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コーヒーブレイク

課長の登場を皮切りに、今まで殺気立っていたフロアーが少しだけ緩んだようだ。

みんな一斉に手を休め、伸びをしながらコーヒーの入っているコーヒーサーバーに向かっていく。


「仙崎、コーヒー入れてきてやるよ、砂糖とミルクはどうする?」

原田がついでにと私のコーヒーカップを持ち上げた。


「サンキュ、両方一つずつでお願い」

流石原田、気が効くね、と背中を見送る。

そう言えば、原田って遠距離の彼女がいるって言ってなかったっけ?

少し前まではのろけ話ししてたけど、最近聞いてないような。

ケンカでもしたのだろうか……


軽くトリップしていたら、江川の声がまた響いた。


「そうだ、いいものあるんだ、疲れた頭に甘いの効くぞ。一人一粒だけだけどな」

そう言って手に掲げたのは、あのご当地キャラメルだ。


『おいおい、ここで配って大丈夫かよ』

と口は出さずに突っ込んでみる。

江川は私に視線を合わせて、軽く笑った。

私の顔が微妙に引きつった。

これってバレたら私に飛び火しないかい?

自分の事で手いっぱいでゴタゴタは勘弁なのに。


何にも知らないスタッフは、回ってきたキャラメルを礼を言って口に放りこんでいく。

もう知らないんだから。

そうは言いつつも自分も一緒になって口に入れた。

マンゴー味のキャラメルは初めて食べたけど、中々だった。

江川を見るとしてりやったりの顔。

腹黒というのはこう言う奴を言うのだろう。

私の顔を見てニヤリと笑うと


「そうそう、今日帰った奴の分は無いから、内緒にしてくれよ。恨まれるのは怖いからな」

だなんて。

恐ろしい奴だと思った、でもこういうとこが出世に繋がるのだろうな、と。


おっといけない、仕事仕事。

舌の上でじわりと溶けてくるキャラメルは、段々と江川との共犯者になって行くようで片瀬のキッとした顔が浮かんできてぎょっとした。


コーヒーブレイクが功を奏したのか、その後一気に進んだ作業。

三通りのプランが出来あがって後は、部長の判断待ちとなった。


「お疲れ」

みんな口々にそう言うと、フロアーから一人また一人と消えって行った。

大変だけど、こう言う時は仕事の充実感も得られる時なのよね。

終電の時間に間に合うなんてきっとみんなも思っていなかったはず。

まだ一人机に向かって、資料と睨めっこしている課長のお陰なのかもしれない。

あのコーヒーとキャラメルの登場で、雰囲気ガラッと変わったのだから。


上に立つ人で随分と違うのだろうな。

少し前までは、一緒のフロアーに居る事が嫌で仕方なかったはずなのに。

素直に課長の、凄さを認められるこんな日が再びやってくるなんて思いもしなかった。


帰りを待ってくれている人達のいるスタッフの帰り支度の早い事。

軽いトリップに入っているうちに、もうちらほらしかフロアーにいない。

課長は未だ机と仲良しだ。

ふとそんな姿を見ていたら、視線を感じたのか課長が顔を上げた。

咄嗟に目を逸らそうと思ったが出遅れて、ばっちりと目が合ってしまう。

気まずいかも思ったのと同時に


「仙崎は帰らないのか?」

と。案に待っている相手がいないのか? と言われているようでちょっとムッとした。

自分の考えすぎなのかもしれないけれど。

私はさっきから気になっていたゴミ箱を片手に


「これ、始末してからにしようと思って。明日の朝大騒ぎされたら、とんだとばっちり受けそうで嫌なんですよ」

とみんなが捨てたキャラメルの紙屑を示唆してみせた。


「そんな事――」


課長はそう言うが、あの年頃の子を怒らすと飛んでもないんだから。

椅子から立ち上がり、上から目線で課長を見やると端から一つずつゴミ箱の中身を集めて纏めた。


証拠隠滅。

本当に考えて貰いたいもんだよ。

これを給湯室の隅に置いておけば、明日の朝来る清掃の人が捨ててくれるはず。

両手をパンパンと叩いて、任務完了と自分の荷物を纏めた。


「では、お先に失礼します」

こんな時間、お先も何もないけれどまだ数人残っているスタッフにも挨拶をしてフロアーを見渡すと、最後に目があった課長が


「サンキュウな、気をつけて帰れよ」

と片手をあげた。


終電の時間まで後30分。

十分間に合う時間だけど、何となく速足で駅と向かった。

駅に着き電車を待つ少しの時間、携帯を開いて着信を確認すると一件のメール表示。


――遅いからもう寝るよ、悪いけど夕飯食べてきて――


オーマイガッーット。

今からですか?


こんな時間に外食なんて。

仕方無しに、コンビニでカップラーメンでも買いますか。

何だかどっと疲れが出た。


それより何より、明日だ。

明日こそ、言ってやらなくちゃ。


夕飯が侘しいだけに、明日の朝はがっつり食べて、奴に挑まなくては。

そんな事を思っていたせいで、危うく目の前に到着した最終電車に乗り遅れるとこだった。


こんなので大丈夫なのだろうか……













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