パラドックス③
<フロンティア号>は散光星雲の近くを進む。
自由貿易船<フロンティア号>を駆るチーム<スペースマン>の仕事は「運び屋」。
距離と物資の重量・サイズで値段は異なるが、大きく松竹梅にグレードは分かれる。竹は通常運搬、梅は低額だが遅め、そして松は(一応)合法の範囲内で超特急で運搬。麻薬と兵器は運ばない。開業して一年だが、銀河運び屋組合のお客様満足度は第44位・・微妙。
美理はセーラー服に着替えてキッチンへ。
シャーロットからエプロンを渡される。
「働かざる者食うべからず。とにかく何かできる事をして。料理でも掃除でも何でもいい」
「はい」
美理は腕まくりをして洗い物をする。と言っても食洗器に入れるだけだが。
「シャーロットさん。その・・男の人ばかりで・・やりづらくありませんか?」
「あら。ピンニョも女の子よ。私も女子校出身だけど、すぐに慣れるわ」
「はい」
コクピット。明とマーチンが当番でいた。
「お掃除しまーす」美理が入室。
自走式自動掃除機のスイッチを入れ、動かす。美理ははたきでポンポン。
「あ、はたきはやめ・・」明が注意するが、
「え?」遅かった。
警報。
続いて、ズドドドド・・・ 防御レーザーが発射される。
「きゃー!」
「近くに船がいなくてよかった。安全装置を切っていたマーチンが悪い」
啓作に怒られ、美理はしゅんとしている。見かねてシャーロットが話しかける。
「そうだ。この服、スペーススーツ。デザインした人、誰だか分かる?」
小柄なヨキからデブのマーチンまで、同じデザインのスペーススーツを着用している。
「え?既製品じゃないんですか?」
「特注よ。デザイナーはあなたのお母さん」
「え?」
美理が7歳の時に亡くなった母。
「お母さんのスケッチを啓作が見つけて、チームのユニフォームに採用したの。あ、ラインの色は各人の好きな色よ。でも、ごめんね。あなたの分はまだ無いの」
「いいえ・・」
美理の目が潤む。思いもよらぬ母との繋がりがうれしかった。
この船のクルーは仕事仲間というよりも、家族に近い。そう美理は感じていた。
<フロンティア号>は“ブラカ星”上空の宇宙ステーションに到着した。
半透明のドッキングチューブで連結。警戒しながら積荷を降ろす。
積荷はココニアルデメロン。賞味期間が極端に短い高級フルーツだ。衝撃にも弱い。
係員が品質チェックし、親指立ててバッチグーのサイン。ヨキと会話する。
「もうかりまっか?」
「ぼちぼちでんな」
美理も手伝おうとするが、啓作が止める。
「ちょっと待て。何でそんな恰好なんだ?」セーラー服。
「え?だって校則で・・」<外出時は制服を着用する事>
「目立つから着替えて来い」
美理は私服に着替えて手伝う。ちょっと不機嫌。白いブラウスにジーパン。清々しい。
「お。バイトかい?かわいいねえ」係員のおっちゃんが言う。
美理はペコリと礼をする。
作業しながらそれを見ているボッケンとマーチン。
「いい子だね」 「(ぼそっと)兄貴とえらい違いだ」
明はなぜかちょっと嬉しい。その時、声が。
「お願いします!48時間内にスピカに納品しないと、うちの会社は潰れちゃうんです!」
スーツを着た会社員の男は土下座して頼み込む。
啓作は困った顔。
「だから今は無理だ」
「そこを何とか。前金で払います!お願いします!」
アタッシュケースに現金がズラー。ヨキが息をのむ。
「・・積み荷の安全は保障出来ない。それでもいいか?」
「明!」
飛び込みの仕事を受けた<フロンティア号>はステーションを離れる。
先程の会社員の男が何者かに金を貰っていた。
金を数えている所を撃たれ、倒れる。
<フロンティア号>は天の川をバックに航行。
長距離長時間の仕事の場合、戦闘や難所以外は2~3班に分かれての当番制をとっている。ちなみに時差や重力差といった環境差が少なくなるように、可能な場合は航行中に次の目的地の環境に近い状態に船内環境を徐々に変化させていた。
コクピット。
当番は明とヨキ。それぞれ主操縦席・レーダー席に座っている。
そして“敵“は<パラドックス>や自然の他にもいた。
「やっぱりいたいた」
鼠捕り。宇宙警察だ。<銀河パトロール>がスピード違反を取り締まっている。
<フロンティア号>はその側を通過。
「・・もういいな。よっしゃ、飛ばすぞ!」
青白い航跡を残し加速する。
「おまたせしました~」
美理が食事を持って来る。ブラカ星で購入した私服を着ている。Tシャツにジーパンとラフな格好。メニューはごはんと味噌汁と焼き魚の純和風定食。注意しながらお盆を置く。
「お~うまそ~」
ふたりはがっつく。
「!」
明の目から涙が。気付いた美理が驚く。
「お口に合わなかったですか?」
ヨキは気にせず食べ続けている。
「あれ?いや・・何か懐かしい味で。お味噌汁かあ」
「よくご存知ですね。古い地球の料理で父が好きだったの」
「食べた事あったっけ?俺?」味噌汁を飲む。
時々こんな事がある。知らないはずの知識が出て来る。後ろでヨキがご馳走様。
「あの・・私はいつまで乗っていればいいのですか?」
「グレイから連絡が来るまで・かな」
「学校、いえ友達と話をさせて。心配していると思うの」瞳うるうる。
「・・・」明とヨキは顔を見合わせる。
「お願い」
メインモニターに麗子の姿。
モニター自体がカメラ・マイク・スピーカーになっている。
「かわいい♡」とヨキ。
事実麗子は同性の美理が見ても美人だ。
「寮で同室の山岡麗子さん。こちらは・・」
『ごきげんよう。・・ちょっと美理!あんた男と駆け落ちした事になってるよ』
「え~!」
『どこにいるの?』
麗子は明に気づく。『え?ええ~?うそ?』
「ご、誤解してるでしょ?こ、これには深い訳が・・法事って事にしておいてくれる?」
「重力震キャッチ!多数ワープアウトして来る!」ヨキが叫ぶ。
警報が船内に響く。通信は中断。
宇宙船群がワープアウトする。巡洋艦クラス1隻・駆逐艦クラス3隻。