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バーチャル恋愛?

「それで? 昼休みに帰ってこいって言った対価はあるんでしょうね?」


会社近くの喫茶店で真美はスパゲッティをフォークに巻きつけながら、怪しい視線を私に送ってる。


「対価って。もう私何が何だか分からなくなってきた。今起こっているのが現実なのか、夢なのか自分でも良く解らないんだよ」

何をどうやって話せばいいのかさえ解らない。

でもこのもやもやを真美に聞いて貰いたかったのだ。


私は、サラダのレタスをフォークで何度も突きながら、昨日と一昨日の事の顛末を、掻い摘んで話してみた。


「梨乃らしくないって言うか梨乃らしいって言うか」

真美はそれだけ言うと、再びスパゲッティを食べ始めた。


「真美ぃ」

言って少しはすっきりしたけど、何か言って貰いたいのもある。大好きなはずのグラタンでさえ味がしないほど私はテンパっているっていうのに。


「梨乃はさ、口で言うほど嫌じゃないんじゃない? 幸い今は誰がいるってわけでもないんだから、思いっきりバーチャル恋愛楽しんでみればいいじゃない。嘘から出た真って言うしね」


「バーチャル恋愛?」

最近流行りのゲームみたいなって事?


「そっバーチャル恋愛。そう言えばさ、梨乃って男運悪いよね。さっきの話聞いて思い出しちゃったよ、あんたの元カレ。名前忘れたけど、前の前のカレだっけ? クリスマスに別れた奴」


真美の話が飛ぶのは毎度の事だけど、それは思いだして欲しくなかった。私の中で抹殺した奴の事なんか。


「何であいつの事なんて思い出しちゃうのよ。勘弁して」

忘れていたあの日の事が浮かんできて、目の前のトマトに八つ当たり。グサッとフォークで突いて真っ二つに裂いてやった。


「何だか、あいつと真反対だなって。って事は梨乃と合うのかもよ?」


真美ってば人ごとだと思って。

「合いませんから」


敢えて、幸太との事を話さないのが真美なのだ。

元彼が同じ会社にいるというのは実に厄介な事でして。

一部始終を知っているからこそ、その前の元の元の彼の話が出てくるのかもしれないけれど。

どっちにしたって、男運が無いのは変わらない。


「だけどさ」

ちょっと声が低くなった真美はそこで言葉を一旦止めて私の顔を見ている。正直目を逸らしたくなるような鋭い眼ってやつだ。怯みながらも


「だけど?」

と聞き返して真美の続きを促した。


「言ってる事は、嫌そうなんだけど。梨乃の顔はそうは言ってないみたいに見えたけど、それは気のせいなのかしら」


そうは言ってない顔ってどんなのよ。

呆気にとられてる私の事を見捨てるように、真美はフォークを置いて、紙ナプキンで口を拭い立ち上がってしまった。


「ちょっと考えれば、解るかもよ。じゃあ、私、次行かなくちゃだから先にいくね。あーどうだろ、あんまり考えない方がいいって事もあるか」


意味深な言葉と、千円札を残し真美は行ってしまった。


私のグラタン皿には未だ半分も残っているっていうのに。

小さい頃から食べ物は粗末にしちゃいけないって入れているだけに、食欲が無くても食べなくちゃだよね。一人寂しく、好物なはずのグラタンをつついた。


休んだ気もしなかった昼休みが終わり、デスクで一息つく。

いつもより、ちょっとだけ濃いめのインスタントコーヒー。

ちょっとは、すっきりするような、気休めだけどね。


そんな些細な事を気がつく奴がここにいる事を忘れていた。


「珍しいな、お前がミルク入れないなんて。悩み事か? なんだったら聞いてやるけど? 上司の気遣いってので」


電源を入れたけど、時間が立って省エネモードで暗くなったパソコン画面には、私の上から覗きこんでいる元カレ上司の変な笑みが映っていた。

その昔、濃すぎるコーヒーを飲み過ぎて、胃を悪くしたのはあんたのせいだと知っているでしょ。

ここは知らんぷりをして欲しいっていうの。


振り返りもせず、マウスを動かすと、パソコンの画面には集計途中のグラフが出てきた。


「御心配なく。至って元気ですから」


「あんまり思い詰めるなよ。食欲減って倒れられたら困るのは俺だからな」


言い得て妙だ。

あの時もこうやって、自覚していたのだろうか。

仕事こそ休まなかったけど、限界寸前だった私の事に気がついていたのだろうか。

会社では無理に笑って、声出して。休みの日にはベットから起き上れなかった私の事。


「そんなにヤワじゃないですから」

どうも強がる癖は治らない。


「それなら、いいけど」


悔しいけれど、この声は嫌いになれないとこが辛いとこだ。

眼の端っこに席についたのが映ると少しほっとした。

正直、未練が全くないっていったら嘘になるから。

忘れようと蓋をしているだけ。

あんまり近づいて欲しくないと思うのが本心なのだから。


ほっとしたのも束の間。

また厄介なのが私の隣にやってきた。


「先輩って、課長と仲良いですよね。今もすっごく良い感じに見えましたけど、一体何を話してたんですか?」


口元は笑っているけど、これは明らかに嫉妬の眼だね。

しかし、何をどう見れば『すっごく良い感じ』に見えるのだろうか。


「私が入社した時に同じグループで一緒に組んだのが課長だったからじゃない? 仲が良いんじゃなくて、いつまでも先輩ぶりたいのよ。ただそれだけだって」


一応邪険にするのもどうかと当たり障りのない事を言ってみたつもりだけど、まだ探るような眼をしたままの片瀬は


「そうかな」

と小首を傾げて見せた。流石二十歳そこそこの子がやると、威力はあるね。私に見せてもしょうがないんじゃない? それともあれか、奴の視界に入る事を計算しているのか? 勘ぐり過ぎかもしれないけれどね。とにかく変な疑いを持たれたままじゃと不吉な予感が走った私は


「そうだよ、それに課長、私と話している時よりも、片瀬さんと話している時の方がよっぽど良い顔してると思うけどな」


昨日、あいつに言われたけれど、私も片瀬の真似をして小首を傾げてみせた。

片瀬の視線は私ではなく、とうに課長に向かっていたらしい。

見られてなくて正解だったか? 


片瀬は私の言葉に気を良くしたみたいで

「本当ですか?」と嬉しそうな顔して、私の前から消えていった。

厄介だと思ったけれど、片瀬のお陰で少し気が楽になったかも。


さてと、本当に仕事しなくちゃ。

今日も残業は嫌だからね。

さっきよりも数段苦くなったコーヒーを口にして、給湯室へと向かった。

やっぱりミルクは入れた方がいいのかも。




















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