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スペースマン  作者: 本山なお
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ネオ=マルス①

第5章  ネオ=マルス


 旧暦1999年に落下した隕石“恐怖の大王“により地球は氷河期に突入。寒冷化と移民によりその人口は激減していた。それでも<銀河連合>の中でも強い権力を持つ<地球連邦>の首都として重要な星に変わりはない。

 宇宙開発黎明期には、月面都市や多数のスペースコロニーが造られ、環境の悪化した地球からの移民が行われた。その後火星やエウロパ(木星衛星)といった太陽系内の星々への環境改造・移民が行われた。宇宙歴199年のワープ航法発明により、より遠くの他恒星系への移民が可能となり、古くなったスペースコロニーは次々と閉鎖・解体された。

 <ネオ=マルス>とはスペースコロニーを改造し月軌道上に七基造られた宇宙ステーションで地球防衛の要である。オートメーション化され、ほとんど人はいない。

 その<ネオ=マルス弐号基>の中に<パラドックス>本部は秘密裏に造られていた。

 パラドックス艦隊旗艦が入港する。この艦は地球連邦の正規軍艦として登録されている。アクア第6惑星の戦いから地球時間で5日。

 “反重力ミサイル“で<パラドックス>は甚大な被害を受け、その後始末で到着が遅れた。明たちの救難信号を受けて駆けつけた<銀河パトロール>を、演習中の事故だと誤魔化すのに時間がかかったせいもある。

 美理はパラドックス首領の前に連れて来られた。

 誰の趣味なのか真理之花女学園の制服に着替えさせられた。本物よりスカートが短い。両腕に光る腕輪がはめられ、これで自由を奪われはりつけに近い状態で宙に浮かんでいる。

 副首領デコラスが紹介する。

「首領。この娘です。お望みの血液を持つ娘は。」

 暗くてよく見えないが、地球の中世を思わせるクラッシックな洋風の部屋だ。壁には巨大なモニターがあり、惑星が映し出されている。目前にある地球ではない。見た事のない星だ。部屋の中央に大きなテーブル、幾つもの椅子があるが、座っているのはその男だけだ。

 パラドックス首領リッターブーン。

 ちょび髭を生やした小柄なおっさん。灰色の軍服に赤いマントを纏い、その姿は明らかに旧暦の独裁者を意識している。ただ頭はつるっつる。

「ウヒヒ・・なかなか可愛いな」手を伸ばす。

「いけません。“聖なる血“は採取しクローニング中ですが、無効の時は古の方法で行おうと思います。血は聖なる乙女のものでなくてはなりません。」 

「チェッ」

「・・・」

 美理は憔悴しきっていた。

 自分を守って明が死んだ。おそらく兄も。優しかったみんなも。敵<パラドックス>にも多大な犠牲者が出た。自分がもっと早く投降していたら、みんな死なずにすんだかもしれない。

 頬から涙が落ちる。もうどうしたらいいのか分からない。でも彼らが何をしようとしているのかを見極めたい。兄たちが命を懸けて防ごうとしたのは何だったのか。

 突然、警報が鳴り響く。 

「報告。海王星付近に宇宙海賊多数。全艦隊に出撃命令が出ております」

「わが軍は地球連邦軍艦として登録されている。面倒だが出撃せざるを得ない」

 <ネオ=マルス>より地球連邦の宇宙艦隊が次々と発進して行く。

 小惑星帯に隠れている小型の宇宙船。グレイがその光景を見つめて呟く。

「・・・俺がしてやれるのは、ここまでだ」

 海賊の情報は偽りだった。


 それはあたかも流星のようだった。

 出撃した宇宙艦隊とは別方向から猛スピードで接近する<フロンティア号>。

 ブースターと翼の上下に多数のミサイルを装備している。メインと第4エンジンは修理できたが、第2エンジンは間に合わなかった。ミサイルには“AGM”の文字が見える。

 一直線に<ネオ=マルス>へ向かう。青白い光の軌跡を残して・・・

 主操縦席の明が叫ぶ。

「反重力ミサイル(AGM)発射!」 

 残存駐留艦隊へ向け、発射されるミサイル群・・・

 迎撃は無い。艦隊中央でミサイルは爆発。幾つもの光が広がり、無重力空間に1Gの反重力場が発生する。光の重なったエリアは反重力が倍化されている。

 完全な奇襲となった。

 時代遅れの反重力兵器に何の対策もされておらず、衝突する地球連邦艦隊。

 <フロンティア号>の目前に反重力の光が迫る。

「“重力遮断シールド”展開!」 

「カウントダウン・59・58・57・・」

「突入!」

 衝撃。

 <フロンティア号>は艦隊隊列の乱れた所に突入。重力遮断シールドで反重力の影響を受けない。<ネオ=マルス>へ向け、一直線に突き進む。

「45・44・・」

 無重力下では反重力ミサイルの効果は重力遮断シールドと同じく60秒間続く。

 猛スピードで艦隊を通過。すれ違いざまにレーザー掃射。当てるのではなく攪乱目的だ。地球連邦艦隊の攻撃も反重力で当たらない。

「艦隊突破!」

「29・28・・」

 <ネオ=マルス弐号基>が迫る。

 全長20kmの巨大宇宙ステーションだ。対艦隊用に巨大光子砲も装備されている。

 <ネオ=マルス>本体そして接舷されている艦の対空砲火が来る。が、反重力の壁で当たらない。

「第7ゲートを確認!」

 進行方向へレーザーを連射!針路上の敵の攻撃を防御する。

「18・17・・」先に反重力ミサイルの効果が切れる。

「反重力爆雷散布!」

 爆雷が後方へ放たれる。

 爆発。反重力場発生。通過した艦隊の攻撃を防御する。

 ミサイルより小型で効果は狭いが推進力がない分、安くてお得。しかもこれにはレーダー攪乱粒子が仕込まれていた(一定時間で消失するためデブリにならず環境に優しい)。

「目標、バリアー発生装置!」

「一点突破!」

 プロトン砲・レーザー・ミサイルを一斉発射!

 爆発。

 <ネオ=マルス>を覆うバリアーが消滅、

 <フロンティア号>は<ネオ=マルス>へ・・・

「10・9・8・・」 

「閃光弾!」 

 今度は前方へ眩い光が広がる。

「2・1・0・・重力遮断シールド消失」

「ハッキング開始!」 

「ステルス!」

 <フロンティア号>は透明化し、

「ダミー射出!」

 バルーン製の偽フロンティア号発進(本物とは微妙に異なる形状をしている)。本物よりかなり小さいが宇宙空間で大きさの判別は困難である。

「アンカー!」

 <ネオ=マルス>に接舷。閃光弾の光が薄れる。 

「ハッキング成功。ステルスバリアーに偽装スクリーン展開」

 貨物船に化ける。(“ステルスバリアー“と”重力遮断シールド“は同時には使えない)

 地球連邦艦隊は<ネオ=マルス>を離れるダミーを追跡して行く。

「やったね」微笑むヨキ。

 <フロンティア号>のスクリーンには<ネオ=マルス>の内部図が映し出されていた。

「グレイのデータは完璧よ。流石ね。美理ちゃんがいるのは・・多分ここ」

 シャーロットの指し示す先、内部図に赤い点が点灯する。

 同じ地図が明の腕時計にも表示されている。明は黙ってスクリーンを睨んでいた。

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