スはスペースマンのス②
銀河系(天の川銀河)は直径約10万光年の棒渦巻型銀河である。恒星の数は約2000億。銀河系に存在する多種にわたる生物による複合国家集団が<銀河連合>である。
地球とその移民星からなる<地球連邦>も<銀河連合>に属しており、オリオン腕をほぼその領土としていた。
ルリウス星は地球からの距離約250光年。直径、大気成分、平均気温、海陸比、自転公転周期、重力、いずれも地球のそれらに近い。衛星は二つ。太陽スペクトルの差で海の色は地球より瑠璃色に近く、星の名前もそこから来ている。人口は約3000万。住民のほとんどはある一つの大陸に住んでおり、先住生物(水棲生物が多い)とのトラブルはほとんど無い。地球連邦加盟の星間国家としては辺境で小さい方である。つまりど田舎だ。その街並みは旧暦末の旧日本のそれに近かった。
<フロンティア号>はルリウス星の宇宙港に停泊していた。
宇宙港をはるかに見下ろす高台にある<真理之花女学園>。通称“真理女”。
美理が通うこの学校は、名門のお嬢様学校で、校則は厳しく全寮制、憧れる女子は多く、近隣の惑星出身の生徒も多い。制服は古風な紺色のセーラー服(夏服は白)、膝までの長めの無地のスカート。スカーフの色は学年により決まっており、美理達は白だった。
その校門に立つ明と啓作。明の肩には地球のカナリアに似た黄色い小鳥がいる。
宇宙船の人工的な環境とは違う。自然の太陽・空・海・緑・風・・心地いい。
啓作は小型艇に乗り込む。
WC-001型。<フロンティア号>の搭載機。航空機というより翼のある乗用車といった外観だ。5人乗り。言いたくないが、形が和式トイレに似ている。
「じゃあ。俺とボッケンは自宅に行って服とか準備しとく。明、お前は連中が来ないか監視してくれ」
「わかった。啓作、妹さんの写真とかないのか?」
「無い。家に着いたら画像送るよ。 明!」
「ん?」
「俺が戻るまで絶対に中に入るなよ」
「?」
啓作は小型艇で飛び去る。それを見送った後、明はニタリと笑う。
「さて・・じょ女子校♡しかも女子寮♡折角だからちょっと見学しよっと」
困り顔の小鳥を無視して、
「お邪魔しま~す」
明は一歩・校門内に足を踏み出す。健全な男子としては当然な?行動なのだが・・・
鳴り響く警報。
「ん?」
発射されるビーム。明は間一髪避ける。
「な?なんだぁ!?」
次々ビームが発射される。小鳥は空へ逃げる。ビームは明一人を追う。
「何事です。ここは男子禁制ですよ」
先生らしき女性が立っていた。
「え?いや、俺は・・」
立ち止る。その尻にビームが命中。
「ぎゃあ~」
放課後。
「ごきげんよう」
運動場を横切る美理に、ハカマ姿(弓道部)の山岡麗子が声をかける。
麗子は美理のルームメイト。ショートの黒髪の美少女で今年の“ミス真理女”候補、学年トップの優等生で学級委員、なのに才能をひけらかさない、外見以上に性格美人。
「美理ぃ、今日は天文部お休み?帰省するの?お兄さん、帰って来られたの?」
「ううん。兄は・・何の連絡もない。掃除と服を取りに戻るだけ、夕食には戻るよ」
「また寮に侵入者があったそうよ。防衛システムで逃走したらしいけど。気をつけてね」
「ありがとー。ごきげんよう」
いよいよ空は暗く。
美理の家は学校から徒歩で30分程。途中公園に寄り道する。海の見えるこの公園は彼女のお気に入りの場所だ。
「やっぱり」
ちょうど桜が満開。ここの桜は地球(日本)より移植されたものだ(ルリウス星は日本からの移民が多い)。今の日本は氷に閉ざされ、桜は咲かない。
美理はしばし見とれる。
「あ」
雨。
通り雨。さーっとあたりを濡らす。折角の桜が散ってしまう。
桜の木の下に雨宿りしながら、美理は昔の事を思い出していた。