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土曜の昼下がり

「ふーん、それでこれが例のなのね」


土曜の昼下がり、待ち合わせをしたオープンカフェ。

テーブルを挟んで座った真美は私の出したアンクレットを手に取ってマジマジと見つめている。

あの日メールをした途端に鳴り響いた携帯電話。

心配してくれていたから、連絡でもとしたメールだったけど、真美の反応は私とちょっと違う方向へ。

長話も何だからと、今日待ち合わせをして会う事になって今に至るわけだけど。


「梨乃さ、告白するの待ってみたら?」

アンクレットを摘まみあげて太陽に翳す真美の微妙なほほ笑みが怖い。


「だって、当たってみろって言ったのは真美じゃない」

折角、決心したというのに真美ってば何て事言うのだろう。

ただでさえ時間が経てば経つほど、意気込みが萎んでいきそうなのに。


「ごめんごめん、でもさぁ」


真美は意味深な顔で言葉を止めてしまう。

今思ったんだけど、真美ってそういうところアイツに似てない?

私はエスパーじゃないっていうの。

ストローでアイスカフェオレの中の氷をクルクルっとかき混ぜるのは、何か触ってないと落ち着かないから。

真美の言葉をじっと待つのは心臓に悪いんだ。


「これ、結構するんじゃない? それに私には気持ちが籠ってるように見えるけど」

真美が差し出した手にさらりと揺れるアンクレット。


私も、そう思いたい。

そうだと思いたい。

私の掌に戻ってきたアンクレットを握りしめた。


「梨乃は顔に出るからな。駆け引きなんて出来たら苦労しないか」


確かに。

ポーカーフェイスが出来ると思っていたけれど、そうでない事は良く解った気がする。

しかし私ってそんなに解り易いのだろうか。


「駆け引きね……」

三十路を過ぎた私に素直な気持ちで男に飛び込むのは至難の業かもしれない。

余裕が無いのに余裕のある振り?

気持ちを自覚してしまってからは尚の事、あいつの仕草や言葉で赤くなったり青くなったり。

悔しいくらいに反応しちゃう私がいるのだから。


「仕事の時の時の梨乃ってカッコいいんだよ。テキパキと要領よくこなして上司の我儘で横暴な要求もそつなくこなして。なんで恋が絡むとそういう風にいかないんだろうね。まっ私も似たようなものだけど」


突拍子も無くそんな事言いだすものだから、びっくりした。

私が真美をカッコいいって思うのなら解るけど、真美が私をそういう風に見ててくれたなんて。

ちょっとこそばゆい。


「仕事の時だけかい、私は」

照れ隠しでそう言ってみたものの。


「ほら、私に褒められたくらいで顔赤くしてどうするのよ」

なんて、茶化されてしまった。

アイツの前でポーカーフェイスなんて出来そうもないよ。

ため息ついたら幸せが逃げるって言うけれど、勝手に出ちゃうのだから仕方ない。

これは長い吐息だって、ため息じゃないって言い訳しながら自分の歳を呪ってみたり。

毎年勝手に誕生日がきちゃうから。

歳なんてとりたくないもんだ。


――振られたら奢ってね――

そう言おうかと思ったけど、止めておいた。

非常に虚しくなるだけだから。


でもこうやって真美と話してると気が紛れるのも確か。

一人で家になんかいたら、いろいろ考えちゃいそうで。

それに母親からのプレッシャーも相当だから。


「で、決戦の日はいつにするの?」

真美の言葉に、アンクレットを握った手に力が入った。


「まだ、決めてないけどなるべく早い方がいいかなとも思うけど」

私の頭に過るのはあの時のアイツの顔。


「けど?」

アイスコーヒーをストローで吸い込みながら、私の顔を覗きこむ真美は何だか楽しげ。


「患者さんでさ、目を離せない子がいるみたいで。余計な事言ってる場合でもないのかもとも思うのだよね」

みなみちゃんって言ってた、発作が出た子。

もしかしたらその子だけじゃないかもしれない。

あの看護師さんが言ってた


『必要としている人がいるんです』


そんな時に、私が呼び出していいものなのか。

また出向くっていうのも正直避けたい。

かと言って電話やメールでなんて言いたくなかったりするのだよね。


「梨乃らしい。こんな時くらい自分の事優先させればいいのにって私は思うけど。出来ないのが梨乃なんだよね」

感心したのか、呆れてるのか大きく頷いた真美。


「私らしいのかな」

こんな大事な話だからこそ、アイツが余裕のある時にと思う自分勝手な考えなのかもしれない。

そんないい人じゃないんだよ。


「私が男だったら、絶対梨乃を好きになるのに」

何気にさらっと真美が凄い事言った気がする。


「私だって、真美を好きになると思うよ」

三十路を過ぎた女二人なんとも虚しい会話だった。


今日はやけにカップルが目に入る。

このカップルなんて言い方も時代を感じるのかも。

今はカレカノ? 本当に歳は取りたくないもんだ。


目の前を手を繋いで仲睦まじそうに歩くのを羨ましそうに見えた私だけど、真美は痛烈な一言。


「きっとあの二人は微妙だね。女が男を見る目はハートマークなのに、男の方は他の女に視線がいってる。ありゃ、他にいい女出来たらあっさり切り捨てそうだ」


とても私と同じ人を見ていたとは思えない。


「真美ってシビアだね」

ついて出た言葉に


「いや、これが現実よ」

間髪入れずに真美の険しい一言。


「駄目なんだよね、冷静になっちゃうっていうか、冷めてるっていうか。男が計算してるんじゃないかって引いちゃう自分がいる。理想が高いってのじゃないけど、考えちゃうんだよね」


若くないだけに、ね。

余計な事まで考えちゃうのは私も一緒。


「解る気がする」

言ってて虚しいもんだ。

解りたくないけど、現実はね。


「姉貴にさ、あんたはうーんと年上のバツついてる金持ち親父が合ってるよ。って言われたけど正直それもありなのかな、なんても考えるんだよね。遠くないのかもって」

ふーっと吐き出した真美の吐息は諦めのようなそんな感じ。

でも真美の言葉とは裏腹に私の脳裏に浮かんだのは、真美の後ろをくっついて回る年下の男だったり。

あしらってるように見えるけど、真美も楽しそうに見えるのは気のせい?


「本田は? 真美にアプローチ掛けてるのはあながち冗談ではないような気もするんだけど」

頭に浮かんだ事を口にしただけなのだけど、真美の目が一瞬泳いだのを私は見逃さなかった。


「まさか、本田が本気で私をなんてそんな事あるわけないじゃん。あれは一種のゲーム感覚なんじゃないの? それに私、年下なんて考えた事もないっつうの」

プクッとむくれた頬は中々見れるもんじゃない。

可愛いとこあるじゃん真美も、なんて思ったのは内緒にしておこう。


「確かに、真美に年下なんて想像出来なかったけど、今はそれ相応の歳になったのだから、年下っていっても立派なもんじゃない」

調子にのってしまったものだから……


「梨乃ー。そう言う事言っちゃうんだ」

なんて、冷ややかな視線をビシバシっと浴びてしまった訳でして。


「ほら、無くも無いかなぁ、なんて」

とか直ぐに弱気になっちゃう私。

お酒入った時に言えば良かったと思っても後の祭り。

真美の話は何処へやら、根ほり葉ほりと病院での出来事を言わされてしまった。


よっぽど触れられたくなかったのかも。

またもや、ちらりと頭に浮かんだ本田をこれでもかって睨んでやった。




























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