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良い女?

「真美も真美だよ。あんな奴と一緒の空間にいるだけで気分が悪くなるっていうの」


真美のベットの隣に布団を敷きながら愚痴ってみるけど、鏡の前でドライヤーを掛ける真美には聞こえなかったようで口にした虚しさが倍増だ。

こんちくしょうとばかりに布団カバーを広げると、柔軟剤の香りがふんわりと漂った。

実家暮らしの私は碌に洗濯もしたことがなかったり。

いつきても、綺麗に整頓された部屋。

私とは大違いだ。

鏡越しに見える真美は化粧を落とし少しだけ若く見える。

パンツスーツを着こなして、ヒールで闊歩する真美と同一人物じゃないみたい。

部屋をぐるりと見渡してもオレンジ色を基調としたほんわかする雰囲気。

普段の真美とはちょっとイメージが違うんだよなと来る度に思ったりするのは内緒の話。


「電器消すよ」

真美の言葉と同時に豆電球一つ分の灯りがともる。

その明りはカーテンを鈍く浮き上がらせて、落ち着いた雰囲気に。


「良い感じにポワンとしてる」

真美の柔らかい口調に珍しく二人とも酔っぱらったらんだと小さく笑った。


「私はね、もう少し小川さんと向き合ってみたらいいのにって思ってる。ここで逃げたらきっと逃げ癖治らないから。梨乃は良い女だよ、私が言うんだから間違い……な、いっ……て――」

段々とフェードアウトした声。

もぞっと身体を横にした真美から可愛げのない寝息――基イビキが聞こえてきた。


ガールズトークするってタクシーではしゃいでたのは真美じゃない。

私に何も言わせないで、夢の中へと旅立ってしまったようだ。


「良い女ね……」

自慢じゃないが、その言葉は結構言われる。

でも、かなりの率で女性から。

男の人から言われた事は皆無に等しいんだよね。

しかもこの言葉の後に大抵聞きたくも無い言葉が繋がるのだ。


「良い女なのに、男運無いよね」

と。


学生時代からモテ無い方じゃなかった。

告白はいつも向こうから。

でも、私が好きになり始めた頃浮気が発覚なんて一度や二度じゃきかない。

自分に何が足りないのか本当は解ってるんだ。


可愛げが無いんだ。


でも私は自分を偽った事なんて無かったと思う。

「サバサバしてるところがいいんだよな」

そう言って私の事を解っていたはずの嘗ての恋人は

「もっと甘えて欲しかった」

と去っていった。

私にとったら甘えてたつもりだったけど。


あー真美が寝ちゃったから、思い出したくない過去が次々に浮かんできたじゃない。

半ばとろんとした脳みそで情けない過去を思い出したせいで、涙腺が緩んだのか流れ出た涙が私の顔を横切ってふんわりと優しい香りのする枕に小さな水玉を作ってしまった。


唯一の救いは仕事が楽しいって思える事なんだよね。

でもそんな職場にも今は行きたくないって悲しすぎる。

バーに入る前に実家に電話しようと開いた携帯には、不在着信他数件の未読メール。

差出人は複数の会社仲間。

きっと明日は動物園の珍獣よろしく、好奇な目で見られるのだろうな。

外回りに出掛ける真美についていきたくなる衝動。


こんな思いをするのだから、江川と付き合っていた時内緒にしていたのは正解だったのだろうなぁなんて。

私ったら、また嫌な過去を思い出しちゃったじゃない。

どうして、さっさと寝なかったのだろうと激しく後悔。


真美の微妙なイビキをBGMに私も目を瞑った。


――私だって本当は向き合いたかったよ――


アイツの顔が浮かんできて、またじんわりと涙が浮かんできた。

きっとお調子者のバカと一緒に飲んだせいだ。

真美と高田の会話を聞きたくもないとばかりに進んだアルコールのせい。

そうじゃなかったら、こんな風に涙なんか流さないんだから。

真美に借りたパジャマの裾で涙を拭うと、根性で寝てやるときつく眼を瞑り直した。


翌朝、聞き慣れない目覚ましのベルで目が覚めた私。

ちょうど真美が目覚ましに手を伸ばしているところだった。


「おはよ、ごめん昨日何時の間に眠っちゃったみたいで」

罰が悪そうに呟く真美をみるなんて、なんてレアなんだろう。

ここぞとばかりに

「そうだよ、真美が変なこと言いながら寝ちゃったから、余計なこと思い出しちゃったじゃない」

おはようの挨拶もせずに、ちょっとむくれた顔をしてみた。

でも良く考えたら、行き場の無い私を呑みに連れていってくれて、泊めてまでくれた真美に対して随分と身勝手な言葉だったり。

慌てて真美が口を開く前に

「ごめん、昨日は助かった。こうやって少し落ち着いたのは真美のお陰なのに、私が謝られる筋合いなんてないんだったよ」

と身体を起して頭を下げた。


「んっ」

真美は唇の端をあげながら一つ頷くと


「今日は朝作るの面倒だから、少し早くでて朝スタバでもするか、勿論梨乃の驕りでね」

といつものように笑ってくれた。


まだ家を出るまで時間があるけど、手早く昨日下着と共にコンビニで買ったストッキングに足を通す。

これなら、梨乃にも合いそうと渡された、フレアーのワンピースをハンガー毎手渡され

――ピチピチじゃありませんように――

と心の中で唱えてみたり。

それから、交代で鏡の前に座って、スタバに着くまで昨日の夜の時間を取り戻すかのようにテンションの上がった会話を続けた。

お陰で会社に行くのを渋っていた事を会社のビルを見るまで忘れてしまうほど。

だけど、自動ドアを潜り抜けると否応なしに身構えてしまう訳で。

隣に並んだ真美に背中を叩かれ

「大丈夫だよ、のらりくらりかわせば。忙しさマックスのいつもの表情してれば誰も梨乃に話し掛けたりしないって」

と慰められているのか、けなされているのか解らない言葉を掛けてくれたり。


「うん、頑張ってみる」

気合を入れてそう言った矢先、エレベーターホールで後ろから声が。


「オッス、お前結婚するんだってな、まさかお前を貰ってくれる奇特な奴がいたとは」

満面の笑みを浮かべる同期の吉川がいた。


おいおい、何処まで噂が広がってるんだよ。

入れたはずの気合が急にしぼんでいく。


大丈夫じゃないじゃんね。


真美の言葉が頭の片隅からぼんやり出てきた。

『私やっぱりお見合いしなくちゃか?』

心の中で呟いたはずの言葉に返事があった。


「だから、ちゃんと向き合ってみたらって言ってるのに。どう転ぶか解らないでしょ? それよりいっその事高田と付き合ってみるのもいいかもよ」


耳元から悪魔のような真美の囁きが。


「考える余地も無いですから」

勿論それは、高田の事であって。

勇気を振り絞って思いきって出掛けて自分から終わりにしようと告げたアイツになんて言って向き合うんだか。

どっちも出来ないって。

どちらにしても、勘弁だな。

背の高い吉川に頭の上から覗きこまれるように、質問が飛んでくる。


「ノーコメント」

振り返りもせずに返事をしたけど


「おっ仙崎でも照れるんだ」

と妄想力豊かな吉川の呟き。

その声が中途半端に大きくて、見知った顔がちらほらいるその場所でそれを言うか。


好奇な目で晒されているようで堪らなく恥ずかしかった。


















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