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いらつきの理由

フロアーの柱に掛けられた時計は十時を回っていた。

ブラインドの隙間からちらりと見える窓の向こうにはきらめくネオン。

この時間に会社に居る事は珍しくなんか無い事が当たり前になっているってどうなのよ。


机の上にはやらなければいけない資料がごっそりあって、時計を見る暇があったら手を動かさなくちゃいけないのだけど。


なんでこうタイミングが悪いんだろう。

やるべき仕事は片付き、明日の予定を確認して、意を決して真美にメールを打った。

今日は比較的早くに仕事が片付いたから、直帰コースだ。と真美から連絡があったのは二時間前。

この前、得意先の矢島さんに教えて貰った小料理屋が頭に浮かび、そこで真美に私の決意を聞いて貰う約束をしたばかりだというのに。

真美を待たす事になるけれど、行けない時間じゃなかったはずなのに。

部長の鶴のひと声で、プレゼン資料の練り直し、なんて事になってしまったのも同時刻。

今は、私の両隣もその前も、一心不乱に資料と睨めっこしている。

課長も課長だよ、解りましたなんて直ぐに返事しちゃうなんて。

この資料を作り上げるのに、何時間サービス残業したと思ってるんだ。


秘策を作れって。そんな言葉残して去っていく部長に爽やかな挨拶なんてしたくないっつうのよ。

去りゆく部長の背中に目には見えないパンチを送ったのは私だけではないはずだ。

それより何よりね、頭の天辺から「お疲れ様ですー」って声を出す新人達が帰ってからそれを言うのもムカつく。

どうせ、お局には予定が無いとでも思ってるんだろう。

言わせて貰うけどね、私が新人の頃は、先輩を差し置いて定時に上がろうだなんて事思いつきもしなかったわよ。

定時だよ、定時。

そんな時間が存在していた時なんてあっただろうか。

今回は新人組が帰った後の出来事なので、新人の事をそう思うのは八つ当たりだと解っているけど。

でも先輩が残っているのに堂々とタイムカードを定時で押す子達に軽い殺意も感じたり。

ちょっとは察しろよ、とね。


はぁあ。


いつのも倍イライラするように思える。

だけどそれは、定時に帰っていく新人の事せいでもプレゼン資料の練り直しのせいじゃないって自覚していた。

折角、真美に胸の内を打ち明けて、綺麗すっぱり奴との関係を解消しようと決意した矢先の事だったから。

このモヤモヤを解決しないと私はどの方向にも進めないって解ったから。

自分勝手なイライラだって自覚しているから、嫌になる。


カタカタとキーボードを叩く音とプリントアウトする音、資料の捲る音が、やけに強調されているような気がする。

当たり前のように空っぽになった斜め向かいの片瀬の席は、両サイドから資料置き場となっていて机の表面が覆われている。

化粧や媚を覚える前に、こういう時、何らかのフォローが出来れば、少しは江川だって見直すもんだと思うけど。

愚痴っても仕方のない事だけど、私も真美も、吉永だって課長だって新人の頃はあったんだ。

後輩が入ってから突然仕事が出来るようになんかなるわけないのに。

何で解らないかね。

あーこんな事考えるのも不毛すぎる。

今は指と頭、動かさなくちゃ家に着くの明日になっちゃうじゃん。

そうは思うけど、私の指と頭は思うように働いてくれなくて。

雑念を振り払うかのように大きく頭を左右に振って大きく深呼吸。

両手を何度か握ったり開いたりして、自分に渇を入れた。

今やるべきことはこっちなのよと言い聞かせながら。


そんな殺気づいたフロアーに鈍い音が響いた。

だんまりを決めていた私の携帯が不規則に振動を始めたから――

みんなの視線が一気に私に向いてちょっとびびった。

『逃げないって』笑いながらおどけて見せたものの。


目の端にちらりと入った『俺様』と表示された携帯の小窓。

見た瞬間に余裕が無くなり、キーボードを叩く指が固まって携帯を凝視している私がいた。


待ちわびた連絡だったはずだけど、はずなのだけど……








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