死の遺産②
ワープアウト。
「ふう。あと一回だな」
警報。
「高エネルギー反応!ビームが来る!」ボッケンが警告。
明は操縦桿を引く。非常制御噴射。ビームが通過。距離があり被害はない。
「戦艦だ!400m級、パラドックス旗艦!<ネオ=マルス>から逃げた奴だ。距離1500万キロ!」
「ごめん。ワープ航路を読まれちゃった」
「戦闘準備!売られた喧嘩だ。ここで決着をつける!」
明の命令に啓作が意見する。
「これまでと違って奴は遠慮なく攻撃してくるぞ。戦力差がありすぎる・・それに、あの中にデコラスがいるとは限らない」
「どういうことだ?」
「足止め・・囮かも知れないって事だ」
「旗艦だぜ。普通囮には使わない・・。あのデコは普通じゃないか」
直接デコラスと戦ったヨキも怪しがる。
「第二射来ます」
ビームが通過。こちらはまだ射程外だ。
少し上方に小惑星帯がある。明の腕なら小惑星帯を抜け、敵に接近する事も可能だった。
「レーダーには映ってないけど、アステロイドに混じって戦闘機が隠れているよ」
ボッケンの目がまた役に立った。
「やはり罠か。・・シャーロットさん!」
「そこの準惑星の陰に隠れて、あと1分待って」
<フロンティア号>は準惑星を盾にする。隠れてワーププログラミングを組む。
この間にも戦艦の攻撃は続く。
主砲のビームは準惑星に命中するが、地球の月ほどの大きさの星を破壊する力はない。ホーミングビームは小惑星に阻まれ届かない。
啓作が口を開く。「明、まだ言ってないことがある」
「ん?」
「母と俺が乗っていた宇宙船は修理、改造された。・・・そう<フロンティア号>として」
「えっ、え~!?」
「ワーププログラミング完了。2時2分方向へ500万キロがワープインポイントよ。パンゲア星のすぐ傍に出るから、減速よろしく」
明の席のパネルに表示が出る。
「行くぞ!」
<フロンティア号>は準惑星の陰から出る。
途端に戦艦の砲撃が再開。小惑星帯に潜んでいた戦闘機数機も接近していた。
それらの攻撃を避けながら、次第に速度を上げる。戦闘機を振り切る。
三回目の最後のワープへ。
啓作の読み通り、デコラスは高速艇に乗り換え、パンゲア星に到着していた。
パンゲア星――太古の地球に存在した大陸の名がつけられたこの星の表面は、青い海とそれとほぼ同じ面積のたった一つの巨大大陸から成る。人類がこの赤い大地の星を訪れた時、すでにこの星の人間は消え去っていた。放射能など有害物質は無く、星の環境も地球に類似しており、理想的な移民先だった。現在の人口は約10億人。美理たちの故郷ルリウス星より遥かに多い。地球連邦の勢力圏の最果てにあり、重要な軍事拠点でもあった。
遺跡調査の名目で、高速艇はとある島に着陸。
デコラスは10mはある巨大な黒い長方体の“板”の前に立っていた。金属なのか石なのか材質は分からない。木ではないようだが、化石なのかも。
その“板”の向こう、海を挟んで標高1万mを超す巨大な“聖なる山”がある。
星の文明の発達は各分野において様々である。例えば<地球連邦>は武器の分野では<銀河連合>トップクラスだが、宇宙船エンジンや通信技術の分野では遅れていた。一方滅びたパンゲア星の文明は地球の旧暦19世紀頃のレベルで、宇宙船はおろか飛行機も発明されていないが、兵器の分野では地球の旧暦20世紀末のレベルに、バイオ技術ではそれ以上のレベルに達していた。
デコラスは鞄から赤い液体の入った大きな瓶を取り出し、巨大な“板“の前で呟く。
「この星は2000年前、戦争によって一夜にして滅亡した。核兵器でも細菌化学兵器でも勿論反物質兵器でもない。その未知の超兵器は今もこの星に眠っているという。それを蘇らせるのが“聖なる血”だ。生贄の乙女の血。彼らパンゲア人のDNAに一番近い血液がこれだ!」
デコラスはESPで瓶を“板“にぶつける。
瓶が割れ、血液が飛び散る。
鮮血。美理の血液だ。酸素飽和度の高い動脈血をクローニング、約4㍑。ほぼ人間一人分の量だ。
デコラスが叫ぶ。
「我に力を!古のパンゲアを滅ぼした最終兵器さえあれば、わが<パラドックス>は無敵だ。念願の銀河帝国建国も夢ではない。我に力を!力を!力を!!」
<フロンティア号>がワープアウト。
目前にパンゲア星。赤い大陸と青い海のコントラストが美しい衛星だ。
その赤い星より光が!
星全体が激しく揺れる。
“板“の向こう巨大な“山“が崩れていく。
「遅かったか!」
「何だよ?これ。どう見ても・・」
「卵?」
崩れた“山“の中から現れたものは、高さ1万mもの巨大な”卵“型の物体だった。
敵の迎撃は無い。無断でワープアウトすればパンゲア軍にも攻撃される危険があったが、大地震のため軍の機能は麻痺していた。
<フロンティア号>は上空に待機。明とヨキは小型艇でパンゲア星に降下する。
デコラスの高速艇のある島に着陸。
降り立ったふたりは息をのんだ。
そこにあったものは人型の彫刻、いや石の様に固まったパラドックス兵士達だった。
デコラスの姿は見当たらない。
ふたりは血液が付着した巨大な“板“を見つける。
「でっかいかまぼこ板?」
「この血は、生贄の代わりか。この為に・・」
明は落ちていた本を拾う。開いていたページを読む。
「“その力は人の魂を己のものとし、死と破壊を招くであろう”」




