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みんな知らない俺達の世界  作者: 御影紅葉
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第1章 『どんだけストレスが溜まってんだよ・・・』

・・・という夢を見たらしい。


「今の俺にはどんだけストレスが溜まってんだよ・・・。」


朝8時、天気予報によると都内は快晴だと言う。渋谷には人が溢れ、新宿にも人が溢れ、押し合い、ぶつかり合い・・・。そんな二十三区とは遠く離れた都内とは思えない街。その一角にあるアパートに一人暮らしの男子高校生。目にかかる長い黒髪を寝癖でうねらせ、くっきりとした二重の瞳を細めたパジャマ姿の青年は、ぼそりと呟いた。


「寝てる時くらいは休ませてくれって・・・。」


彼の名前は、朔野透希さくのとうき。この春から高校生になったばかりだ。一人暮らしがしたい!と、親の反対を押し切り、やっとの思いで志望校へ合格した朔野は、入学してから初めての休日を迎えていた。が、彼の表情は全く晴れ晴れとしていない。


「朝5時起きで電車通学、帰ってからは勉強しっぱなし。高校生ってのはこれが普通なんだろうけど、俺にとっては辛い寝たい帰りたい、の豪華三本立てなんだけど・・・。まぁ、部活入ってないのが唯一の救いだよなぁ。」


朔野はもそもそとベッドから立ち上がり、ふらふらとキッチンへ向かった。その途中で勉強机に置いてあったピンを使い、目にかかっている前髪を上に上げると、長い睫毛に凛とした瞳が姿を現した。形の整った唇は少し乾いてはいるが、筋の通った鼻に、すらりと長い脚。見るからに端正な顔立ちをしているが、朔野本人は全くそう思っていないようだ。


「うわ、冷蔵庫の中なんもねぇし。」


朔野は深くため息をついた。食べなくても過ごせなくはないが、流石に腹は減っている。それに、朔野にとってこの街はまだ未知だ。一人暮らしを初めて一週間、学校も始まったばかり。だが、せめて家の周りくらいは知っておきたい。せっかくの休日だ、外出しても充分楽しめるだろう。


「快晴、だしな。ちょっと出かけてみるか。」


急ぐ必要の無い事を承知している朔野は、マイペースに支度を始める。パジャマを脱いでシンプルなシャツに腕を通し、黒のパンツを履いて、中身を確認した財布とスマホだけポケットにしまった。危うく忘れる所だったヘアピンを外し、無造作に髪の毛を整えると、朔野は玄関へ向かった。



朔野はスマホのマップを見ながら、やや軽い足取りで商店街へ向かっていた。穏やかな春の陽気に包まれた、静かな街『高良町たからちょう』。都内でありながらも、高いビルや大きな道路も多くない。その代わり緑が多く、疲れを一切感じさせない都会である。


朔野のように一人暮らしを始める者は、皆最初に希望するのが都内中心部なのだろうが、朔野は実家が既に中心部に位置していたため、あえて遠く離れた高良町を選んだのであった。そして、朔野が高良町を選んだ何よりも大きな理由がある。それは、高良町という名前だった。




「こうら?・・・いや、たからって読むのか・・・。へぇ、そんな名前の街が東京にあったんだ。ねぇお父さん、俺、一人暮らしするならここがいいよ。」




朔野は周りを見渡しながら、約一年前に父を説得していたのを思い出す。父は「お前の宝になるといいな。」と、笑顔で送り出してくれたのだが、実際朔野が考えていたのは似ても似つかないものだった。


(あの場面で、引っ越した場所が宝って読める町だった、とか卒業文集書きやすそうでいいじゃねぇか!なんて考えてるとは思わないよな・・・)


とんだクズ野郎だった。






マップの指示通りに歩いて行くと、賑わった商店街が見えてきた。雑貨屋にCDショップに洋服屋・・・入り口だけで人の量が半端じゃない。しかもマップを見る限り、かなり長い商店街の様だ。これは案外楽しめるかもしれない、と朔野は口元を緩ませた。


スマホをポケットにしまい、商店街へ足を踏み入れて行く。勿論知っている店も無いし、知っている人もいない。何にも知られていない事が、こんなにも開放感のある事だったとは、朔野は知らなかった。


「とりあえず夕飯買うか。」


並ぶショーケースや、すれ違う人々に興味の視線をぶつけながら、朔野は大型スーパーマーケットを目指して歩いて行った。





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