パラドックス①
第2章 パラドックス
ルリウス星より上昇してくる<フロンティア号>。
そのコクピット。レーダー席のボッケンの声が響く。
「レーダーに反応。前方に宇宙船。巡洋艦クラス1、小型機多数。接近中」
明はマーチンと交代し、主操縦席へ。操縦桿を握る。元の席でも操縦に問題ないが、この席の方がしっくりくる。
シャーロットは長い金髪を後ろで束ね、忙しく計器を操作している。
コクピットの前面には透明な窓(自動的に明度を調節でき、強度は他の部位と変わらない)があり、直接外を見ることが出来る。モニターにして情報を投影する事も可能だ。窓の上には巨大なメインモニターがあり、今は前方の敵艦が拡大投影されていた。
「待って。敵艦は<地球連邦>の正式巡洋艦と同型艦、いえ正式な軍艦よ。識別信号も出てる」
地球連邦艦の特徴は”長い砲身と旋回する砲塔“を備えている事。これは宇宙船以前の船舶時代からの伝統らしい。<フロンティア号>のプロトン砲も同じだ。
「そういや、お前らがルリウス星でやっつけたパワードスーツも地球連邦の正規軍用だったぜ」
そのマーチンの言葉は「敵艦発砲」というボッケンの声でかき消された。同時に、ビーム通過。
明は前を向いたまま。操縦桿はそのまま。当たらないと分かっていたのか。
距離がある上に、こちらは星を背にしていて撃っても届かないので反撃はしない。
「軍が相手なんて、やばいんじゃない?」ヨキがビビる。
「正当防衛だ」明が答える。
本物の軍だとしても停船命令なしのいきなりの発砲だ。非は向こうにある。
敵戦闘機編隊が襲来。
<フロンティア号>は避けつつ、両舷にある防御レーザーを連射。啓作が担当だ。
ホーミング(自動追尾能力)があり、敵機を追尾。
命中。敵戦闘機が爆発四散する。
動揺する美理。
「安心しろ。こいつは無人機だ」啓作がなだめる。
敵巡洋艦が接近。主砲が<フロンティア号>に標準。発砲。
ビームが来る。
難なく避ける。元々当てる気はないようだ。
「ミサイルは使うなよ。もったいないから」経理も担当のマーチン。セコい。
副戦闘席のヨキはプロトン砲を担当。この席はコクピットのほぼ中央にあり、天井から潜望鏡の様な操作盤が下りている。そのターゲットスコープに敵艦を捉える。
「射程距離に入った。プロトン砲・・」
「ワーププログラミング完了」シャーロットの声が響く。
「え?ワープ?」美理はキラキラと目を輝かせる。
「ワープ!」明が叫ぶ。
加速。Gがかかる。
<フロンティア号>は超空間へ突入、消失。
「わあ」
美理にとって初めてのワープ体験!感動。
ワープアウト。
<フロンティア号>は70光年先の通常宇宙空間に出た。
「追手の反応なし」
「美理ちゃん、大丈夫?」シャーロットが尋ねる。多分“ワープ酔い”の事だろう。
「はい。大丈夫です」
「まずは自己紹介といこうか」明は咳払いして続ける。
「リーダーの弓月明。元レーサーで、今は大抵ここ(主操縦席)にいます」
「ボッケンです。シェプーラ星出身です。修行のため宇宙に出ました。主にレーダー担当」
「ボクはピンニョ。元実験生物だけど、明に助けられたの。通信担当」
「おいらはヨキ。ミルキン星から来ました。元ベムハンター。よろしく。何でもこなすよ」
「マーチンです。ブウ星出身。メカニックの事ならまかせて」
「食いもんもだろ?」ヨキが茶化す。
「シャーロット=クィーンです。地球出身。コンピュータープログラム担当よ」
「お父さんが<地球連邦>の銀河中央大使」またヨキがチャチャ入れ。
「父は関係ない」 「すみません」怒られた。
「流啓作。医者であり、サブリーダーであり、美理の兄だ。副操縦兼戦闘担当」
「・・流美理です。兄がお世話になっております。真理之花女学園の2年1組17番です。よろしくお願いいたします」
「へえ~名門じゃん」 「かわいい♡」 えらく感激するマーチンとヨキ。
クルーをサポートするコンピューターはメインの”NATU”の他、サブ兼航路計算用の“Pちゃん”、医療用の”J”がある。
「兄さんがリーダーじゃないんだ」
「俺は勝負で負けたの」
「へえ」
意外だった。兄が勝負事で負けた話は聞いた事がなかった。
「知り合いにグレイっていう自称“銀河一の情報屋”がいて、お前を狙う連中がいるって教えてくれたんだ」
「誰なの?さっきの人達」
「星間犯罪結社<パラドックス>・・強盗・殺人・密輸・麻薬・テロまで、あらゆる犯罪を行う悪の秘密結社だ」
「なぜ私を?」
「それはグレイにも分からないらしい」
「・・・あの、まだお礼を言っていませんでした。助けていただいて、ありがとうございました」礼。
明はちょっと照れる。マーチンとヨキは感動している。
啓作が口を開く。
「仕事に戻るぞ!今の積み荷を降ろしたら、<パラドックス>に備えて全てキャンセルだ」
「・・・」
美理はすまない気持ちでいっぱいだった。
兄は自分の学費のために働いている(と彼女は思い込んでいる)。その仕事を妨げてしまった。でも兄がなぜ医師を辞めてまで、収入の少ない“運び屋”をしているのかは分からない。
方向転換しエンジン噴射。<フロンティア号>は宇宙の彼方へ消える。




