死の遺産⑤
パンゲア星の首都・サルーン。
パンゲア軍が全滅した事は実況中継されており、人々はパニックに陥っていた。
われ先に脱出しようとする人々が宇宙港に殺到。他人を押しのけ宇宙船に乗ろうとする人。仕事を放棄し逃げる宇宙港職員。神に祈る人。略奪を始める人。大八車を引いて逃げる人。定員オーバーで離陸した宇宙船は墜落、炎上。
そのはるか彼方の地平線、まだ数千㎞離れているが、怪物がその姿を現わした。
首都目指して飛ぶ怪物。音速以下のゆっくりとした飛行だ。
その足部から触手が伸び、進路上にある村の人々を石化させていった。
その怪物に<フロンティア号>は後方から接近する。
雲に隠れながら、怪物上方を飛行。
雲を貫いて怪物が巨大な首をもたげる。その口はすっぽり<フロンティア号>が入ってしまう大きさだ。
「改めて見ると、でかっ」
やり過ごし、怪物を追い越す。
「閃光弾!」
後方へ爆雷散布。それは怪物の目前で爆発。眩い光を放つ。目くらまし。
「エンジン停止」
明は操縦桿を倒す。
<フロンティア号>は左旋回し、後方の怪物へ。
首の付け根にある“目”へ向かう。
巨大な目が開く。
“視線“が合う。
「!!」
「エンジン始動!」
触手が木の枝の様に伸びて行く手を塞ぐ。
その攻撃を掻い潜る。レーザーで防御。
さらに5つの首が鎌首をもたげ、次々と迫る。
パンゲア軍の戦いでステルスバリアーは効果がないのは分かっていたので使わない。
「影分身!」
「ダミー射出だろ」ヨキがボタンを押す。
バルーン製ダミーフロンティア号放出。幾つかの首はダミーへ。
「右から二つ来る!触手はまかせろ!」
怪物はレーダーに映らないため、ボッケンが船外カメラを駆使して情報収集していた。
怪物の口が輝く。稲妻光線を避ける。
触手が来る。ホーミングレーザーが唸る。
「(すごい、明さん・・みんなも)」
美理は本格的な戦闘を初めて体験していた。
七人の力が心が一つになっていた。自分も何か役に立ちたい。でも自分ではかえって邪魔になる。美理には祈ることしかできなかった。
上方から怪物の首が迫る。
明は後部垂直上昇ノズルを噴射。機首が真下を向く。
首をやり過ごす。そのまま360度回転、元に戻る。
後方から触手。レーザー乱射し、次々避ける。
別の首が目前に!
「!」避けきれない!
プロトン砲発射!
怪物の首を吹き飛ばす。<フロンティア号>はそのまま無事通過。
マーチンが親指を立てて合図。
通過した後方で・・それはすぐに再生する。
「やはり5秒」
時間を計っていた啓作が確認する。
「助かったが、これで奴はプロトン砲を学習した。次からは効果が薄れる」
「大丈夫。奥の手がある。ヨキ、合図したらESPバリアーをコクピット周囲に張れるか?」
「何だよ?それ。出来るよ、船全体でも」
「いやな予感がする」
「右の第2エンジンを奴にぶつける。いつでも翼を切り離せるようにしといてくれ」
「ほらね」
別の首が口を開けて迫る。明のフェイント、急ターン。必死の操縦で避ける。
襲い来る無数の触手をヨキがレーザーで薙ぎ払う。船底部の格納庫が開く。
“目”が見えた。
「反重力ミサイル!」
明の号令に答えて、ピンニョがスイッチを踏む。
発射! 宙返りのままミサイルが飛び出す。
それは怪物の巨大な“目”に吸い込まれていった・・・
命中!
光が広がる。重力が反重力に変わる。
目だけでなく巨大な怪物の体が四散し、霧のように消える。
「重力遮断シールド展開!」
強烈な反重力の中、堪える<フロンティア号>。
怪物に、いや怪物のいた空間に迫る。
反重力がおさまる。
光は残っている。いや、より輝きを増している。
光の中 にいたのは・・・
胎児?
「構うな!撃て!」啓作が叫ぶ。
うっすらと怪物の体が浮き出て来る。もう時間がない。
マーチンがボタンを押す。
プロトン砲発射!全砲門一斉発射!
幾つものビームがミサイルが光の中へ吸い込まれて・・・
爆発。幾つもの光が広がる。
「第2エンジン始動!出力臨界まで上げろ!」
「突っ込むぞ!全員ショックに備えろ!!!」
ヨキがESPバリアーを張る(勿論通常バリアーもある)。
明は<フロンティア号>の右の翼を光の中心にぶち当てた。
「分離!」
翼がとれる。一瞬の後に、エンジンが爆発。
光がすべてを包む・・・・
「ここは?」
美理は眩い光の中にいた。かすかにお花畑が見える。
夢の中だと思った。桜と金木犀と向日葵が一緒に咲いていたから。
一人きり、兄も明たちの姿も見えない。
光の中で声を聞く。
『聖なる血をくれた娘よ』
「・・え?私?」
辺りを見回すが相手の姿は見えない。頭の中に直接語りかけて来る感じだ。
『お前はあれだけの血を失いながら、なぜ生きている?』
「それは・・いろいろと事情が・・」
『お前達は“私“を呼び出したのになぜ抵抗する?祭官がイメージする姿で出迎えたのに』
「祭官?デコラスの事?」
『聞くがいい。・・・昔、二つの陣営による長い長い戦いがあった・・・
その中で“私”は生まれた。“私”は人と人の心を一つにする“存在”だ。
人と人が争いをしないように、分かり合えるように・・・
そして無数の命が一つになった。
それは個々の肉体の死でもあったが、“私“こそ、人の新しい進化だ』
「・・・・・」
『完全な生命体。永遠の命。何故それをお前達は拒否する?』
「他人と隣の人とわかりあえたらいいと思う・・でも、それは生きるとは言えない」
『生きる?他人と完全に分かり合う事も無く、僅か数十年の寿命の方がいいと言うのか?』
「私達は、それを“生きる”って言うんだもの」
『・・・・どうやらお前達はまだ幼すぎるようだ・・・“私“は再び眠るとしよう』
目覚めた美理は“事件”が無事解決した事を知る。
明たちクルーが無事なのはもちろんの事。石になった人々は元に戻り、怪物の生まれた“山”も元通り。破壊された艦艇も。パニックで亡くなった人や器物すら。あの“板“も何もなかったかのようにそこにあった。
そしてデコラスはいずこかへ消えていた。
よく分からない専門家(何の?)は「集団催眠」とコメントしたが、それでは説明出来ない事が多すぎた。
<フロンティア号>の翼も第2エンジンも元通りだった。
マーチンがつぶやく。「修理代助かった」




