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スペースマン  作者: 本山なお
4/30

スはスペースマンのス③

「(こんな雨の日だった。もう6年も経つのか)」 

 小雨の中、田舎道をとぼとぼ歩く兄妹。宇宙港の地球連邦ビルからの帰り。

 黄色いレインコートに赤い長靴をはいた小学生の美理は大声で泣き続けている。

 啓作が傘を閉じながら言う。

「もう泣くなよ。ほら、上見てみな」

「・・・わあ」

 雨が上がって、満天の星が広がっていた。 

「あたし宇宙に行く!宇宙行ってお父さん探す!」

 でも美理は未だこの星を出た事がない。

 美理の父・流啓三は<地球連邦>の軍人だった。彼女が10歳の時に宇宙船の事故で行方不明になっていた。母エレーヌはその3年前に他界しており、以後5つ年上の兄・啓作と二人暮らし。啓作が飛び級で医師となり多忙になったため、彼女は12歳で“真理女”の中等部に入学、以来寮生活を送っている。その兄が訳も言わずに医師を辞めて“運び屋”になったのは1年前の事だ。

「啓作のヤロー、防衛システムなんて一言も・・」

 美理は突然の話し声に驚く。

「絶対に中に入るなよって言ってたじゃん。・・綺麗。何て花?」 

「桜。地球の花だよ。ちょうど桜の季節か。いいねえ」

「へえ」

「何で知ってんだ?俺。この光景、何か懐かしい・・・しかし返信遅えなあ」

「(よく知っているなあ。どんな人だろ?啓作って言ってた?)」美理はそ~っと覗く。

 肩に小鳥を乗せた男の人。

「(あれ?一人?話し声聞こえていたのに・・かわいい鳥。よく慣れているのね。あ、“スペーススーツ”だ!・・この人、スペースマン!)」

 明たちの運び屋のチーム名でもある<スペースマン>。本来宇宙飛行士の事だが、宇宙旅行が当たり前となったこの時代、自由貿易者や冒険者の意味もある。

 宇宙に行きたい美理にとってスペーススーツは憧れ。耐熱耐寒耐衝撃。ヘルメットと宇宙用手袋・ブーツを加えれば、宇宙空間でも行動可能となる優れものだ。

「あ!」

 でもそのおしりは焦げていた(女子寮の防衛システムで)。

「寮に侵入者が・・」麗子の言葉を思い出す。

 憧れのスペースマン→怪しい不審者へ。しかもホルスターには銃。美理は警戒する。

 雨がやみ始め、明も美理に気づく。

 ふたりの視線が合う。

「麻美子?」思わず口に出していた。

「え?」

 そこには夢に出てくる少女がいた。

 髪型こそ違うが、美理は明の夢に出て来る写真の少女そのものだった。

「!」

 彼らは周囲を囲まれていた。

 明はそれに気づく。もうひとりも。

 黒いスーツを着た人相の悪い男達が取り囲む。6,7人いる。その尻にも焦げ跡が。

「ちっ」明は舌打ちする。察知できなかったのは桜に見とれていたからか?

 リーダーらしい男が口をひらく。

「流美理だな。“聖なる血”を持つ者。我々と来て貰おうか」

「・・・」美理は怯える。何が何だか分からない。

「(この子だったのか)」

 明は黙って黒服の男達を睨む。

 黒服達はニヤニヤしながら近づいて来る。

「にいちゃん。とばっちり、不運だったな」

「あんた達がね」

 黒服達が銃を構える。それより速く明とピンニョは動いていた。


 強い風が吹く。

 桜の花びらが風に舞う。桜吹雪。目の前がピンク一色に。

 風がおさまり、花びらが地面に落ちる前に、リーダーを残して6人の黒服達は倒れる。

 美理は何が起こったのか分からない。赤い閃光を見た気がする。

 4人は銃で撃たれており、3人は羽根が刺さっていた(1人重複)。

 形勢逆転。明は銃をホルスターに納め、ただ一人残った男に質問する。

「お前達はなぜこの子を狙う?」

 男は答えずに銃をぬく。

 銃が火を噴くことはなかった。その前に明のボディーブロー炸裂。男は崩れ落ちる。

 明は険しい表情をしていたが、視線を移して、

「流美理さんだね。啓作の妹の」 

「は、はいっ」

「俺は弓月明、こいつはピンニョ。話は後だ」

 美理の手を引き、明は走り出そうとする。 

 だが美理は動かない。いや動けない。彼女はパニックに陥っていた。

「(人が死んだ。いや、こ殺された。この人に。さっきまで生きていたのに。次は・・私?)」

「大丈夫!パラザイザーだ。死んでないよ!」 

 はっとなる美理。喋っているのは明の肩にいる綺麗な小鳥だ。

「もう心配いらないよ」 

「しゃべれるの?」 

「うん」うなずくピンニョ。

 元実験動物。改造され人間並みの知能と特殊能力を持っている。体長15㎝。黄色いカナリアの様な小鳥。飛行速度は全ての鳥類を上回る。<フロンティア号>では主に通信を受け持つが、時にレーダーや戦闘も担当する。好物は焼きとり(特にタレ)のネギまのネギ。フェニックスの遺伝子を持つというが、それは彼女(♀)にも分からないらしい。

「こいつらは星間犯罪結社<パラドックス>。君を狙っている」

 明は腕時計の通信ボタンを押す。

「啓作!妹さんは公園だ!もう“奴ら“が来ている!早く合流・・・」

 明は目を疑った。

 公園の木々の陰から現われたのは、5体のパワードスーツだった。


 啓作と美理の家は閑静な住宅街の中にあった。庭のある旧式な一軒家。

 「流」の表札があるその家の外には人相の悪い男達が数人倒れていた。彼らも<パラドックス>だ。

 流啓作は居間で写真を見ていた。

「啓作。思い出に浸ってないで、早く荷物準備してよ」とボッケンの声。

「おう。すまんすまん」写真立てを置く。

 写真には啓作と美理が写っている。他に幼いふたりと両親の写真もある。

 明に美理の画像を送ったが、うんともすんとも返事がない。

「兄きたちと連絡がとれない。妨害電波みたいだ」

「分かった。急ごう」


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