スはスペースマンのス④
再び公園。
<パラドックス>のパワードスーツ隊が散開する。
パワードスーツとは、機械の力で人の能力を何倍にも強化した強化服の事。元来建築や介護の分野で培われた技術だが、それを兵器に転用したものが、いま明たちに迫りつつある軍用パワードスーツ(装甲強化服)である。
頭部は剣道やフェンシングの面を思わせる半球状のバイザー、左肩にロケットランチャー、腰部にビームマシンガンを装備している。身の丈は3mもないが、見た目はそれ以上の威圧感がある。
「げ」困惑するピンニョ。
「拉致が目的なら重火器は使えない。上からサポートしてくれ」
「了解」
ピンニョは空へ。飛行中かき消すように見えなくなる。
「消えた」美理が驚く。
「光学迷彩だよ」
「高額明細?・・あ、光学迷彩か」
ピンニョにはカメレオンよりもステルス能力の高い生物のDNAが組み込まれている。
明は左右を見る。どちらにも林。位置を確認する。腕時計を触る。
その間にもパワードスーツは花壇のパンジーを踏みつけ、二人に迫る。
『降伏しろ。命だけは助けてやる』
パワードスーツ隊リーダーの声が響く。
明の腕時計に上空のピンニョから通信が入る。近距離なら繋がるようだ。
『三手に分かれた。正面から2体、1体は離れて待機、残り2体は左から後ろに回り込もうとしている』
「サンキュー」
明は右手に銃を持ったまま両手を上げつつ、隣の美理に辛うじて聞こえる声で命令した。
「目をつぶれ!」
美理は言われた通り目を閉じる。
ぴカッ。
明の左腕の時計から眩い光が発せられた。目くらましだ。
「モニターが(真っ暗)!」ただの目くらましではない、レーダー攪乱効果もある。
焦るパワードスーツのパイロット達。めくら撃ちでネット(網)を発射。
明は左腕で美理を抱きかかえ、右手で銃を撃つ。光線でも実弾でもなく無線アンカー(錨)。それは林の中の木に刺さる。
美理は瞼を閉じたまま、真っ赤になっていた。男子とここまで近づいた経験はない。困る。退学ものだ。何より・・恥ずかしい。
桜吹雪の中、ふたりはアンカーに引かれ右側の林の中へ飛ぶ。
それらは一瞬の出来事だった。ネットは空振り。
「ここで待ってて」
「はい」
美理を林の中に残し、明は走りながら銃のスイッチを入れ替える。パラライザーからレイガンへ。
そして狙いを定め、撃つ。パラライザーの赤色と違う白色のビームが走る。
ビームはパワードスーツの装甲で跳ね返される。
「まだ弱いか」銃を調整。パワーを上げる。
「モニター!まだか!」焦る敵兵。
「回復まであと2秒」
「!」パワードスーツのモニター回復。そこには銃を構えた明が映っていた。
明は両手で銃を持ち発砲。反動でのけ反る。
スーツの頭部装甲を貫き、吹き飛ばす。パイロットは失神。1体撃破。
「馬鹿な。ハンドガンで!」
「男だけ?娘はどこだ?」
敵はビームマシンガンを発射。
焦っているのか当たらない。走りながら明は銃を撃つ。
ビームはスーツの両足(踵)を貫通。
前のめりで激しく転倒。中の兵士は失神。
明は倒れたスーツを蹴り、飛ぶ。
空中で発砲。マシンガンを吹き飛ばす。2体目。
「ごめんね」
林の中。美理はアンカーで傷ついた桜の木を撫でていた。
そこを回り込んでいた敵に発見される。
「娘は林の中だ!そいつは放っておけ!何が何でも!」
パワードスーツ2体が林に向かう。
追う明。
後衛のスーツがそれを阻止すべく発砲。
明はジャンプして避ける。
ピンニョが急降下し、明を追い越す。
美理を狙うスーツの前に躍り出て“羽根手裏剣“を投げる。
メインカメラを破壊。足止めになる。
もう1体は木を倒しながら美理に迫る。
「きゃあ」
追いつめられる美理。絶体絶命。
飛び込んで来る白い影。白い馬。
日本刀をくわえている。ビームブレードの様に伸縮自在。だが光線ではなく金属の刃だ。
パワードスーツが倒れる。
その腹部は切断されていた。斬られたのは装甲服のみで、中のパイロットは衝撃で気絶しただけだった。これで3体目。
「おまたせ」
「遅いよ。ボッケン」
シェプーラ星の高等動物。そのフォルムは地球の馬そっくりで(サラブレッドより小さくポニーより大きい)、四本の足は蹄で走行に特化しているが、頭部は犬に近い。額に当たる部分は隆起している。これは脳が地球人類並みの大きさのためである。走行速度は地球環境で時速300km超。顎と歯が発達しており、口に武器をくわえて攻撃する。<フロンティア号>では前足にマニュピレーターを付けて操縦をする事もあるが、主にレーダーを担当。その視力聴力は人類を凌駕しており、機械以上の情報をもたらす事もある。
美理はあっけにとられていた。今度は喋る馬だ。
「乗って」脚を曲げ背を低くしてボッケンが誘う。
「よし。ずらかるぞ」
明は美理を抱きかかえ、ボッケンの背に乗る。
「兄きには言ってないのに」
ふたりを乗せ、ボッケンは走り出す。ピンニョも続く。
敵は残り2体。
「くそお!」
メインカメラをやられた1体は上昇し、空中でショルダーキャノンを発射。
「血迷うなよ。重火器は使っちゃダメだろ」
はるか遠くの空中で停止しているWC-001から啓作がライフルで長距離狙撃。
弾は、ショルダーキャノンの弾丸に命中。爆発。
爆風を受け、パワードスーツは墜落する。4体目撃破。
待機していた残りの1体。
「いったん引く!形勢を建て直し・・」
パワードスーツは背部ノズルを噴射し、空へ。
その行く手に宇宙船が出現。
<フロンティア号>だ。
反重力航行のため速度は出ていない。宇宙船としては小型だが、パワードスーツに比べるとはるかに大きい。
ガン。
「ごめん。ぶつけた」コクピットのマーチンが謝る。
ジャストなタイミングだったが、実は駐機料金が上がる直前に離陸しただけだ。
「わー」
パワードスーツは吹っ飛び、墜落。べしゃ。
最後の2体は地面激突前に“自動運転”で不時着したが、衝撃でパイロットは気絶。
これで全滅。
倒れたパワードスーツの上に桜の花びらが舞い落ちる。スーツを運んで来たトレーラーはボッケンが破壊していた。
「あなた方は?」
「俺たちは<スペースマン>。宇宙の運び屋だ。君の兄さんの仕事仲間だよ」