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言い聞かせたのは何の為?

二度ある事は三度あるって言うけれど……


ここで奴に助けを求めるなんて嫌すぎる。

だけど私のピンチには変わりない。

これは果たして幸運なのか不幸なのか。


「会うだけでいいから会ってみてよ」

そう言われたのは今から遡る事2週間前。

あの日、久し振りに顔を合わせた小川先生の奥さんだった。

何でも、親戚の子のお見合い相手を探していたとかで、私に白羽の矢が立ってしまったらしい。

ちょっとは考えたわよ。相手は歯医者だっていうし、年も近いし――。


だけど、だけど、だけど。


結婚相手くらい自分で見つけたいじゃない。

この年になってお見合いでなんて。

良い男が、っていうのは顔がっていうんじゃないわよ、性格含めて全般的に。

そんな男がお見い合いなんてするはずないんだから。

奥さんが背も高いし顔もカッコいいんだからなんて言っているけど、それが怪しいの。

背が高くて、良い職を持って顔が良いとなれば尚更、遊び人にとしか思えないでしょ。

確かに偏見かもしれないけど。


「実はね、母には黙っていたのですが私お付き合いしている人がいましてですね……」

母がお茶っ葉を入れ替えている隙に小声で囁いたのだけど。

奥さん一枚うわてだった。


「梨乃ちゃん、この年になってお付き合いしているっていうのに秘密にしなくちゃいけない相手なんてロクなもんじゃないわよ。梨乃ちゃんの事を本当に思っているのなら親に紹介させてくれって言うのが筋ってもんよ。だから、会うだけ会ってそれから決めればいいいいじゃない、ねっ」


元よりそんな相手なんて久しく居ない訳でして。

奥さんのプッシュに負けた私は、麗らかなこの春の日に高級ホテルのレストランで

「今日はお日柄も良く――」

という在り来たりな言葉で始まった堅苦しくないお見合いをというものをしてしまったという事です。


私が望んでお互いの両親は同席せず、奥さんと私達だけという形を取って貰った。

興味津々な母を説得するのは容易い事ではなかったが、姉貴が力を貸してくれた。

「気合入り過ぎて引かれちゃったら元も子も無いから、今回は当人だけで会ってみたら?」と。

ドラマのような展開が続いた。

「じゃあ、若い二人に任せてこの辺で」

なんて、白々しい台詞で奥さんは退席。


速効帰ろうかと思ったけど

「折角だから、上でちょっと飲みませんか?」

そう言われて、折角めかしこんできたし、驕りだろうとふんで頷いてしまったバカな私がいた。

奥さんがいる時は紳士だった、目の前にいるこの男。

年は私の二歳上、名前は「高田さとし」というらしい。


うん、顔は奥さんの言う通り世間一般的にモテル男ってのだ。

だかこいつ――。段々と本性が出てくるもんだね。

お酒って怖いわ。


何だか洒落た名前の高そうなワインを数杯飲むと、距離が縮まってきた。

そして、こいつは私の耳元で囁いたんだ。

「なぁ、まずは身体の相性から試してみない?」

しっかりと腰に手を回しやがって。


やっぱり、偏見じゃなかった。

私は、さっと身を引いて手を払ってやった。

伊達にここまで独身だったわけじゃない。


「今日は忙しい中、お時間取らせてしまって失礼しました」

そう言って一万円札をカウンターに置くと私は、その場を立ち去った。

もう二度と会いたくなんか無いっていうの。

お気に入りのヒールをカツカツと鳴らしながら、店を出た時に思いも寄らない事態が発生してしまったのだ。


腕を引っ張られた私はそのまま後ろに倒れそうに。

廊下の壁に掛けてある優雅な油絵の美女と目が合った。

体制を立て直そうと一歩引いたヒールは見事に「高田」の足に着地。


「これは作戦なのかな? 梨乃さん」

態と身体を密着させて、私の首筋に息を吹きかけるこの男、最悪だ。

「最近、ご無沙汰なんでしょ? それとも遊びすぎちゃったのかな? 物欲しそうにシテタクセニ」

怒りで両手は握り拳に、爪が手の平に食い込んだ。

歯を食いしばって、睨めつけるとこれまた嬉しそうな顔をするときたもんだ。

そして、怒り心頭の私に面食らう一言。


「タイプなんだよね。最近若い子としかしてないからさぁ。本来は媚びた子よりこっちの方が好きなんだよね。今日は最高な夜になりそうだ。やろうぜ。その顔ソソラレル」


この男――。

線が細い癖に、身体が締まってる。腕を引きはがそうとするけれど、ビクともしない。

そういや、学生の頃テニスで結構上まで行ったって言ってたような。

そんな事を思いだしている場合じゃない。

こうなりゃ最終手段。

思いっきり大きく息を吸い込んで、大声を出そうとした瞬間。

私の口にすっぽり収まった奴の腕。

ここで負けてなるものかと思いっきり噛みついてみるも、小学生の時に矯正して抜いてしまった私のヤイバが恨めしい。

こいつのスーツにはまさに「歯が立たない」状態で。

ちょっと涙目になった。

奥さん恨むよ、こんなやつと見合いなんぞ組んでくれて。

このまま私は引きずられ、部屋に連れ込まれてしまうのだろうか――。

その時だった。


「面白い事しているね」

胸を疼かせる声がしたのは。

直ぐに違うと気がついたが、一瞬錯覚してしまった。


首を捻ると、腕を組んだあのムカつく男。

そう私は、嘗て愛した元彼とこの男の声を聞き間違えたのだ。


涙は直ぐに引っ込んだ。

冷静になれと自分に言い聞かせる。

仮を作りたくはないけれど、ここはやっぱり助けを求めるべきだよね。

そう判断した私は、目で訴えた。

お願い助けてと。

それを承知したのか、この男あの時のように鼻を鳴らしやがった。


「さとちー。こんなとこで会うなんて奇遇だね」

知り合いだったの?

高田は私に絡めた腕を緩める事なく

「ヨシト。邪魔すんなよ。これからが面白いとこなんだからさ」

と言いやがった。

私は高田の腕に噛みついたまま思いっきり首を振る。

すると、こいつは爆弾を落とした。


「梨乃が世話になったね。どうやら構ってやらなくて拗ねてたらしい、伯父さん達には内緒にしてたけど俺達、付き合ってるから」


噛みついていた口が大きく開いた。

まさにあんぐり状態。


あまりの事に固まった高田から私をひっぱり出すと私を後ろから両手で抱きしめた。

おろおろとする私に。

「ごめんな、梨乃。もうひと段落ついたから。機嫌直せよ」


そう言って、屈んだこやつは私に口づけた。

口づけたなんてもんじゃない。

舌まで入れてきやがった。


何なのよ、と思いつつも。

しっかりと舌を絡めてしまう私がいた。

これは演技よ。これは演技。


そう言い聞かせたのは何の為?


















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