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飴が欲しいのは?

元カレであり上司の江川と食事して数日経ったある日。


パソコンを凝視していた私にふいに聞こえたある会話。


「課長、飴持ってませんか? 私喉がいがらっぽくて。ミント味とか持ってませんか?」

この声は彼女のもので、なんでわざわざ上司である課長に飴をせがむのか、正直ピンとこなかった。

「ごめん、今日は持ってないんだ」

顔を上げずとしても解る、きっと爽やかな笑顔を張り付けているのだろうな、と。

この月末とあって、このフロアーは殆どの人が出払っていた。

シンと静まり返ったフロアーで彼女の声はさほど大きな声でなくとも響いていた。


私は助け舟を出そうと鞄に手を入れ、ミント味のキャンディを取りだした。


「片瀬さん、良かったらどうぞ」

片手にキャンディを持って左右に振ると、思いもしない言葉が返ってきた。


「結構です、私は江川課長がくれた飴がいいんです」と。


キッとした目は私に向けられたもので、まるで宣戦布告をされているようだった。

私は持ち上げた手を固まらせ、顔の筋肉が硬直したみたいだった。

そして、思い浮かんだのは先日の場面。

私の机にポンと置かれたミント味のキャンディ。

彼女が江川を狙っていたのは解っていたはずなのに。

きっとあれを見ていたに違いない。

あの眼は嫉妬そのものだ。


横目で、江川を見ると、少しだけ口の端を上げ、困ったような仕草。

だけどそれは一瞬の事で、奴は机の引き出しを開けると

「悪かったな、ミント味は無いけど、これでどうだ? 先月の出張で買ってきたご当地キャラメルだぞ、俺とした事が、課の人数分に足りなくてどうしようかと思ってたんだ。お前が食べてくれるとありがたいのだけど――」

そう言って、彼女の手にキャラメルの箱を置いた。

ポカンと見上げる彼女に、更に一言、きっと私に聞こえるようにだと思う。


「お前にしかやってないのがバレたら、困るから、内緒にしてくれるか?」

そう言って彼女の頭にポンと手を置くと、怪しいまでの必殺スマイルだ。

見る見る間に彼女の顔が赤らんでいく。

流石だ。


私もあれでやられた口なだけに、客観的に見ても破壊力あるよな、なんて思ってしまう。

頭にポンと手を載せるのは、あいつの癖だ。

歳の離れた妹さんにしていたのが、癖になったと言っていた。

勘違いするから、止めた方がいいよ、と何度も警告してたんだけど……この場合は態となのだろうな。

長い間一緒にいた私には解る気がする。それは私へのフォローのつもりらしいと。


でもね、それで益々勘違いされちゃったら、元も子もないだろうに。


小さくため息をついて、仕事を再開だ。

きっと彼女は仕事にならんだろうから。

まっ、いつもの事なのだけどね。


パソコンのマウスの前には、全く様の無さ無い私の携帯。

本当に音沙汰なしなのだ。

このまま自然消滅でも狙っているのだろうか。

自然消滅なんて、付き合ってる人が使う言葉なのか?

この場合、契約破棄? それも何か違うと思う。


明日は土曜で会社が休みだ。

実家にいる恐怖がまたやってくる。

母の浮かれ調子に付き合うのは疲れるだけに、早く予定を入れたいとこだけど、何となく携帯が気になって未だ自分から予定を入れずにいるだなんて。

こんな時誰かに誘われたら、迷う事なくそれに乗るんだけどな。


駄目だな、私って。

受け身なのが身に沁みてるみたいだ。

こんなのだから、奴にもつけこまれるんだよな。

解っているけど、どうにもできないのは、怖いからだって自覚しているだけに、本当にもう、嫌になる。

江川の言葉じゃないけど、ため息星人になりそうだよ。


真美今日空いてるかな?

朝から出たままの真美の席を見つめ、今日こそゆっくり話しを聞いて貰おうかと覚悟を決めたのだった。


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