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スペースマン  作者: 本山なお
18/30

メモリィ③

遥か宇宙の彼方から“それ”は来た。

地球を目指して―――

巧みに軌道を変え、発見された時には地球まで75万キロまで接近していた。

隕石なのか?人工物なのか?一切が不明だった。

宇宙船<フリーダム>は当初の予定になかった無人の人工衛星とドッキングし、燃料補給と何かの物資を搬入中。

そのコクピットでは、クルーが地球と交信していた。

映像は無く、音声のみの通信。雑音が激しく聞き取りにくい。

「無人・・機は・・不能に(ザー)・・・86%の確率・地球に落下・・事が解った(ザー)もう少しで帰還と・・時にすまない・・・・(ザー)だが君達が一番近い・だ」

「了解しました。調査後、爆弾による軌道変更を試みます」 

最年少の僕は緊張して聞いている。ダン船長が声をかける。

「アキラ。すまない。民間人の君を乗せているのに」

「キャプテン、構いません。僕の事は気にせず、ミッションを遂行してください」

データが次々と送られて来る。

「円形の黒い物体。球体?いや円盤かも?」

「見てみろよ、こいつの軌跡。地球から死角になるように、月の影に隠れて動いてやがる。どう考えても自然の物じゃない」

「じゃあUFO?宇宙人?」

「ファーストコンタクトか」

「大丈夫。こっちにはラッキーボーイが乗っているんだ。な、アキラ」

そう言われても困る。もう運は使い果たしていたのかもしれなかったから。

宇宙船は方向を変え、エンジンを噴射。そのはるか先に移動する“何か”が見える。

背景の星々を隠して、月軌道を通過するその物体。黒い球体だ。いや色は分からない、表面に星々が反射して映っている。

接近する。物体は、<フリーダム>の約10倍の大きさだ。

警報がコクピットに鳴り響く。

「目標まで距離1500km」

「でかい。こんなのが地球に落ちたら・・」 

「!」

突然黒い物体の表面が波打つ。その震動が宇宙船に伝わる。

重力波の嵐。宇宙船は波に翻弄される。

「計器が役に立たない!」

「制御不能!」

乗員の悲痛な叫びがこだまする。停止するエンジン。

「これは・・隕石じゃない!」

誰かが叫ぶのと同時だった。物体の表面にギョロッと赤い“目”が見開かれた。

稲妻が船体に命中。衝撃。

宇宙船は、なすすべも無く宇宙の彼方へ吹き飛ばされていく。

凄まじいGが僕らを襲う。

作業のためシートベルトをしていなかった誰かが飛ばされ、扉に激突した。

コクピットのキャノピーが割れ、空気が抜ける。

僕は仲間の手を掴もうとするが・・届かない。その誰かは外に放り出される。

やがて空気の流出は止まる。

僕の隣の席の乗員は破片が宇宙服に突き刺さり絶命していた。

「キャプテン?・・ロジャー?・・マイケル先生!・・誰か・・」

コクピットいや宇宙船には僕一人しか生き残っていなかった。

推力を失った宇宙船は慣性で飛ばされて行く。漆黒の闇の中へ。

酸素はあと3時間しかもたない。

「・・どうする?どうすればいい?・・考えろ!」

その方法しか思いつかなかった。

僕は意を決して這い出す。

泣きながら、Gに逆らいながら、コクピットからカーゴベイへ。

「はあはあ・・ずっと側にいたのに・・・あの子は空気・みたいな存在(もの)だった・・・

大切・なのに・・無くてはならないもの・だったのに・・宇宙に出るまで・・考えた事・・なかった・・・はあはあ・・僕はまだ何もあの子に伝えていない・・何で言わなかったんだ・・たった一言なのに・・はあはあ・・・死んで・たまるか・・・約束したん・だ・僕は・・・帰るんだ!」

カーゴの天井は無かった。

孤独と静寂と恐怖の中、僕は“カプセル”にたどり着く。

冷凍睡眠の実験は特別ミッションのため中止になっていた。

蓋を開ける。僕は最後の力を振り絞り、その中へ潜り込む。蓋を閉め、ヘルメットを取る。

宇宙船を破壊したその“物体”は今まさに青い地球に落下しようとしていた。

その光景を見ながら、僕は赤いボタンを押した。

助かる確率は万に一つも無い。唯一の可能性は冷凍睡眠だけだった。

曇っていくキャノピー。涙と汗が凍っていく。

薄れゆく意識の中、僕はポケットから写真を取り出し、つぶやく。

「麻美子・・・」


かつてない宇宙からの脅威に対し、皮肉な事に有史以来初めて人類は一致団結した。

衛星軌道上のキラー衛星がレーザー光線を発射。

光線は物体に当たるや否や、跳ね返されてしまう。

地球各国からは無数の核ミサイルが発射。

ぐんぐん上昇・・・上空で起きる爆発の閃光。

しかし核兵器は“物体”のバリアーに阻まれ、全く歯が立たなかった。

それどころか電磁パルスが生じ、世界的規模で電子機器が破壊、各国で大停電が起こった。

明かりの消えた街。麻美子は空を見上げる。

その頭上を巨大な白い光の塊が北の空に消えていく。

遅れて衝撃波が街を襲う。ガラスが割れ、瓦が飛び、ビルが倒壊する。

後に“恐怖の大王”と呼ばれる“それ”は北極海へ落下。 

凄まじい閃光があがる。爆炎が広がる。地球そのものが震える。地球の自転軸が動く。

巨大な津波が生まれる。それらは大都市に襲いかかり・・すべてを飲み込む。

舞い上がった噴煙により太陽光は遮られ、地球は氷河期に突入した。

(それは皮肉にも温暖化とは逆の環境だった)

・・・時は流れた。


人類はその生活の場を宇宙に求めた。

軌道エレベーター。スペースコロニー。月基地建設。火星開発。

ワープ航法の発明により、より遠くへ。太陽系から銀河系へ。

大移民時代。しかしそれは異星人との対立の時代でもあった。

幾つかのトラブルを経て、オリオン腕をほぼ勢力圏とした地球は銀河連合に加盟。

――そして現在・宇宙暦498年。


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