開いた携帯には、何も表示される事は無かった。


私、何を期待しているの?

違う期待なんてしていない。

解っているのに。

あいつは、もう私なんて目に入っていないって。

同僚にからかわれてのろけるあいつを何度も見てきた。

社内恋愛禁止なんて、暗黙の了解を馬鹿みたいに守った結果がこれなのだから。


別れはあっけないものだった。

「話しがある」と呼び出され、期待していたあの日。プロポーズされると信じて疑わなかったバカな私。

封印していた記憶がじわじわとよみがえりそうなったその時に、手の中の携帯が震えた。

ディスプレイには「俺」の文字。

もう、私はこれっぽちも好きなんて気持ちは無いんだから。

覚悟を決めて耳に宛てた。


「……もしもし」


「やっとでたな」


想像していた人物じゃなかった。

ほっとするような、残念なような気持ちは直ぐに消え、我に返った私。


あいつだ、あのムカつく男だ。


「やっと出たって。何であんた私の携帯いじってんのよ。これ犯罪よ」

あんな夢を見たせいか、俄かに燻ぶる胸の内を悟られないように早口で一気にまくした。


「何言ってるんだ、ちゃんと許可は取ったぞ。何より携帯を差し出したのはお前の方だって」

と呑気な声。


私の頭をフル回転したところでそんな記憶は全く……無い。


「ちょっと、えっ」

どぎまぎしながら喋り始めた私の声を遮ったこいつ。


「あの店で待ってる。行きつけだろ”Adagio”。今後の対策だ。お前――梨乃も困るだろ? 口裏合わせないと」

笑いを含めたその物言いに、ムカっときそうになるけれど、心の隅にちょっとした好奇心もある。

何と答えようと迷っているうちに


「じゃあ、早く来いよ」

と電話が途切れた。


「嫌な奴」

口ではそう呟くけれど、駅へと向かう、その足取りは自分で思うより遥かに軽かった。

さっきまでは、元彼の事を考えていた私だったのに、なんて軽い頭なんだろう。

それにしても、あいつあの店を指定してくるなんて。

初めて会ったあのショットバー。

こんな早くから開いているなんて知らなかったかも。







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