誰と?
昔良く来た、って。
連れてこられたのはデートの定番、海岸線沿い。
そして、車はギリシャの建物を思い起こさせる白塗り壁のオープンカフェだろう駐車場へ。
小高い丘の上にあるだけあって最高のビューポイントだ。
というかそれを狙って造られたのだろうけれど。
随分とお洒落な場所を知ってるじゃない。
こんな素敵な場所に来たというのに、笑顔というより顔がぎこちなくなるのは何でだかもう十分に理解している。
テーブルに届けられたトロピカルフルーツジュースはコイツのお勧めを無視して私が選んだものだったり。
だって悔しいじゃない。
他の誰かと来て他の誰かが飲んだであろうものを飲むなんて。
悔しいかな、これは嫉妬というもので。
期待しない、って思っている割にのめり込んでいる自分にがっかりもする。
「ここ、夜はバーになるんだ」
そんな言葉にもチクリと胸が痛む。
ほんと重傷だ。
「ふーん」
なんて気のない返事はそれの現れだったりするのだけどね。
私ってこんなに心の狭い女だったのかしら?
それなりの歳を重ねてるんだから相手がいるのは当然で、自分だってそういう相手がいたはずなのに。
軽い自己嫌悪だ。
そう、軽いね。
会話をしているようなしていないような。
車の中でのテンポとはまるで違う感じ。
私に話す気が無いと思ったのか、話をするのが面倒になったのか、まったり海を眺めている状況が続いていたりして。
でも聞こえてくる波の音や海岸線独特の湿っぽい海風は少しづつ心の殻を砕いていってくれるようで。
「ちょっと歩くか」
そう言われて、素直に頷けた。
きっとここは結構有名な海岸なのかもしれない。
私達の他にも何組もの男女がいる。
楽しそうにはしゃいでいる姿は純粋に羨ましいと思ってしまう。
自分達もそうなりたいとかじゃなくて、自分達が通り過ぎてきた時間が懐かしいのかもしれない。
手を繋ぐ訳でもなく寄り添う訳でもなく、ただ淡々と砂浜を歩くだけ。
過去の彼達とここにいたらきっとするだろうなんて思い出したくもない奴らを思い出してしまうのも、海のなせるわざなのか。
変にトリップしていた私は周りの景色なんて目に入ってなかったようで。
立ち止まった背中越しにはちょとした洞窟らしきもの。
「海風が岩壁に反響して不思議な音がするんだ」
まるで、初めて私が一緒にいたのを思い出したかのように隣に並んで歩きだした。
手は繋いでないけど。
岩壁の中ほどまで進むと岩はトンネルのようになっていて、向こう側の海岸線が見えた。
「いろんな人と来たんだろうね」
それは心の声でもあったはずなのに
「ああいろんな奴ときた」
と返ってきたもんだから思わず足が止まってしまう。
私今言葉に出しちゃったんだ。
なんてこったいだよ。
まるでこれじゃ拗ねてるみたいって実際そうなのだけど……
「なるほどね」
なんて素知らぬ感じで言いながら後ろに手を組み背中を向けたのはどうしようもなくかっこ悪かったから。
「超ガリ勉だろ、サボリ魔だろ、それから――まああれだ高校の同級生ってやつ。クラスの親睦兼ねたバーべキューでな」
その言葉に対してなんて言っていいのか解らなくて、潮風を聞くふりして歩きだしてしまった。
妙に人の心を察知する能力の高いヤツが今どんな顔をしているのか、解りすぎて嫌になる。
肩を震わせて笑ってるに違いない。
絶対振り向くものかと洞窟の向こう側へ。
もしかしたら――。
私のいいように解釈しすぎなのかもしれないけれど。
気を使って嘘ついてくれたとか?
どちらにしても、奴の口から過去の女話を聞かなくて済んだ事にほっとしている自分もいた。
これがどこぞの国のドラマだったら、直ぐに追いかけて実はあいつも私を好きだった――
なんて、虚しすぎる妄想が過ってしまい、どうしようもない気持ちになったり。
ってか私どうするんだこの状況。
笑って茶化せば良かったものの、妄想は別にして、ヤツが追ってくることはないだろうに……
この後どうやって戻ればいいのだか。
私の馬鹿ーっ。
そう海に向かって叫びたい衝動に駆られたよ。