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スペースマン  作者: 本山なお
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メモリィ②

NASA・アメリカ航空宇宙局からその手紙が来たのは、1998年の春だった。

―全くの素人が宇宙に行ったらどうなるのか?―

その実験のために、アメリカ国籍を持つ16歳以上40歳未満の全ての人からランダムに選ばれた候補者の一人が僕だった(アメリカで生まれた僕には米国籍があった)。

以前にもNASAは「UFO迎撃用ムーンベース建設」「火星にスペースキャンプ」等の無茶な企画を立てていたようだが、実現しなかった。しかし今回の企画はマジだった。

条件は健康な事だけ。厳しい訓練なしで宇宙に行ける。無料で。

テイクアチャンス。僕は飛びついた。高校を休学し、アメリカと日本を行ったり来たりした。資金等はNASDA・宇宙開発事業団が協力してくれた。(JAXA発足は2003年)

この計画は極秘のため(成功してから正式発表されると教えられた)「留学」という事にした。友人や先生を騙すのは心が痛んだ。

渡米した僕は実父の親戚なる人達と初めて会った。裕福な人達だった。両親が亡くなった時、僕をひきとるのを拒否した連中だ。一応極秘事項だが、どこから聞きつけたのか有名人になる予定の僕に会いに来たのだ。悔しかったが、ここは大人の対応をする事にした。つまり我慢だ。でも一銭(1セント)も金や物は受け取らなかった。

そして僕は選ばれた。


―1999年5月―

出発の二か月前になって、一緒に宇宙に行くメンバーを紹介された。

船長のダン。操縦士のロジャー(元空軍パイロット)。搭乗科学技術者・黒人医師のマイケルと分子生物学者のシド。搭乗運用技術者・金髪美人のキャサリン。

彼らは僕の事を「ラッキーボーイ」と歓迎してくれた。

「君は実験台だ。覚悟しろよ」マイケルが脅す。

そして僕らが乗る宇宙船スペースシャトル・オービタ<フリーダム>に搭乗した。

感動。僕は夢にまで見た宇宙船の中にいた。

コクピット、居住区、続いてカーゴベイを案内される。特殊な機械が設置されていた。

「何これ?」

それは長さ3m程、飲み薬のカプセルの様な形の機械だった。数本のコードが繋がっており、窓から覗くと中には人一人がやっと入れる空間があった。

「何に見える?」マイケルが聞く。

「・・棺桶」

「ほぼ正解。冷凍睡眠装置だよ。火星有人探査に備えての実験で、今回のミッションでロジャーが24時間だけ入る事になっている」

「へえ」

「いざって時には脱出カプセルになる。俺の代わりに入らないか?」

「え?(ジョークなのか?) いや、それはちょっと・・」

「ロジャーはやりたくないだけでしょ」

「アキラ、使い方を教えとこうか?」

「船長まで。ダメよ。食事からトイレまで、アキラには何も教えちゃいけない決まりだから」 

「ははは・・(ある程度は知っています)」

「ミッションには関係ないだろ。アキラも知りたいよな?」

僕は黙ってうなずいた。それが運命の分かれ道だった。


―1999年6月―

「Gに慣れとかなくちゃね」

麻美子に誘われて、僕たちは遊園地に行った。

田中や辻を誘ったが「馬鹿かお前は」と言われた。

初めての二人きりのデートになった。

ジェットコースターにバイキングに落ちる奴。麻美子はすぐ車酔いするくせに、こーゆーのが大好き。僕はといえば、連続の絶叫マシーンの洗礼に倒れそうだった。

最後に観覧車に乗った。沈んでいく夕陽・・を見る暇はなかった。「特訓」と称して麻美子がゴンドラを揺らしたから。一番怖かった。

帰り道。僕と麻美子は夜の砂浜を歩く。

月が波に反射して美しい。それ以上に・・。

「楽しかったね」

「そうかぁ?」

「私は楽しかったよ・・」

「・・・・」

「・・・どうしても行くの?」

「宇宙に行くのは、僕の夢だったんだ」

「そうだね。小っちゃい時からそう言ってたもんね」

麻美子はうつむいていた顔を上げて僕を見る。

「じゃあ、約束して・・」目が潤んでいた。

「・・死なないで。必ず帰って来て」

6月の終わり 僕は日本を後にした。


―1999年7月―

心臓がバクバクしてた。

管制官やクルーの言葉は頭に入って来ない。

フロリダの宇宙センターは快晴だった。そびえ立つ宇宙船のコクピットに僕はいた。

『5・4・3・2・1・イグニッション!』

ブースターから炎が噴射。

爆発するんじゃないか?と思う程の激しい音と震動が僕らを包む。

『リフトオフ』

そして船はゆっくりと上昇する。

Gがかかる。

僕を含む6人を乗せた宇宙船は大気を引き裂き昇っていく。

日本。 麻美子とその両親はその姿をテレビで観ていた。成功の報を受け喜ぶ。

宇宙船の中。

激しいGが収まり、浮遊感・・無重量。宇宙だ。宇宙だ!

宇宙だ!!!

何の訓練もしていない僕でさえこんなに嬉しい。厳しい訓練に耐えたクルーの気持ちはどんなだろう?何か申し訳ない気もする。

窓の外には地球。本当に地球は青かった。美しかった。

日本が見えた。あそこには麻美子がいる。

ミッションは順調だった。そう、“あれ”が現れるまでは・・・・


この話はフィクションです。実際のNASAはこんな無茶な計画は立てていません。

「UFO迎撃用ムーンベース建設」=謎の円盤UFO(アメリカではなくイギリスの作品)

「火星にスペースキャンプ」=蒼き流星レイズナー 

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